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3 ※
俺はユンファさんの膣から抜きとった指で彼の勃起をやさしく掴んだ。彼は先ほど膣内の刺激で絶頂を迎えたために、彼のそれは少しだけ強ばりがゆるくなっている。――俺はいつもまず彼のことを膣内のほうでイかせた。すると必然的に愛液の分泌が多くなり、また俺の手指にもそのねっとりとしたローションのような液体が絡みつく。いや、ロ ー シ ョ ン の よ う な とはいうが、むしろローションのほうが、ほとんどの場合は愛液を模 して作られているものだろう。
俺はそうしていつも彼の愛液がついたままの手で彼の陰茎を愛するのである。もちろん潤滑油なしにしごいても悪くはないのだが、潤滑油のあるほうが彼に無理をかけにくいのと、彼になめらかな快感を与えやすいという理由があるためだった。
……そして俺はいつも通り順当に、ユンファさんのゆるまった勃起を愛そうとそれを掴んだが、
「なあもういいよ、…」
とユンファさんはそれを鬱陶 しがって、俺の腕を指先でぴしゃりとはらう。
「だらだらだらだら前戯するのやめてくれないかな。飽きてきた。本当に退屈…もういいから早く挿れてよ」
「わかった」
俺は今回もユンファさんに従うことにした。
……しかし避妊具 を着けていざ挿入したなり、今日の俺はユンファさんが絶頂を遂げそうになると疲れたふりをして止まる。そして彼の高ぶりが低空飛行に切り替わった折にまた動く。それを繰り返した。
「…んっ…♡ んぁ…♡ あっ♡ あっ♡ あっ…♡」
俺の下に組み敷かれているユンファさんは顎を引き、その顎の下にあるTシャツの襟元を両手で掴んでいる。
俺は彼の膝の裏に両腕をとおし、彼のあばらの横あたりに両手を着いて、腰から尻をなめらかにくねらせるよう前後させている。
「……っあ…♡ っあ…♡ っあ…♡ っあ…♡」
さすがのユンファさんもこのときばかりは愛らしく、減らず口をたたくようなこともない。
彼は火照ったその切れ長のまぶたを伏せがちに、切なく端整な眉を寄せている。彼の潤んだ群青色の瞳はうつろである。今彼は、俺の漲 った勃起が律動的に突いている、自分の子宮あたりにばかり意識がいっているのだ。
「……っあ…♡ ……っは…♡ ……ぁ、♡ ……ぁ…♡」
やがてユンファさんの半開きの赤い唇からあがる嬌声が小さくまばらになってゆく。「ん…♡」とその唇が閉ざされる。
彼の眉根の皺が濃くなる。鋭利な眉尻が少し下がる。伏せられている彼の潤んだ群青の瞳の輪郭がとろりと朧気 になる。きゅっとその伏し目が閉ざされる。あふれた涙がこめかみのほうへ伝う。彼は俺に横顔を向ける。Tシャツの襟を掴むその両手がぎゅうっと力む。俺の腕に引っかかっている彼の両膝がやや内側へかたむく。ピンと足首からその生白い足の甲、桃色の爪先までがこわばって伸びる。
「……ぅ……っ♡ ……ッ♡」
――これらは全てユンファさんが絶頂を遂げる瞬間の癖である。
「……っはぁ…は、…ごめんね、疲れて…はぁ、…仕事で疲れているのかな…」
としかし、今日の俺はその度こうして止まった。
「……え…? は…ちょ、ちょっと、おい……」
当然ユンファさんはすれすれのところで止まる俺を、信じられないと睨んでくる。
「い、いや…ちょっと、…っちゃんとしろよもう、…あと、…あともう少し、なのに……最悪……」
ユンファさんは何とかその「あと少し」を得られないと腰をくねらせるが、俺は「ごめん、ちょっと休憩…」などと彼の体内からさっさと退散してしまった。
俺はそういったことを何度も何度も何度も繰り返し、繰り返した果てに――結局俺はその人の肉体が昇りつめる前に事を終えた。
そしてユンファさんは最初こそ俺に悪態をつく余裕もあったが、俺がようやっと射精するという頃にはもう、さすがの彼でもいつもの威勢はすっかりと失われていた。
「…はぁ、はぁ…はぁ…はぁ……」
目元を自分の腕で覆い隠すユンファさんの全身はうす赤くなり、じっとりと玉のような汗が全体に浮かんでいる。おびただしい量の彼のその熱い汗は、下の黄緑色のソファを彼の体を縁どるように深緑に染めていた。また、ことにその深緑が広がっているのは彼のお尻の下である。
寸止めを繰り返されつづけた彼の肉体は火照りに火照らされ、濡れに濡らされていた。赤いといえるほど充血している彼の膣口から抜きとった俺の赤い先端、スキンの精液溜まりのやわい突起から、つーと長い透明な糸が引く。
俺は装着していたスキンを慌てて外し、ぐったりとしているユンファさんの胸板の中央に射精した。
彼の乳首もまたうす赤く火照ったその肌に似つかわしく、薄桃色から濃いピンク色に染まっている。そのうす赤い肌に、濃いピンク色に、白濁した俺の精液がかかる。
「…んっ……え……?」
ユンファさんは自分の胸にかけられた熱い液体に、一旦は何が起こったかわからないと、目元の腕を浮かせて自分の胸元を見下ろした。
――俺は彼と関係している男たちとは違い、彼の膣内に射精することはいつもしなかった(いつもスキンを着用していた)が、かといって彼の体に精液をかけるようなこともしなかった。そのタイミングには必ずそのままスキンの中に射精していたのである。
……やがて自分の胸に何 を かけられているか理解した彼は、気だるそうにとすんと頭を再びソファへ落とし、片腕を目元にもどした。
「……はぁ…あーあ…どうせなら顔射してくれたら興奮したのに……」
ユンファさんはざまあみろというように皮肉っぽく口端を上げ、息切れのさなか、なけなしの嫌味を俺に言い捨てた。――アルファの射精は長い。
俺はお望みどおり、彼の目元にある片腕を乱暴に退けると、その腕を彼の頭上に押さえつけ、「あ…っ」――その赤らんだ美貌にとぷ…とぷと射精を続ける。
「………ク、…んん…っ」
あくまでもあれは嫌味であって本意ではなかったユンファさんは、迷惑そうに眉を顰めながらぎゅっと目を瞑る。その赤らんだ片頬に俺に射精されながら。
「ねえユンファさん…イきたいんじゃないですか」
俺がユンファさんのその美しい顔に勃起をこすりつけながら尋ねると、彼は「ああ…」と低い気だるそうな不機嫌な返事をする。
「イきたい…はぁ…もうおかしくなりそう…」
ユンファさんは「君、男として情けないと思わないのか…? 君だけ満足されても困るんだけど…」と唇を不満げに尖らせ、キッと俺を横目に睨みつけながら、こう俺に凄んでくる。
「悪いけど、さっきの人のほうがよっぽど僕を満足させてくれたよ…。…報復のつもりか何か知らないが…」
「ごめんねユンファさん…違うんだ。報復なんてまさか…このえっちはただの前座だよ」
と俺は微笑みながら答える。
ユンファさんは「前座…?」とそれを訝 った。
「そう…今日は結婚記念日でしょう、だから貴方には特別なプレゼントを用意しているんだ。もちろんこれで終わりではない。――寝室でたくさんイかせてあげるから、二回戦しませんか。」
「…どうかな…」とユンファさんは到底俺などには期待できないと目を伏せる。
「…ソンジュのセックスはいつもつまらないし、そもそももう君出しているのに…いつも君は一度しか出来ないじゃないか」
確かに俺は普段一度しかユンファさんとセックスをしない。しかしそれは俺が一度しか出来ないから、というわけではない。それは俺なりに、それこそ今日のように朝から晩まで間男の相手をしている彼の肉体的な疲労を慮 ってのことだった。
「大丈夫、今日は頑張るよ。…今日はちょっと俺の趣味に付き合ってくださいませんか。――実は、それが貴方への俺からのプレゼントなんですよ」
「……、まあいいけど…? じゃあ楽しませてよ…」
俺はこのときを待っていたのである。
――俺はユンファさんと寝室に来た。
今ユンファさんはベッドの上、その全身を拘束されている。もちろん俺が彼に拘束具をはめたのだ。あの紙袋の中身とはこれである。
まず俺は彼のその両方の手首に黒革の手枷をはめ、ベッドヘッドに固定した。
また黒い首輪をはめられたユンファさんの、その両腿にも黒革のベルトをはめた。その両方の腿のベルトと首輪とはチェーンで繋がっている。否が応でもいわゆるM字開脚のポーズを強いられる拘束具だった。
そしてユンファさんの乳首には吸引型のローターをつけた。これはちゅっと吸われている中で立った乳頭の先を、ザラザラとした舌がランダムな動きで舐め回しながらブルブル振動するようなものである。
ところが呑気 な彼は、俺にこうして全身の自由を奪われてもなお「君こんな趣味があったの? やっぱり変態だったんだ」と、俺のことを馬鹿にして笑っていた。
「……っん、♡ …ッぅあぁ……っ!♡」
しかし俺が一切の愛撫もせず一気に挿入すると、ユンファさんは腰を浮かせて目を細め、眉を顰めた。
一見快感に呑まれているような顔だが、その顔はどちらかというと痛みを覚えて歪んでいるのである。もちろん彼の膣内はつい先ほどまでの情交によってぬかるんだまま、挿入においてもぬるんと容易かった。
「……ぁ、♡ …っあ、♡ っや……ソンジュ、ソンジュ、どうし…どうして、…どうして……」
ユンファさんは俺に激しく揺さぶられながら、顰めた顔を「どうして、どうして」と左右に振った。
「何がどうして…?」
「…こ…こんな、こと……今まで、なか…っ」
ユンファさんの「どうして」の理由は、俺が彼に愛撫もなくいきなり挿入をしたことに対してである。俺はついぞそのような身勝手な行為を彼にした試しがなかった。いつも彼に何かしらの愛撫をしてから挿入をしてきたのである。俺は彼の「どうして」に、鼻を明かしたような愉快な気分になった。
「はは、嫌なの…? お望み通りの乱暴なセックスじゃないか」
「…ち…違う、っい、嫌なんじゃ…ぁ、♡ いっ嫌なんじゃ、なくて……うっ…♡ おっ驚いただけで、…」
しかしユンファさんは斜 に困惑と苛立ちの綯交 ぜになった険しい顔を伏せ、目をぎゅっと瞑る。
「じゃあ何…?」
「……く、♡ ……ッ♡ ……ん、…ん…ッ♡ ふ…〜〜〜ッ♡」
ユンファさんは迫りくる快感に体を強張らせて耐えている。
ギコギコ、ギコギコとベッドのスプリングがうめき声をあげる。そうしているうちに、彼が先ほど遂げられなかった絶頂の赤らんだ埋 み火 へ、ゆらゆらと俺の動きのせいで危うく雫をゆらす一滴の水が落ちてしまいそうだ。――それが落ちれば弾ける。
ユンファさんはそれに抵抗するよう腰の裏を上げるようにして反らせ、上がっている二の腕に片頬をこすりつけながら、眉を顰めたままの薄目で俺のことを見上げる。
「……ぁ、♡ ぁ、♡ いやっ嫌だ、…いや、イ、ィく……」
いつも通り絶頂寸前の癖で眉尻をさげて俺を見るユンファさんのその瞳は、しかし、めずらしく懇願めいて弱々しく濡れていた。
「どうぞ、…イきたかったのでしょう」
「……ゃ、…〜〜〜ッ!♡♡」
再びぎゅっと目を瞑った彼の腰が、ビクンッと大きく跳ねた。――
俺はお望み通りユンファさんをイかせてやった。
まずは自分の肉体で何度も何度も――今度ははじめからその美貌にたっぷりと射精して汚してやった――そして自分が疲れたあとはオナホで一滴も白濁が出なくなるまで、次には彼のお気に入りのバイブを突っ込んで、電気マッサージャーで、とにかく何度も何度も何度もしつこくユンファさんをイかせてやった。
ユンファさんが満足するまで、いや満足してもなお「ごめんなさい…ごめんなさ、! ソンジュ以外もう要らない、要らないから、もう嫌、もうイかせないで…!」と彼が辛そうに泣いてしまうまでたっぷりと気持ち良くしてあげた。もちろんこのセリフは、俺がこれ以上の責め苦をやめてほしいならこう言えと指示したものである。
「じゃあおやすみなさい、ユンファさん」
俺は寝室を後にしようとしながら、ユンファさんに夜の挨拶をした。すると彼は俺の背後で「えっ」と驚いた声をあげる。
「まっ…待って、待ってよソンジュ、ねえ待って、…僕…このまま――?」
俺は顔を横へ向けて背後を見た。ベッドの上にいるユンファさんの絶望した顔が見える。
俺は再度「おやすみなさい」と声をかけて寝室の扉を閉め、その部屋から去った。――ユンファさんの全身の拘束の一切を解かず、彼の精液まみれの顔を拭かず、彼の乳首のローターはもとより彼の陰茎の裏にローターを貼り付けたまま、また挿入されたままのバイブを拘束バンドで固定したままに、彼を一人ベッドの上に置いて。
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