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16 ※微
俺はユンファさんをうしろから抱きしめたまま、彼とのキスを楽しんだ。
まずは彼のぷっくりとした下唇の口角から自分の唇で挟 み、ゆっくり…じっくりと、彼のやわらかい唇を絞りとるように動かした。
するとユンファさんの唇が俺の上唇と下唇とをはむ…と食み、それを合図に、お互いし な をつけたなめらかな首の押し引きの動きを加え、二つの唇は互いをゆったりとやさしげに食みあい、軽い戯 れ合いのようになる。
俺はユンファさんの唇に夢中になった。
彼の唇はその形もつい見惚れるほど整っていた。上下ともにぷっくり、たっぷりとした嵩 のあるその唇はほんのりとわずかな青味、またはわずかな紫味を帯びた凄艶 な赤色をしている。
上下の唇の幅は狭いほうだったが、だから余計に縦の厚みが際だって愛らしかった。上唇上部の中央の二つの山はくっきりとしている。下唇はぽってりとふくらんでいる。まるでモチーフとしての(口紅の跡としての)キスマークのように官能的に形の整った唇だ。
そして、そのように見た目にしろ唆 られる豊艶 なユンファさんの唇は、その感触までもが完璧な肉感をもっていた。――ふっくらとした上下の唇はそのふくよかな見た目どおり驚くほどぷにぷにとやわらかく、またしっとりと湿潤 なその唇は俺の唇と組み合わさるたび、俺の唇の表皮にぺったりと吸いついては名残惜しそうにゆっくりと離れ、俺の衝動性を高める快感を与えながらも、更にこの唇に吸い付きたくなる、追いかけたくなる切情をも俺に与えた。
……ユンファさんのこの唇を知ってしまうと、俺はもう二度と他の唇、特に薄い唇とのキスは楽しめないと思った。
決してそうではないのに、薄い唇が貧相だとさえ思えてしまった。
この豊満な唇はそれほど善 かった。たっぷりと潤沢な蜜で熟れた大ぶりな果実に食らいつけば、やがて甘くとも小さい果実には見向きもしなくなるようなものである。――大小二つの同じ苺 でも味が同じか、あるいは大きいほうが更に甘いとしたなら、誰だって大きいほうの苺を取るようなものである。
五分以上も俺たちはじっくりと唇を交わしあっていた。二人の唇は、あの白と黒のタバコのフィルターに塗り込められた甘味料で甘くなっていた。たまたまどちらもフィルターに甘味を浸潤 させた造りのタバコだったのである。
俺がユンファさんのうなじを押さえつけ、次第にどちらともつかない唾液で濡れはじめた唇で、ぬるぬるとした潤滑にまかせて彼の唇をなめらかに、しかし一瞬でも唇同士が離れることを名残惜しがるようなじっくりとした動きで揉 んでいると、俺が片手をおいている、その人の薄い柔膚 の下に詰まった硬い腹筋がピクとした。
ユンファさんのバスローブの袖 を捨てた片腕があがり、その人の片手が俺の後ろ頭を押さえつけてくる。
……彼のやわらかい濡れた唇がもっと俺の唇に密着し、力強い一方的な激しさで俺の唇をあむあむと息つく間もなく食んでくる。――気脈 を通じた俺の唇も精力的にうごき、お互い我先に、我先にと息を合わせようともしなくなった柔らかい二つの唇は、やがてその形をさえ保てないで潰れめくれながらも乱れ合い、もつれ合い、相手の猛攻のなかでもお互いに取り込もうと攻め合う。
ユンファさんのお腹においた俺の片手を取った彼の手は、するするとそのなめらかな肌を俺に撫でさせながら上らせる――そして彼の平たい片胸を俺の手のひらに包ませ、そこで彼は俺の手の甲に手のひらをかぶせ、ぐっと押さえつけてくる。
――俺の手のひらにユンファさんの凝 った乳首の先がぷにと刺さり、なかばその弾力のある乳頭は圧に潰れる。…その高鳴りのいちじるしい左胸に招 ぜられた俺の片手は、招 かれた意味を察して手のひらを波打たせるようにまったりと、そこの手に吸い付くようななめらかなやわい肌と、その薄い皮膚の下のハリのある平坦な筋肉を揉みしだく。
「……ん…♡ ……」
と上ずったわずかな鼻声をもらしたユンファさんが、俺の波打つ手の甲をやさしく四本の爪先で引っ掻いてきた。彼の唇の勢いが弱まる。感じているからだ。――にわかにその人のうなじにかぶせた俺の手に力が入り、その肉厚な唇の下にある前歯の堅さを感じるほどぐっと唇を押し付けた俺は、あいかわらず攻奪 の勢いで彼の唇を揉捻 しながらも、さりげなく自分の下唇にゆるんだ幅のある舌先をかぶせた。
何度かそのまま彼の唇を食むと、彼は俺のその舌先を甘い舌先でちろちろと舐めて、俺にわざと隙を与える。俺の舌はその誘いに乗らない。焦らして彼の唇ごとその甘い桃の舌先を、この上唇と舌先で食む。
「……んん…♡ ……んぅ…♡」
ユンファさんが悩ましい声をあげる。
俺の後ろ髪が艶めかしい彼の長い指にかき乱される。――俺は彼の片胸を揉んでいた手を浮かせ、ぷにとその勃った乳頭を中指と親指で形の変わらない程度優しくつまんだ。
ビク、とそれだけで彼は腰から上を弾ませ、俺がさらに指の腹で挟んだ乳頭をそのままくりくりと擦 りあわせると、ビクッ…ビクッとその人の上半身が断続的に弾む。
す…と顎を引いたユンファさんが、恍然 と潤んだ切ない半目開きで俺の目をじっと見つめてくる。やや厚めに唾液をまとった彼の赤い唇は薄く開き、よりぽってりとした艶を放つその唇をわずかに動かして俺の目をその艶に誘いながら、小声でこう言う。
「…キスばっかりじゃ嫌…、もっと気持ちいいこと…んっ…」
にわかに俺の唇が彼の唇を押しつぶす。
……「ん、…んぅ…」とユンファさんは憂悶 な声をもらす。意気揚々と進撃してきた俺の舌に、自分の舌を撹乱 されているからだ。
しかし俺を恍惚へと誘 うように、ユンファさんの舌もやがて柔媚 なねっとりとした動きで絡みついてきた。
彼のややざらつきのある舌の腹が、彼の舌を捕らえようにも行き迷う俺の舌の裏をこする。ざらざら、ぬるぬるとした彼の舌の腹が俺の舌裏をこすりながら、その人のハリのあるやわい舌先が俺の舌の側面を奥から先へ向けてなぞる。彼の舌の艶めかしい質感と動きを感じているうちに、俺の舌は彼の舌ににゅるりと掴まれ、なめらかに腹から先まで絞られたが――俺は唇の左右の角度を変え、翻然 とやり返す。
そうして蛇の交尾のように濃厚に絡み合った二つの舌が、桃の香の甘露の池の中、お互いの身の柔らかい鱗 を削ぎとらんばかりに激しくもつれ合い、それだのにある秩序をもってお互いに身を絡ませあう。――その口づけのもの狂わしさは、俺がユンファさんのバスローブ越しにすりすりと擦りつける硬変した陰茎にも、また俺の片手がまさぐる、ユンファさんの下着に囚われたままのその隆々とした勃起にも証明されていた。
「……ん、♡ …んん…っ♡」
彼の薄いボクサーパンツの生地にもその長い形は硬く顕著に浮き上がっており、布越しでもその熱 りの甚 だしい温度が俺の手に伝わってくる。
俺は生地の上から彼のそれをにぎり、軽くこすこすと上下に擦った。すると自ずから彼の腰が貪淫 に上下に動く。その結果、俺の下着におさめられた勃起もまたバスローブ越しの彼のお尻に上下にこす、こすと擦られる。
「……は…」と唇を離したユンファさんが、甘いキスに酔ったかのような虚ろな酔眼 で俺の目を見つめてくる。はぁ…はぁ…と半開きのその赤く濡れた唇からもれ聞こえてくる吐息は上ずり、それそのものが嬌声のような響きがある。
……ユンファさんの赤紫色の瞳の表面に均一にまとわれた涙の蜜は、その人の透きとおる二つの赤紫の瞳そのものを、やわらかそうな澄明 な半球状の蜜の塊と見せ、その瞳を取り囲む青白かった白目にほのかに差した薄桃色が、よりその潤んだ赤紫色の瞳の妖しげな可憐さを引き立てている。
「…綺麗だ…」
俺のこれはほとんど呟いたような賛美だった。
……俺はその濡れた赤紫色の瞳にじっと魅入 りながら、彼の下着の中で逆向きの弓なりになり、その下着の布を少し浮かせている彼の勃起の、その裏筋を布越しに何度もゆっくりと上下にさする。――ユンファさんのまぶたが物憂げにゆるまる。
「……ぅ…♡ ……ッぁ…♡ …ぁ…♡」
ユンファさんはそのうっとりとした半目開きの目で俺の目をうっとり見つめ、俺の後ろ頭をやさしくまさぐってくる。そして腰をうねらせるようにして、そのお尻で俺の勃起を官能的に刺激してくる。
彼がもっと目を伏せた。彼の半開きの赤い唇が、はむ…と俺の下唇を咥えてはちゅうと甘えるように吸い付いてくる。
俺は彼の上下の唇に唇を合わせ、じっくりと優しく、あむ…と一度その唇をつまむように食む。
はぁ…とお互いの唇が甘やかな息を吐き、お互いの唇にさらなる湿り気を与え合う。
俺たちは再び恍惚と見つめあう。
「…貴方を俺だけのものにしたい…、構わない…?」
と俺がたらし込む男の囁き声を、彼の半開きの赤い唇に触れさせると、ユンファさんのその恍惚とした表情は何ら変わらないが、彼は甘えたような上ずった小声でこう言う。
「……貴方は…罪を犯せる…?」
「……罪…?」
俺はその甘美な言葉に自然と微笑んだ。
ユンファさんはあえかな恍惚とした表情のまま、甘く切ない男の声でこう続ける。
「僕なんかを愛すること自体が罪なんです…、それに…罪の一つも犯せない安全な男なんか、僕は愛せませんから……」
「…貴方のためならば喜んで…人殺しでも何でも、貴方の仰 せのままに…」
俺は優しげに微笑していたことだろう。その優しさは俺のある自信からくるものだった。――ユンファさんを勝ち取るためならば、俺は何だってしてやる、何だってできると自信を持って考えていたのだ。
ユンファさんがとろんとした目で俺の目を見つめながら、少しだけ口角を上げる。
「……酔狂 な男…。僕を愛するなって言ったじゃないですか…、折角警告をしてやったのに…――そんなに後悔したいのか…?」
「……ええしたいです、とてもね…、……」
甘い目に甘い声のくせに、と俺はこの悪い美男子の甘美さにより生真面目な熱望を胸に抱いた。必ずやこの美男子を俺だけのものにする、必ずや俺はこの妖艶な美貌の男と結婚する。
……俺の目はじっと蕩 めいたユンファさんの目を見つめる。獲物の動きに目を凝 らした獣のように、むずむずと動きたがる体を伏せ、今にも飛びかかりたい獲物に隙が生まれるのをじっと待っている獣のように、俺は彼が目を逸らすタイミングを待った。
しかし相手は兎 や鼠 ではなく、俺と同じ獣だった。
獣同士の対峙した瞳はどちらも目を逸らしたほうが負けと知っていた。それだから俺の鋭い眼光を宿した水色の瞳も、彼のとろけた艶気 のある赤紫色の瞳も、相手の目が逸らされることをじっと待って、しばらくただ見つめあっていた。
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