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19 ※

                 そのあとはもちろん、俺は喜々としてユンファさんと一つになるため彼をベッドに上げた。  ――ユンファさんはベッドの上で四つん這いになり、ふかふかの枕に片頬を押し付けている。    俺が「バックでしよう」と言ったのだ。  ……なぜかといえば、バックが一番挿入しやすい体位だからである。――アルファ属の俺の勃起は並外れた太さと長さがあるので、初めて抱く相手に対しては、俺は最初は必ずバックで挿入をすると決めていた。    ただ惚れている男、それもあわよくば落としたいと思っている男を初めて抱くのだから、俺の理想としてはもちろん正常位だった。――しかしその体位は愛を深めるにもっともふさわしいその一方で、人によって異なる相手の挿入部(膣やアナル)の位置や構造がわかりにくいことや、挿入の角度的にもややコツを要することから、やはり初めての相手に挿入をするにおいては相手の挿入部があらわであり、またほぼ垂直に挿入できるバックが望ましい。    さて、俺の目の前にはユンファさんの真っ白なお尻がある。――彼の肌は全身涼月(りょうげつ)でできているかのような、青味がかった涼しい透明感のある生白い色をしていた。また細身にして生白いそのお尻ばかりは上にぷりっと引き上がっていながらもボリュームがあり、どちらかといえば大きいお尻といって差し支えない。    その細い腰からつづく、ぽってりと大きいこのお尻は俺の狂惑(きょくわく)を誘うようだった。腰が細く尻が大きい男とは、やはりいかにも俺の理想的な男体(なんたい)である。  またユンファさんは性器においても、つくづく賛嘆されるべき神秘的な綺麗な性器をもっていた。    生白い彼のお尻の割れ目をそっとひらけば、俺の目に飛びこんでくるその濃いピンク色のやや縦に割れたアナルは、まるで白桃の種のようである(しかしこれは平常状態ではなく、彼は俺と会う前にここを使い込んでから来たので、このときはたまたま充血していた。普段は桃色である)。  縁ばかりが濃いピンク色に色づいたそのアナルはつやつやと濡れており、そのアナルから外側へむけて薄桃色へグラデーションし、その薄桃色は青味の白へとグラデーションしてゆく。――またそのアナルのすぐ下には薄桃色の大陰唇(だいいんしん)が短く縦に、そのあいだに桃色の濡れた膣口がある。小陰唇(しょういんしん)はない。    ユンファさんの豊沢(ほうたく)な膣口はそれとはいえ穴というよりか、ぽってりと柔らかそうな桃色の肉がみっちりといくつか組み合わされているようだった。――そしてその膣口から下、あわい薄桃色の大陰唇からつづいて垂れ下がる白っぽいこぶりな陰嚢、そして薄桃色の陰茎へとつづく。――雪のように真っ白なお尻の奥にひそんだ彼の瑞々しい桃色は、そのコントラストの目の冴えるような神々(こうごう)しい美しさと可憐さをもって、あたかも俺の望んできた奇跡をそこに顕現させていた。    ユンファさんはその顔のみならず、その肉体のどこにおいても本当に綺麗だった。――なお彼はもとより誰にも言えたことではないが、実をいえば、俺は彼のこの美しい性器を目の当たりにして、より一層その人を手に入れたいと強く思っていた。唯一無二と思われるほど綺麗だったのである。   「わぁ…ユエさんのここ、凄く綺麗ですね…」    俺が遠慮なくユンファさんの膣口を両方の親指でひらき、彼の綺麗なそのあたりをしげしげと観察しながら感動していると、彼はくぱ…くぱとその入り口をきゅっと閉ざしては少し入り込めそうな隙間を見せながら、   「…あの、もう挿れてください…」と恥ずかしそうに俺を急かした。  ユンファさんの華は見るからに、そのなかの奥にある蜜腺から溢れるほどたっぷりと花蜜を分泌して濡れていた。かといってすぐに挿入することはできない、と考えた俺はまず、その桃色の膣口を舌先でチロチロくすぐる。   「……ぁ、♡ …ん、♡ 〜〜〜っ♡♡」    するとユンファさんの腰がビクッとすこし丸まっては反れ、またビクビクッと丸まっては反れる。   「…ぁ…ッそ、ソンジュさ、…そこ…」    ユンファさんのか細い声が「だめ…」と言うなり、すぐ「舐め、ちゃ……」   「…だめ…舐めちゃ、駄目…今日、ここに来る前…」   「…大丈夫ですよ、気にしないで…、……」    俺はユンファさんが言わんとしていることをわかっていて、つかんでいる彼の尻たぶの両方をゆっくりと揉みしだきながら、その潤った桃色の膣口の隙間に舌先を差し込み――にゅぷぷぷ…と尖らせた舌をゆっくりと這い込ませてゆく。   「……ンッ♡ …〜〜〜っだ、だめ……」    ビクッと彼の腰が跳ね、ゾクゾクと彼のお尻のなめらかな肌がたちまちざらついた。  俺は喜んでhoney eaterとなった。ユンファさんが「駄目」と言った理由の苦味が俺の味蕾(みらい)を刺激してきたが、それにも増して濃い桃の果汁のような彼本来の甘味に興奮し、俺は彼の蜜が溜まった水沢(すいたく)の堀の中を夢中で舐める。    手前にあるリング状のザラザラとした前立腺をぐるりと一周、二周と舌先でなぞってみたり、その奥の無数のヒダを舌先で撫でて弾いてみたり、やわらかくぷるぷるとした粘膜を舌先で押してみたり、みっちりと組み合わさる肉と肉のあいだに舌先を差し込んで左右に動かしこすってみたりした。  ……すると深く入りこんだ俺の舌の根本あたりがぎゅっと彼の膣口で締め付けられ、面白いとも興奮するとも思ったが、噛み付いてきた膣口から先の肉が子宮口へ向けてウェーブするように俺の舌を揉んでくる。   「……ッ♡ …は…ん、♡ ……ッふ、♡ …ふク、♡」    ユンファさんは声を堪えているのか、折々ビクビクとその体を甘く反応はさせたが、あまりしどけないというほどには艶っぽい声をあげない。――俺がそうして執拗なほど彼の甘い膣内を舐めまわしていると、彼は自ら腰をゆら、ゆらと前後させはじめた。  とはいえ、それは彼の意図的な動きであった。    驚いて固まった俺に、ユンファさんは俺の舌をその膣でしごきながら、こうした淫らな挑発的なことを言ってきた。   「…僕のザーメン入りのまんこ、そんなに美味しいですか…?」   「……はは…、……」    俺が笑ってしまった理由は、実際ほんとうに彼のそこが美味しかったからである。    俺は以前にもオメガの男をさんざん抱いておきながら、ユンファさんの甘い肌や体液や美しい体に驚嘆していた。  例えばベータ属やアルファ属の性器を口にして、お世辞やあるいは気分を盛り上げるために「美味しい」と言うことはあれど、では実際味覚的に「美味しい」のかといえば、(興奮する味という意味では美味しいといえるのかもしれないが)、もちろん美味しいというわけではない。    ところが元より体液に甘味をもつオメガ属のユンファさんの愛液は(あまりもう精液の味や匂いは残っていなかったというのもあり)、実際ほんとうに桃の果汁を煮詰めたかのような濃い甘味があり、また匂いのほうもやや渋みのある桃の果実の甘い匂いがその果実さながらに香っていた。――要するに、桃が嫌いな人でもない限りは誰もが「美味しい」という香味なのである。  もちろん人が彼の愛液を「美味しい」といえるかどうかは、本物の桃を食するよりもよほどハードルの高い、人の性器を舐めるという行為に忌避感がなければ、という話にはなってくるのだが。    俺はやおら舌を抜きとった。  俺の舌先と彼の桃色の膣口のあいだに唾液か彼の愛液かがつーと下へたわみながら引き、すぐにぷつんと切れ――それが張りついた彼の膣口の中からもこぷ…っと透明な液体がおだやかに溢れると、その下の白い陰嚢へゆっくりと垂れてゆく。淫らな情景だった。  ……俺はその場所に中指の先をあてがい、ぬるぬるとこすった。ぷにぷにとして熱い。――つぷぷ…とゆっくり挿入してゆく。   「……んっ…♡ な、何しているんですか、…」   「……? 何って…(ほぐ)さないと」   「……は…?」    ユンファさんは訝しそうだった。   「でももう濡れて…ぁ…♡ 別に、必要、ないです…」    と何か焦れったそうなセリフを言うわり、彼のその声はしっとりとした吐息がたっぷりと含まれていた。  指一本を押し引きする。彼の膣内はやはり(せま)かった。俺の中指一本にさえ食らいついて盛り上がる膣口はもちろん、一本の指でさえ圧するこの肉壁には、本当に俺が入り込める隙があるのかと疑問に思ったほどである。  はぁ…はぁ…はぁ…とユンファさんの息だわしい短く速くなった呼吸音が聞こえてくる。これはたしかに彼の体の準備が整っている証である。    しかし俺はまだ、と一旦指を抜きとり、自分の長い中指に薬指を添えた。指を二本に増やしてみようと思ったのだ。    ――しかし指が抜けたその隙に、ユンファさんは自らその生白いお尻をかき分けると、自分の膣口をひらいて俺に差し出してきた。   「…どうぞ…。どうか僕のまんこに、ご主人様のナマのおちんぽを挿れてください……」   「……、…」    俺は固まった。      ご主人様――?      俺は突然絶世の美人にマゾヒスティックな献身をされたように感じたが――土壇場ではなお興奮もしてしまったが――それと同時に、唐突に「ご主人様」と呼ばれた俺は、何と答えるべきか迷ってしまった。  ……しかし俺は次の瞬間には「わかりました」と答えた。    そして興奮もいよいよ冷めやらぬプラトー期から、俺はすぐさま羽織っているばかりのバスローブのポケットに忍ばせていたスキンの個包装を取り出し、つまむようにしてそれの中身を下へ押しやってから封を切る。……これは慣れたものであった。まさか何百回と繰り返してきたスキンの装着に俺が手こずるはずもなく、俺の勃起はたちまちその薄膜の桃色に色づいた。   「はは…まあ、俺はユエさんの“ご主人様”ではありませんけれど…――あまり焦らしすぎても興醒(きょうざ)めでしょうから、そろそろ挿れますね」    と言いながら、俺は大急ぎで羽織っていたバスローブを脱ぎ捨てた。――ユンファさんはそこでハッとしたらしく、自分の花びらを開いていた両手を枕の上にもどし、枕に顔をうずめた。   「……、す、すみません、つい癖で……」   「癖…?」    俺が聞き返すと、彼はどこか自分の失敗を悔やんでいるようにぼそぼそとこう答える。   「はい、無意識でした…。頭がぼーっとしていたもので…――それにその、僕…実はソンジュさんと会う前に、自分のご主人様と会っていたんです……」   「……、…」    ということは、――と俺に不穏な疑問が生まれた。  ……ということはやはり、過去ではなく、今にもユンファさんにはその「ご主人様」と呼べる人物との繋がりがある。今もなお調教されている最中なのだろう。すると、彼はいつも挿入の際にはあんなことを言っているのだろうか? いや、いつも誰か…その「ご主人様」とやらに、あんなことを言わされているのだろうか?   「…すみません……」   「……、……」    俺は早くも嫉妬していた。  俺の扇情を目的としたセリフだったならばまだしも、「無意識」にああした被虐的なセリフを口にしたというほうが――俺を俺ではなく、先ほどまで会っていた男だと錯覚したというほうが――俺の水面下にある、残虐な暗礁(あんしょう)が水面にその黒い欠片を覗かせる。  しかし、それで暗礁に乗り上げてしまっては元も子もない。…俺の手慣れたサディスティックな攻めというのは、およそこの美男子の嗜好にも合致し、彼とてマゾヒスティックな艶態(えんたい)で返してくるに違いなかった。――しかしそうした極端な嗜好のプレイは、やがては俺が望む「真剣交際」の思わぬ障害物にもなりかねなかった。   「…はは…そういう御趣味、俺も素敵だと思いますよ…――じゃあ、挿れますね…」 「……、…」    ユンファさんは枕に顔をうずめたまま、その顔のとなりにゆるい拳を置いて、何も言わなかった。  ……俺は彼の桃色の膣口に、皮膜におおわれた勃起の先端を擦りつける。するとくちゅくちゅと、スキンの精液だまりが小さい舌のようにちろちろと彼のそこを舐める。   「…あっ……」    としかし、にわかにユンファさんは驚いたように腰をビクンッと跳ねさせ、すばやく腕を立てた。そして彼は俺に振り返り、「あの…」と目を丸くしている。その驚いたような顔は真っ赤に染まっていた。   「……? やっぱり挿れるの、やめます…?」    俺はユンファさんが何に驚いたのかわからず、あるいは挿入を渋られたのかと思った。しかし彼は「いえ、…」と首を横に振り、「そうじゃなくて…」と困惑げに目を伏せながらうなだれた。   「あの…ソンジュさん、ゴム…」   「いえ、もう着けていますよ。何ならご確認いただいても……」   「いやちが、…逆です、…あの、いつの間にゴム着けたんですか…」    このようにユンファさんは、自分の膣口に擦りつけられたその独特な薄膜の感覚に気が付き、むしろ俺がスキンを着けていることに驚いたらしかった。   「……え、逆…? ええ…あの、先ほど着けましたが……あぁ、着けるのが早かったからですか…?」   「…いやそうじゃなくて……何というか……」    うなだれているユンファさんの顔は俺に見えなかったが、しかし、彼が何とも言いがたいほど困惑していることは俺にもよくわかった。しかし彼がなぜ困惑しているのか、それについてはよくわからなかった。  ややあってユンファさんは頭をもたげ、自分の肩越しに俺へ気遣わしげな微笑を振り向かせると、「あの…」   「ゴム着けるかどうか聞いてくれたらよかったのに……折角ですから、別にナマでいいですよ…」   「いえ、そういう訳には。…というか…俺がスキンを着けるのは、もはや貴方に聞くまでもない当然のことでしょう」   「…え…?」    ユンファさんが目を瞠る。  彼は「っでも、…」と何か焦ったように言うと、   「でも僕、ぉ、オメガの男なんですけど…?」   「はい? だから何です。」    きょとんとした俺のこの反応に、ユンファさんが「え」と低い反問をする。   「いやだ、から…僕のまんこ、オメガ男のまんこなんですけど…」   「そうでしょうね。貴方はオメガ男性なんですから」    もはや俺は問答無用と思い、あえて薄膜を外さないまま、いよいよユンファさんの膣口に勃起の先端の焦点をさだめ――ぐっと腰でその一点へ体重をかけた。   「…ァ…♡ ……ッ!」   「……いやこれは、…」    しかし俺は一旦腰を引いた。  亀頭の先端まではにゅぷっと入った。ところが亀頭も一番ふとい中腹までくると、俺にも伝わる固い反発力によって、少なくともおだやかな侵入は拒まれてしまった。    

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