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ちなみに、無事に挿入を終えたそのあと――。
荷物置きのテーブルに腰掛けたユンファさんは、両方のかかとでテーブルの縁 を踏み、その両脚をM字に開いて俺を受け入れている。
……俺は自分の長大な勃起と彼の狭窄な膣とをお互いの形に馴致 させるため、しばらく動かないままに彼の全身を撫でまわしたり、五本の爪先でくる…くるとゆっくり彼の肌のあちこちをかすめたり、彼の乳首や陰茎、耳や首筋を手指や唇や舌で愛撫したりしていたが――次第にお互いの体がお互いの形に順応しはじめると、ともなって余裕の出てきた俺の腰の裏に、男の衝動性が波紋のように疼 きはじめた。
「……は…、……」
と俺の口は、今しがたまであむ…あむと食んでいたユンファさんの唇を放す。俺の両手はユンファさんの汗に濡れた熱い両頬を包みこみ、そのとろめいた切れ長の目と見つめ合いながら、両の親指の腹で彼の頬骨あたりをすり…すりと撫でる。
「……はぁ…、はぁ……」
とユンファさんがあえかな呼吸を口でしている。
俺の目を半目開きの紺色の瞳で見つめてくるユンファさんの、その一センチほどにひらかれた赤い豊艶な唇が、俺の唇を手招くような濡れた吐息を吐きかけてくるのだ。
……ユンファさんは挿入を終えてもいまだ動き出さない俺に、ひたすらに優しい愛撫で全身を甘やかされているうち、何かその恍惚とした表情の度合いをほとんど酔眼朦朧 というほどにさせていた。
「……動いても大丈夫そうですか…?」
と俺が尋ねると、
「……、…」
ユンファさんは俺の目を、潤んだ紺色の瞳で見つめながらコクと浅く頷いた。
……俺は彼の両頬を包みこんだまま、それによって俺の火照った水色の瞳と、彼の紺色の瞳の視線を結びつけ――まずは様子見で、極あさい微動から始める。
突くというよりはわずかに前後にずらす、というような動きである。
「……ぁ…♡ ………ぁ…♡ ……ぁぁ…♡」
するとユンファさんがその秀麗な黒眉をそっと切なく寄せ、恋い焦がれるあまり忍び泣いているような紺色の瞳で俺の目を見つめてくる。ゾクゾクと俺のうなじの下あたりに鳥肌が立った。何て愛おしくなる眼差しだ、と俺は食い入るようにその哀艶 の瞳を見つめた――が、しかし没入するあまり荒々しくしそうだとハッとした危機感を覚え、ややあってからあえて引きで彼の顔を眺める。
彼の甘くひらかれたままの赤い唇はぽってりと濡れそぼり、彼のあんなに白かった頬と鼻先にはにじんだ可憐な桃色が差して、うす赤いその顔にはまんべんなくかいた汗のせいでこと通った鼻筋や高い鼻先、切れ長のゆるんだまぶたの中央や切れた形の目頭、そして肉厚な赤い唇のM字の輪郭に、真珠のそれのようななめらかな艶気 が生まれていた。
羞花閉月 とさえいって溢美 ではない美しさだった。
「……ぁ…♡ …ぁ…♡ …ぁ……♡」
「……、…」
それもユンファさんの両手は、まるで俺に甘えるように俺の二の腕をか弱い力で掴んできた。いや、掴んだというよりかもはや手のひらを纏 わせたというようであった。
――ところが俺はまた嫉妬をしていた。
「ユンファさんは…抱かれる男みんなに、そんなに可愛い顔をしているの…?」
このような艶めかしいユンファさんの表情を見た男は、まさか俺が初めてであるはずもないと、俺は嫉妬をしたのである。――するとユンファさんの臀部 がビクッと収縮し、ともなって、わずかな前後を続ける俺を呑み込んだままの彼の膣内がぎゅうっと締まる。
「…んん……♡」と彼はふと長い黒いまつ毛を伏せて目を閉ざしながら、ふるふる小さく顔を横に振った。
「嘘吐 き…、さっきの貴方の目は、まるで俺に惚れている男の目のようだったよ…。ねえ…好きでもない男に、そういう可愛い顔をしたら駄目でしょう…?」
「……してない…、そんな目…そんな可愛い…顔なんて、僕はしてない…」
嫌そうに少し眉根を寄せ、ユンファさんはそう吐息まじりに言いながらも、やけにきゅうきゅうと膣内を収縮させてうごめかせている。俺は絶え間なく微動を続けながら、はむ…と彼の唇を一度食んだあと、こう拗 ねたように彼の唇に囁く。
「……可愛いから言っているのに……」
「……ぁ、♡」
と俺の両手のなかにあるユンファさんの表情が悩ましげに歪む。俺の両の二の腕にある五本指がそこを指圧し、その閉ざされたまぶたは力み、眉尻が下がり、
「……ッだめィ、……ッ♡」
にわかにぶるぶるとユンファさんのお尻が震え、きゅ、きゅと彼の膣内に甘い収縮が起こった。
……動き出してからまだ一分も経っていない。また俺はそう何度も彼のなかを行き来したわけではない。それも俺の動きはぬ…ぬ…と浅く、まだ様子見のゆっくりとしたものだった。――だのにユンファさんは、軽微とはいえもうイッてしまった。
「はは…もうイッちゃったんですか…? ……」
俺は可愛いなぁと笑いながらも、今度は押しては返す波のような動きで、すこし腰を下げながらやや多めに引いては、上向きに腰の位置をもどしながらずぷ…っと奥まで一気に押し込む。ずぷ……っずぷ……っとその動きを繰り返す。
「……あ…っ♡ …ぁあ……っ♡ …ぁ……っ♡」
「…はぁ、…それに…何て色っぽい声を出すの…?」
なおユンファさんのその快美な艶めかしい声は、俺が彼の陰茎を愛撫していたときのその声とはまた少し違った。
陰茎を愛撫していたときの彼の声は何か口をついて出たかのような、思わずもれ出てしまったかのような調子ではありながら、どこか男の高雅 さがある艶めいた声であったのに対し、この彼の声にはもっと奥の深い繊細な濡れた余韻が、艶めいた幽雅 な響きが含まれていた。――もちろん、どちらも甲乙つけがたい官能的な声である。
いや、むしろ得た快感によってニュアンスの変わる声を出すこの美男子を抱いていることは、このときの俺をもたっぷりと贅沢な気分にさせ、満足させた。
「…ふふ…、……」
俺が満足げに微笑みながら、ずぷ……っずぷ……っと繰り返しのその動きを楽しんでいると、
「…ぁ……!♡ …ぁぁだめ…♡ く…♡ イ、く、♡」
ユンファさんはもっと眉をひそめ、閉ざした艶のあるまぶたにきゅっと力を込めて、やや顎を上げながら、その平たい胸板とお腹をぎこちなく前に突き出す。秀麗 な浮いた喉仏が見える。彼の眉尻が下がる。赤い唇が結ばれる。俺の両腕に引っかかっている彼のふくらはぎが、その白い骨っぽい膝頭が内に向くのにつられて斜めになる。ぴんっと彼の白い足の甲がつま先まで伸びる。
……要するにユンファさんは、またイッたのである。
「……〜〜〜っ♡♡」
ひくっ…ひくっ…とユンファさんの膣口が収縮しては奥まり、俺を奥へときゅうきゅうと吸いあげる。
ビクッ…ビクッと突き出されては引くユンファさんの白いお腹、突き出された彼の白い胸板についた彼の薄桃色だった乳首は、いまや艶やかな桃色となって粒立っている。
「…綺麗だ…、イッている姿も本当に綺麗……」
「……は、…は……」
彼がやや顎を上げたことでより白く見えるようになったその額、鏡の上に取り付けられたライトに照らされてより白く見えるその汗ばんだ額には、迂曲 した何本かの黒髪が張りついている。
その額の下の鮮明な黒の濡れた下がり眉、力んだ白いまぶた、
「………っは…、…ん……」
……ややあって、ユンファさんの黒く長いまつ毛がゆっくりと妖麗 に上がってゆく。
その薄紫色の瞳――その様に見惚 れている俺の目を見つけた彼の瞳、彼のそのぼやけた青味の濃い薄紫色の瞳には、まるで蒼い朧月 のような色っぽい美しさがあった。
その恍惚と潤んだ美しい瞳を見つめながら、はぁ、はぁと少し上ずった胸からの吐息をもらしている彼の赤い唇に、俺はやや傾けた唇を寄せる。
するとユンファさんは少し上がっていた顎を下げ、俺にキスをされると思って、またそっと目をつむったが――しかし焦らしたい俺はキスをしない。
「……ふふ…惚れ惚れしてしまうな…、貴方は本当に綺麗だね……」
キスの代わりに彼の唇を甘い言葉でくすぐりつつ、俺は彼の両頬にある手のひらを下へすべらせる。
するり…しっとりと俺の手に吸い付いてくるなめらかな頬を撫でさげ、彼の首筋を撫でさげ、彼の青年らしい筋肉の丸みをおびた肩を撫でさげて――その脇の下を…あばらを、わき腹を撫でさげ…――腰の骨、前ももを撫でてゆく俺の両手のひらは、彼の骨っぽい膝頭を撫でまわしたあと――M字に開かれているユンファさんの膝の裏に腕を通し、その人の両腿の側面をもった。
今度はユンファさんの奥の子房 の口に、ちょんちょんと俺の雄しべの先端が触れるようにだけ――まるで俺の花粉をつけるようにだけ――速度は速くも「突く」というよりタップをするように動く。
「……ぁ、♡ ……ん、んん…♡ ん…♡」
するともどかしいのか、目をつむったままのユンファさんの眉がもう少し寄り、その顎は斜めに伏せられ、また彼のその腰はなまめかしく捩 られ、もどかしげにくねる。
「…は、…はぁ…♡ はぁ…は…♡ はぁ…♡」
速い小刻みな俺の動きに揺すられながら、ユンファさんは切ない顔をして、ほとんど嬌声めいた上ずった吐息をそのテンポでこぼす。…またおよそ無意識か、俺の二の腕の両方にきゅっとかよわく爪を立ててきた彼の両手は、まるで俺を甘く叱っているようだった。
「……んん…♡ ……ぅ…♡」
「……、はぁ…、……」
――ふと俺が下腹部のくすぐったさに目を下げると、彼の薄桃色の半勃ちの陰茎はくったりと下を向いていた。しかし、俺が動くたびとろ…とろ…と少ない精液をその濡れた桃色の尿道口から垂らしており、俺の迫っては引く下腹部にぴと、ぴととその桃色の亀頭と白濁が糸引きながらくっついては離れる。
……はぁ…はぁ、と俺も口で息はしながら、努めて優しい声をつくり、彼にこう話しかける。
「……気持ちいいですか…大丈夫…? 痛くない…?」
「…は…いた、痛くない…、気持ちぃ…きもち、っよすぎる……」
とユンファさんが目をつむったまま小さな声で答える。
しかし彼は「でも…」と薄目を開けると、ふと俺の目を切ない涙目で見てくる。その潤んだ紺色の瞳が宿す星の光はチラチラとか弱く、あまりにも切願めいている。
「もっと…奥、もっといっぱい突いて…」
「……ふふ…、こうですか…?」
では、と俺は、彼の奥口にちょんちょんと触れさせていただけの先端を、三、四センチ引いては――ずぷ…っとそのやや硬い場所に、やわさのある亀頭がにゅるりとすべって曲がるほど押しつける。
「……は…っぁん…♡ ……んん…♡」
するときゅっと目をつむったユンファさんは下腹部をビクッと痙攣させたが、しかし俺のこの動きはぬちゅ……っぬちゅ……っと鈍 いほど緩徐だ。案の定焦らされたユンファさんが辛そうにこう言う。
「…んぅ…っ♡ っも、もっとガンガン、突いて…!」
「……じゃあ俺の目を見て…?」
と言いながら、俺はユンファさんの唇の凹凸に、自分の唇がぴったりと組み合わさる斜めの角度をもって、二人の唇が触れるすれすれにまで近寄った。
……ほとんどお互いの瞳しか見えない距離である。
「……は、…は……」
「…貴方の瞳は、あまりにも綺麗だ…、……」
その近さで俺の水色の瞳をチラと見たユンファさんの瞳は、この至近距離で見ればなお神秘的であった。
……彼のうす赤いぷっくりとふくよかな下まぶたから微量越えるほどまで、上から差すライトの光によって、彼の上まつげの繊細な毛束の影が落ちている。
そしてそのまつ毛の薄墨 の影の中、たっぷりと涙に濡れている彼のその澄んだ蒼い瞳は、中央のどこまでも色深い黒の瞳孔へ向けて放射線状にひろがる光彩の襞 一本一本が、蒼に光を孕んだ輝きをもっている。
それはまるでレテノールモルフォ蝶の翅 のような、青とも青紫とも取れる金属光沢に近い輝きをもった、あまりにも他に類を見ない神秘的な瞳であった。
俺はあいかわらずぬちゅ……っぬちゅ……っとじっくり動きながら、ユンファさんの奇跡的なほど麗しいその瞳に見惚れつつ、ちゅ…と一度だけ彼の唇を食んだ。はぁ…はぁ…とお互いの唇が、お互いの潤んだ春風に撫でられる。
彼の陶然とした蒼い瞳もまた俺の水色の瞳にじっと魅入っている。ときおりゆっくりとまばたきをしては、俺の水色の瞳がまだ間近にあることに安心したかのように、彼はまた俺の瞳をじっと見つめてくる。
「…はぁ…は、…ぁ……っ♡」
しかし俺はここで彼との約束どおり、篠 を突いた雨のように激しく動き出した。手をかけているユンファさんの両腿を引き寄せ、ぱちゅぱちゅぱちゅと音を立てながら腰から尻をくねらせるように振り、とにかく彼の奥口を平攻めにする。
「…あ…っ♡ …あ…っ♡ …あ…っ♡ …あ…っ♡」
またキスをしようかしまいかというこの距離では、俺がニヤけるほどよく見える。ユンファさんのツリ目のまなじりに切ない涙がたまり、ほんのりとあわい薄桃色にそまった光沢のあるその白目のなか、彼の蒼い瞳がくら、くらと振 れながらも、必死に俺の瞳に焦点を合わせようとしているその様子があまりにもよく見えるのだ。
それはまるで寂れた春霞 の中、その霞 で見えにくい中でも、必死に花の蜜をもとめてたった一匹羽ばたくレテノールモルフォ蝶のような切なく妖しい可愛さだった。
「…あ…っ♡ …あ…っ♡ ……ぁ…♡」
俺の唇がユンファさんの唇に向けて微動すると、彼はそのまぶたをとろんと緩める。しかしまたキスをしない俺に、彼はその瞳を哀しげな藍色に染めて、見つめる俺の目に『キスして…』と訴えかけてくる。
「…は、俺にキスして……」
ところが俺のほうがそう言った。
俺は惚れたユンファさんからキスをしてほしかったのである。
「……ん、♡ …っはぁ…、は…、……」
するとユンファさんは、俺の目を見つめたまま、俺の二の腕にあった自分の手を俺の首もとへもってゆく。そして――俺の首の両側の太い頸動脈 を四本の指先で撫でさすりながら顔をかたむけ、ちゅ…と軽く俺の唇に吸い付いて、すぐに離れた。俺は急所である頸動脈を撫でられると否応なしにぞくぞくとしたが、今はそれがまた快感であった。
ふふ、と笑った俺も同じように、彼の唇にちゅ…と短く吸いつき、また見つめ合う。
「…好きだ…愛してる、ユンファ…」
「…あ、ぁ…♡ …ぁ…♡ あぁ…♡ はぁ……ん…」
ユンファさんは見下ろした俺の唇に、またちゅ…と吸いついてきた。――きっと彼は俺の愛の言葉に応えたつもりなんかなかったろうが、そのように捉えられる甘い口づけに、俺の口角は自然と上がった。
…ふとユンファさんの目が上がり、俺の目に戻ってくる。
「可愛い…、可愛いよユンファ…愛してる…」
俺がそのとろめいたユンファさんの蒼い瞳を見つめたまま、ぱちゅぱちゅと腰を動かしながら愛を囁くと、彼はその腰の裏を突然ぐっと反曲 させる。
「ぁ…♡ ぁ、あぁィ、♡ …ッイッちゃ…!♡」
さっと顎を引いたユンファさんのまぶたはぎゅっと閉ざされ、彼の黒い眉尻は弱々しく下がり、
「……ィ、〜〜〜ッィきそぅ…♡ イッちゃう…あぁイく、♡ だめィ、…だめだめィく、♡ イッ…――ッ♡♡♡」
その曇り声に本能を突き動かされ、俺はまるで催花雨 のようにその人の華を満開にさせようと、殊更 激しく攻め立てた。
――するとユンファさんは、俺の首の側面にかぶせていた両手を俺の首の裏へまわし、俺のうなじをその両腕でぐっと強く抱き寄せてきた。
「……〜〜〜っ!!♡♡♡」
……絶頂のその瞬間にである。
おそらく無意識だった。――俺はユンファさんの背中をぐっと抱き寄せ、愛しさでいっぱいになった胸声 で、「可愛すぎる…」と彼の耳元で呟いた。すると彼はビクンッと、ひと際大きく腰を跳ねさせた。
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