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39 ※
「……ん…、……んん…っ」
これは俺の低い喘ぎ声である。
俺は今ユンファさんの舌、そのややざらつきのある熱いぬるぬるとした舌に首筋や耳を舐められ、彼の片手の指先でくりくりと乳首の先をいじられながら、さらにもう片手では勃起をゆるやかに扱かれている。
しかも俺は今、両方の手首を拘束されていた。
今自分の下腹部においている俺の両手首には、銀 の 手 錠 が嵌 められているのである。
……というのも――先ほど襲いかかるように俺にキスをしてきたユンファさんだったが、俺は彼に押し倒されたというその喜び――愛する美男子に自分が圧倒されるほど求められたという喜び――が次第に強まっていったせいで、もはや体に力が入らなくなってしまった。満更でもない男の浮ついた気持ちは俺をニヤけさせるばかりで、俺はどうもこれ以上彼を拒めなかったのである。
そうしてある意味では諦めた俺とその無抵抗を好機としたユンファさんは、結局はそのまましばらくたっぷりと舌を絡めあい、唾液に濡れたお互いの唇をもみ合って、燃えさかる情欲の勢いのままもつれ合うようなキスを交わしあった。
そしてそうした情熱的なキスのあと、俺の目を至近距離で見下ろしたユンファさんは、妖艶にその切れ長の目をほそめてニヤリとすると――「本当にソンジュは何もしなくていいよ…」と俺の唇に囁いた。
……そう言ったユンファさんが、ベッド下の収納から取り出したもの――それがそう…今俺の両手を拘束している、この銀の手錠だったというわけである。
ちなみに、俺はその銀の手錠を目の前にプランプランとぶら下げられたとき、思わずぎょっとした。
もとよりマゾヒストの嗜好をもつ人であるユンファさんが、それを所有していたということにはさしたる驚きもなかったものの、しかしまさか自分が――マゾヒストたちの両手にそういったものを嵌めたことはあれども、自分は嵌められたことがないサディストの自分が――まさかその銀の手錠、拘束具を嵌められることになろうとは、…当然ともいえるか、俺にはそれを嵌められることにいささかの抵抗感があった。
しかしその抵抗感はいかにも甘美であった。
その甘美な背徳の銀の輝きに目を奪われた俺は、結局大した抵抗もしないまま、ユンファさんの手によってその銀の手錠を両手首にカチリと嵌められた。
なお俺は今、あのベージュのトレンチコートの下に着てきた紺色のフォーマルなベストと、さらにそのベストのしたには白いカッターシャツを身につけている。
もともと下に穿 いていた紺色のスラックス、それを留めていたベルト、そして下着はすべてユンファさんに脱がされたが、衣服を脱ぐまえに手錠を嵌められた俺は、当然ベストとカッターシャツを完全に脱ぐことはできない。
……そのため、今はその紺色のベストとカッターシャツに両腕は通したまま、それらのボタンをすべて外され、前を開けられている――という、俺はいま実に中途半端な状態である。
さて…その状態でユンファさんに組み敷かれ、俺はいま首筋を彼のその熱い舌と唇で愛撫されながら、かたや乳首を弄られ、かたや勃起をする…すると緩やかにしごかれているのだが、
「………、ぁ……はは、…」
俺は笑った。俺の首筋がチク、としたからである。
またユンファさんに悪戯なキスマークをつけられた。…さらにチク、チクとやや距離をあけて、三回彼の唇に咬まれる。
「……んふ…、自分は俺にキスマークをつけられると怒る癖に……」
俺がこう軽い冗談のつもりの嫌味を言うと、ユンファさんの唇がおもむろに俺の耳もとへと寄ってきた。そこで彼は甘ったるいささやき声でこう言う。
「…今は僕の彼氏なんだから、別にいいだろ…?」
「…いや…俺はユンファさんになら、いつだってキスマークをつけられたいんです。むしろ嬉しいですよ…、ただ、フェアではないじゃないですか……」
極まれにだが、ときおり俺の肌を唇で咬んでくるユンファさんは、そのわりに俺が彼の白い肌に唇の痕をのこすといつも怒るのである。…まあ俺がそのたびに「俺たちは付 き 合 い た て の カ ッ プ ル なんだからいいでしょう」なんぞと言うせいもあるだろうが(俺は半ば本気でそのつもりであり、もう半ばは彼の蕩散 のうちに肯定の言質 を引き出せないかという思惑があってそう言っている)、それにしてもユンファさんが良くて俺が駄目とは狡 いではないか。――するとユンファさんが俺の耳もとで「いや…」と、切ない笑みを含ませた声でいう。
「……こういう悪戯は今日で終わりにするよ…、これからはもうつけないから…――はは…だって、ソンジュは僕の彼氏じゃないし……」
やはりあくまでもユンファさんは「今日だけ」、俺の彼氏でいてくれるというつもりらしかった。
実際彼はこの日を境に、俺にキスマークをつけてくれることはなくなった。…とはいえ、それは俺たちが交際するまでのあいだのこと、だったが。――とにかく何かこの日は、彼なりにケジメをつけるための日だったのかもしれない。
……このときの俺も切なくなった。
「……これからもつけてよ…つけてほしい…」
しかし俺のこの切実な声色のセリフを無視したユンファさんは、俺の上にまたがったまま、おもむろに頭を下へ――俺の下半身のほうへ――返し、…いつの間にか何も穿いていなかった、自分の白いお尻を俺の目の前に向けてきた。
俺が目線を上げた先、視界いっぱいにひろがるこの官能的な眺め――彼の真っ白な豊満なおしりは、その全体がてらてらとした妖しい光沢をはなっている。恐らくそのお尻を濡らしているのは、汗ばかりか彼の愛液でもありそうだ。
彼の薄桃のアナルももちろんつやつやとして濡れているが、その人の桃色に赤らんだ膣口は、くぱ…くぱ…とその穴とも言えない柔らかそうな肉をうごめかせ、そのたびに、こぷ…こぷ…と透明な愛液をその肉と肉の隙間からたっぷりと吐き出している。
そして、その愛液は彼の小ぶりなほの白い陰嚢の全体をさえたっぷりと濡らし、その愛液が彼の陰嚢からつーーと細い糸となって俺の象牙色の胸板に垂れてくる。――またその陰嚢の奥、彼の上向きに反れた勃起はぴく、ぴくと時折うなずく。
……ましてや彼の性器まわりが目の前にくると、あくまでも当然ではあるが、その人の桃のタルトのようなこってりと甘い香りがより濃厚に匂 ってくる(フェロモンを分泌するアポクリン汗腺 は性器まわりにも多いのだ)。
そうしてユンファさんは俺にお尻を向けたまま、掴んでいる俺の勃起の亀頭を、熱くややざらついた舌でぺろぺろと猫の毛づくろいの調子で舐めてくる。
「……ん、…っは…――ユンファさん…」
いつにも増して熱いそのぬるぬるの舌は俺の腰をビクつかせたが、俺はその疼くような快感のなかでもあえて彼にこう尋ねた。
「……ユンファさん、どちらを舐めてほしいですか…? 悪いんですが、自分で調整してください…」
俺は折角なのでいわゆる69(シックスナイン)の体位を楽しもうかと思ったのだ。が、もちろんユンファさんには膣と陰茎の二つがある。さらに言えば、俺は今両手を拘束されているので、俺自身にはいずれにしても自分の口と彼の性器とを上手いこと合わせる調整ができそうにもない。
「……んふ…ソンジュはどっちが舐めたいの…?」
とユンファさんは、俺を惑わせるような妖しい笑みを含ませてそう反問する。そして――彼の細い両ももの隙間から出てきたその人の生白い片手、その白い長い人差し指と中指が、くぱ…と桃色の濡れそぼつ膣口をわり開く。
「とろとろ…ぐちゅぐちゅの、おまんこ…?」
ひく…っひく…っと横に引きのばされていながらに、その膣口は口を閉ざそうと奥へすぼまってはゆるみ、そのたびにとろ…とろ…と愛液をこぼす。
「……それとも……」
と、その人の手がする…と奥へ引き、今度は自分の勃起をこす…こすとしごく。くちゅ…くちゅ…と小さい水っぽい音が聞こえる。
「……バキバキあつあつの、おちんぽ…?」
「……、…」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
俺の本音は両 方 だった。欲張りなことにどちらも舐めたい、いや、むしゃぶりつきたい。しかし俺の口はもちろん一つしかない。
いや――俺はやや考えたあと、こう答えた。
「…じゃあ…膣の方で…」
と、しかしユンファさんは「んふ…」と俺をからかうような妖艶な含み笑いをこぼすと、「違うだろ…?」と甘い声で俺を叱る。
「…ユ ン フ ァ さ ん の お ま ん こ …だろ…。ふふふ…――ほら、恥ずかしがらずに言ってごらん青年…? “ユンファさんのいやらしいぬれぬれおまんこ、俺に舐めさせて”……」
「……、…」
正直その要望に応えるにはいささかの抵抗があった。俺の耳がかっと熱くなった。これは俺の羞恥心からの息詰まりである。――しかしその羞恥心がまた興奮ともなって、俺はためらいがちな低い掠れ声でその人の要求にこう応える。
「…ユンファさんの…いやらしいぬ、ぬれぬれ…おまんこ、…俺に、舐めさせて……」
あぁ、恥ずかしい。と歓 んで俺の勃起がピクンピクンと根本から歓喜する。
……俺のその羞恥心が伝わったのだろう。するとユンファさんは「ふふ…可愛い…」と色っぽい慈しみの声でいうと、俺の勃起の表にちゅ…とキスをしてから、
「はい、どうぞ青年…」
と、俺の顔にほとんどそのお尻をのせてくる。
すると俺の口に彼のねっとりと濡れた膣口が押しつけられ、俺の胸板にはぴとりと熱くしっとり濡れた彼の勃起が触れて、…この困辱 の状態はしかし、俺の愛する美男子の肉感的なお尻を俺はいま顔いっぱいに味わっているのだと思うと、にわかに俺を欣 ばせた。
「ククク…僕のいやらしいぬれぬれおまんこ、たぁくさん召し上がれ…?」
ユンファさんがそう言いながら俺の唇に、ぬるぬると熱いその膣口を擦りつけてくる。当然そうされてはたちまち俺の口まわりは彼の愛液まみれとなった。
「…ほら、好きなだけぺろぺろしていいんだよ…? おかしいなぁ、ありがとうが聞こえなぁ…っ♡」
俺がその挑発的なセリフのさなかにちゅる…と軽く彼の愛液を吸うと、ぴくん、と彼のお尻が小さく跳ねた。……さらに俺はその膣口にゆっくりと舌を這わせる。ぷるぷるとやわらかい。しかしいつもよりも熱く、またその愛液の味も何か普段にはないこってりとしたミルキーな旨味があり、いつもより甘味も濃い。どことなく桃のミルクシェイクを思わせる味である。
……ぺろー…とそうしてアナルまで舐めあげると、
「…ん、ァぁぁ……!♡」
ぞくぞく…と俺の顔のうえでその人のお尻が震える。
「……、…っ」
俺は笑いをこらえている。
先ほどまであれほど俺のことを可愛い可愛いと侮っていたこ の 年 上 の 綺 麗 な お 兄 さ ん は、しかし今迎えているオメガ排卵期のせいで、それでなくともそうであるというのに、いつも以上の敏感体質となっているようだった。――今度はくちゅくちゅと膣口をあさく穿 るように舌先を動かす。
「…は…ぁ、ぁぁ…っ♡ ぁ…っ♡ ぁ…っ♡」
ビク、ビクビクとユンファさんのお尻が断続的に弾み、いま彼は俺の勃起を握っているだけとなっている。とぷ…とぷ…と溢れてきた彼のあたたかい花蜜が、俺の舌先から舌の腹のうえをつー…と伝って、俺の喉のほうへまで流れ込んでくる。俺は一度口を閉ざし、ゴクンとその濃い甘い花蜜を飲みくだした。
「…ユンファさん…? フェアじゃないよ…、69なんですから、俺のちんぽも舐めて…?」
「…は、ぁ…ごめ…でも、だって……ん…」
ユンファさんは陶然とした声で言い訳をしようとしたが、それの内容を言うまえにぱくんと俺の勃起の亀頭を口にふくむと――いつもならば、じっくりと細部まで舌と唇でそれを愛撫してくる彼らしくなく――ぬるる…と早速、俺の勃起を熱い蒸気とぬるついた唾液で満たされている口内へ押しこんでゆく。
「……ふ…ん…♡ ……んん…♡ …ん…♡」
咽頭まで自ずから俺の勃起を口内におさめた彼は、ちゅる…ちゅぷ…と浅く何度か俺のそれを吸いながら舐め、そのあとはカポカポと音を立てながらはげしく頭を前後させる。いつもより熱くぬかるんだユンファさんの口内、ややざらつきのある舌はたっぷりと唾液に濡れてぬるぬるとし、また彼の唇もにゅるにゅるとして熱くやわらかい。
かぽ、かぽ、かぽ、かぽ、と攻め立ててくるユンファさんの舌は、当然いつもは裏筋に這わされているものが、今は表に這わされている。――その普段とは違う感覚に、俺はユンファさんの膣口と陰嚢のあいだを舐めながら陶酔しているが――彼は最初から猛スピードを出したために疲れたか一旦止まり、にゅるにゅると亀頭から五センチほどの幹まで、そのたっぷりと唾液にまみれた舌をからめてくる。
「……俺のおちんぽ美味しい…?」
「うん…♡ …おいひい…♡ …そんじゅのおひんぽ、…ん…♡ おいひい……♡」
「…ふふ……、……」
やはりいつもよりか素直である。まあ普段は高飛車なユンファさんも、一旦マゾスイッチが入るとこうした返答をしなくもないのだが、それにしても今回はずいぶんと甘い。まるで心からそれが美味しいとでもいうように、彼はそれを舐めながら恍惚とそう言ったのである。――可愛い、と興奮した俺がユンファさんの勃起を掴むと、
「…はあっ♡ …ぁ……っ♡」
……彼の腰がビクンッと大きく跳ねた。
ちなみに俺は、だ か ら 先ほど彼の膣を舐めることを選んだのである。彼の勃起は手錠をされていても愛撫はできるからだ。――ユンファさんの勃起はいつもよりじっとりと熱く、またその硬度や膨張率も普段より高いような気がする。
そして俺がそれをしこしこと扱くと、くちゅくちゅとカウパー液がたまったカリ下と浅い皮とがこすれて小さい音が立つ。
「…あ、あぁいく…っ♡ ぁ……っ♡」
「……、…」
何とその人の宣 言 ど お り の こ と が起きた。ものの何回か扱いただけで、俺が掴むユンファさんの勃起が大きく脈動したのである。
恥骨の根本から尿道口へ向けて大きくドクンッドクンッと波打っている彼の勃起、俺の胸板にぴゅるっぴゅるっと一線状に勢いよく噴き出してきた彼の熱い精液、それから香る桃の果実の芳香、俺の顔のうえでぶるぶると震えながらぎゅっ…ぎゅっ…と収縮する彼のお尻は、アナルへむけてすぼまるようにぎゅっと尻たぶを閉ざしては、またひらくように弛緩 し、また収縮し、弛緩する。
「…ぁ、♡ …ぁーー……♡」
とユンファさんの恍惚とした声が俺の勃起の根本に熱く吐きかけられる。彼は俺のそれをゆるく握ったまま、そこに片頬をついて射精の快感にとろけているらしい。――俺の中にある悪戯心が芽生えた。
……ぴく、ぴくん、と彼のお尻が小さく跳ねている。俺は恐らく精液のしずくが溜まっているのだろう、彼の尿道口を人差し指の先でくちゅくちゅと円 く撫でる。「あっ…♡」とビクついたユンファさんだったが、俺はその指を止めずに、「ユンファさん…?」と叱るような低い声で彼に呼びかける。
「駄目でしょう、自分だけ気持ち良くなっていては……早く俺のちんぽしゃぶってください…」
「…は、♡ ぁ…♡ ぁぅ…♡ ん…♡ うん…ごめ…、ごめんね、ソンジュ…、はぁ……君のおちんぽ、しゃぶってあげるね…? ……」
と俺に亀頭を刺激されながらも、当然俺の勃起をまた咥えようとしたユンファさんだが――俺はその前に「待ってくださいよ」と呆れたふりの低い声を出す。
「…“ユンファお兄さんに、君のおちんちんしゃぶらせて”…でしょう…?」
――これは先ほどの仕返しだ。
「……、もう…変態……」
と甘い声で言いつつ、ユンファさんはお尻をくねらせながら、吐息まじりに俺の仕返しを甘く享受する。
「…ゆ、ユンファお兄さんに…ソンジュくんのおちんちん、しゃぶらせて…?」
「……ふふ…、ところでユンファさんは、俺のおちんちんを舐めながら…自分のどこを、俺に舐めてほしいんでしたっけ…?」
するとユンファさんは「ここ…」と、再び人差し指と中指で自分の膣口をくぱ…と開き、いつもよりも甘ったるい調子でこう言う。
「…ユンファお兄さんのおまんこ、いっぱい舐めてぇ…」
「…ふ、完璧ですよ…本当マゾ…、……」
気が済んだ俺は、まずぺろぺろと彼の膣口を舐める。
するとそれを合図に俺の勃起を咥えたユンファさんが、始めから激しくじゅぽじゅぽじゅぽとそれを吸いこむようにしゃぶりはじめた。――これは大変、と俺は眉間に皺が寄ったが――しかしどうせこうすれば、……とユンファさんの陰茎を扱きながら、その人の膣内の浅いところまで舌先をねじ込み、くすぐるように舌先をくねらせる。
「…んぁ…っ♡ …はっ…はうっ…♡ ぁ…♡ ぁ…♡」
案の定口から俺をだし、それを掴んだままもだえているユンファさんは、――しかしお尻を引いて逃げる。……は、は、と息を弾ませて、彼は「だめ…」と甘い声を出す。
「…だめ…もう、またいっちゃう…、やっぱりおまんこ舐めちゃだめ……」
「…ふ、やっぱり駄目は無しでしょう…?」
と俺が鼻で笑うと、ユンファさんはお尻をくねらせながら、すりすりと掴んだままの俺の勃起に頬ずりしてくる。
「…もうこれが欲しいの……」
「何…?」
俺はわかっていてあえて聞き返した。
するとユンファさんはお尻を揺らしながら、媚びたような甘いわがままの調子でこうねだった。
「…ソンジュのおちんぽ、もうおまんこに欲しい…」
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