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40 ※微

                     俺はベッドの縁に座り、銀の手錠を課せられたままながらも、ベッド下の床に置いていた自分の黒革のショルダーバッグを拾い上げ――それの中から、箱で持ってきていたスキンの個包装を一つ取り出した。  ……この手錠は手首と手首をつなぐチェーンが十センチほどはあるのと、俺の手首に嵌まっている輪っか自体にも多少の空間があるので、もちろん両手の可動域は制限されているにせよ、スキンの個包装の封を切るもそれを着用するも不可能というほどのことはない。  ましてや俺はその一連の動作にはかなり慣れているため、たとえいま手錠が嵌められていようとも、それに関しては俺にとってさしたるハンデともならない。    そうして俺は一つ未開封の真四角のスキンの袋をつまみ、自分のバッグをまた床に戻した。   「…へへ…ソンジュ…?」   「……、…」    しかし、そこで座っている俺の背中に抱きついてきたユンファさんの片手が、俺の手からそれを優しくつまんで取り上げる。――彼の唇が俺の片耳に甘えた声でこう囁く。   「…生でしよ…?」   「……駄目。」    俺は心を鬼にしてふる、と顔を小さく横に振り、「返して」とユンファさんの人差し指と親指の先がつまんでいるスキンの袋を取り返そうとした。しかしそれはひょいっと上がって逃げる。 「…ソンジュは、愛する彼氏のおまんこに生で挿れたくないの…? はは…それで僕が妊娠したら、それこそ僕は、ソンジュだけのものになるかもしれないのになーー…?」   「……、そ、それは………」    俺のこの悩ましい()は、本当ならば許されない間であった。――この瞬間俺の頭に、いくつかの(よこしま)なエゴイスティックな企みが思いうかんだ。  例えばこれで俺がスキンを着用しなくとも、お互いの合意に基づいている行為なのだから俺は何も悪くない、誰にも責められやしないさ、ましてや何も俺がその責任を取らない男というわけでもあるまいし、…あぁきっとこの美男子の膣内は極楽浄土そのものだろう…、例えばこれで俺がこの美男子を妊娠させたなら、俺はこの美男子と一足飛びに結婚、――このいくつかの邪心はしかし、俺の優しげな理性によって制された。   「…だ…駄目ですよ、貴方を愛しているからこそ駄目、そういう冗談はよしてください、…今俺が少しでも間違えてしまったら、それこそユンファさんは本当に、確実に妊娠してしまうんですからね……」    駄目だ。と俺は慌てて自分を律した。  そのような行為をユンファさんに、いや、何よりも自分に許してはならない。  それはともすると俺たちの関係性の崩壊をさえ招きかねない。当然だろう。世間一般においても、相手の妊娠というのは往々にして最高に良い展開に転ぶこともあれば、その真反対の最悪な展開に転ぶこともある。それもその展開というのは非常に極端なものである。中間がない。  そして、少なくともセフレという関係性においては、大体が後者に転ぶものである。    ――ましてや彼は以前、「(俺の子を)妊娠したなら俺とはもう会わない」と言っていた。  あれのどこまでが彼の本気の言葉だったのかはわからないが、しかしユンファさんには、彼ならば本当に()()()()を取りかねないと俺に思わせる、何故とも知れない儚げな、一匹で荒野を彷徨(さまよ)う美しい蝶のような哀愁がある。  これはある種のリスクヘッジとしても、とにかく俺はこの濃くただよう桃とバターの甘い香りの誘惑を断ち切らねばならない。   「…スキン返してください。」    と俺は銀の手錠を課せられたままの片手のひらを上に向け、ちょいちょいと指先を動かし、ユンファさんの指先が摘んでいるスキンの個包装を返してくれるように言った。  しかし俺のこの要求に応えないユンファさんはそのスキンを俺に渡さない。…俺はふと俺の肩の上に顎をおいている彼を見やる。(いさ)めようと思ったのだ。    ユンファさんは艶めいた黒いまつ毛を伏せていた。「だって…」と恍惚とした調子で彼がこう言う。   「…僕が、生で欲しいんだもん…。ソンジュの生のおちんちん…」    とユンファさんが、いまだ何も着用していない俺の天へ向けて反り返る俺の勃起をつかみ、しこ…しこ…と緩やかにしごいてくる。   「…はぁ…これが生で入ってきたら…どんな感じだろう……」   「……ど、どんなって…まあ、その……」    俺がうろたえるとふっと微笑したユンファさんは、相変わらず俺のそれを、陶然とした妖美な伏し目で見下ろしている。彼の瞳は赤紫色に火照っている。   「…今日だけ生でしよ…? 彼氏のソンジュを生で感じたいなー僕……」   「……だ、駄目ですよ…。貴方は本当に(ずる)いな、全く、…むしろ、今日だからこそ駄目……」    俺のこの拒否にはそれらしい勢いが損なわれていた。確実に揺らいでいる男の力ないなけなしの拒否であった。  俺のその隠しきれない男の意志の弱さを横目にチラと一瞥(いちべつ)したなり、ユンファさんは後ろから俺の両肩をもつと、――彼が持っているスキンの個包装の角がチクチクと、カッターシャツの布を越えて俺の肩に甘い棘のように刺さってくる――、俺にその傾いた顔を覗かせて、上機嫌な猫のように目を細めて笑う。   「…ふふ…なんで…?」   「だ、だからそれは、…」   「僕が妊娠しちゃうからか…?」    ユンファさんは俺を妖艶にからかうようにそう言うと、「別にいいじゃん…」と言いながら、手癖のように俺の乳首の先をカリカリと爪先で引っかいてくる。   「…僕のこと、孕ませちゃえば…?」   「……は、…いや、まさかそういうわけには…」   「…はは、そ…。この馬鹿真面目くん……」    と囁いたユンファさんは目を伏せる。彼のその伏し目は、どこか悲しげな翳りがあった。   「まあ所詮、僕はソンジュのセフレだしね…」   「……、ユンファさん…じゃあむしろ――今日生でしたら、貴方、正式に俺と付き合ってくださいます…? その条件ありきならば俺、喜んで今日はスキンを着けずに貴方を……」 「い・や・だ。…わかる? 僕はいつもこうやって男を僕に嵌まらせるんだよ。ふふ……」    と皆まで聞かずして俺の愛の告白をまた拒否したユンファさんはニヤと笑う。そして彼は「それならしょうがないな…」と俺の背から離れ、ベッドから降り、……ベッドに座る俺の開かれた足のあいだに正座しては――彼の白い細長い下半身は裸だが、上半身には薄いニットの黒いハイネックを着たまま――俺を見上げ、こう言いながらにこっと目を細めて笑う。   「…よーし今日は特別だ。今日ソンジュは僕の彼氏だから、…はは、だから今日は、僕がゴムを着けてやるよ。……」    そうして照れくさそうに笑ったユンファさんは、口もとをニヤけさせたままふと目を伏せる。   「……そういえば、ソンジュにやってあげたことなかったか……、……」    そうつぶやくユンファさんの両目ばかりは真剣に、自分の手もと――真四角の透明な個包装のなか、なかの桃色のスキンをにゅるりと親指で下に押しやったあと、ピーッとそれの封を切っている手もと――を見下げている。ウリ専をやっている彼もまた、当然かもしれないが、それの扱いに慣れているようだ。    そしてユンファさんは中のローションに濡れている桃色のスキンを袋から押し出し、それをつまんで取り出してから、ふと目をやった俺のそり返る勃起をもう片手でかるく掴む。――さらに彼は、それの先端にまだリング状の桃色のスキンを乗せる。  そのままスキンを広げてゆく――のかと思いきや、彼の肉厚な赤い唇がスキンの精液だまりをはさむ。   「……、…、…」    俺はドキドキしながら、彼のその艶美な伏せられた黒いまつ毛を見て、そして彼の赤い唇を見て、また彼の長いまつ毛を見てと、落ち着かない視線をチラチラ上下させている。   「……ん…、……」    そうしてユンファさんはそのまま、ぬぬぬ……と俺の勃起をその唇でなぞるようにして、ゆっくりとスキンごと俺のそれを口内へ迎え入れてゆきながら――丸まっているスキンの縁をその唇によって押し広げ、口内にそれを迎え入れてゆくのと同時に、俺の勃起にスキンをかぶせてゆく。   「……、…ぁ、…すみません、…」    うっかり俺は低い艶めいた声を出してしまった。  ぼんやりとその官能的な眺めに見とれていた俺は油断していたのである。ましてや、それでなくとも俺は甚だしい勃起をしているために、その人の唇と舌のやわらかさ、口内の熱さ、さらにはスキンの縁がコロコロと広げられてゆくそのわずかな振動の刺激をも敏感に感じ取り、そうして俺の喉奥からは声がもれ出てしまった。  ……とはいえ俺はいま特に理由もなく謝ったのだった。ただこのような特別感のあるスキンの装着のされ方には、何となく背徳めいた興奮があった。何となしこうしてくれるユンファさんが奉仕的な、服従的な行為を俺にしてくれているように見えたのである。    俺は別に自分の艶めかしい声を恥じているわけでもなければ、そもそも男だろうがバリタチだろうが、性感に恍惚としたならば誰だって声くらい出るものだ、とそう考えている。むしろそれは自然なことであり、特にゲイ同士ならばなおそれは相手を喜ばせる嬌声ともいえよう。  実際俺が「すみません」と謝ると、ユンファさんは俺を咥えたまま、「ふふ…」と慈しむような含み笑いをもらした。   「……っあ、ねえユンファさん、そんな奥まで…」    しかし次の瞬間、俺はまたびっくりした。  ……ユンファさんは俺のアルファ属の長大な勃起を、咽頭のさらに奥へまで自ら突き刺してゆく。その(せま)さと熱さに俺は理性のゆらぎを感じる。「ん、…クッ…、…」とやや苦しげに(うめ)いた彼だが、しかし苦しいからとそれを喉から引き抜こうとはしない。むしろずずず…と更に奥まった喉のその先へ、彼は俺の勃起を差し込んでゆく。   「……、ん、…んん……」    たら…と俺の恥骨に、ユンファさんの粘液質な熱い唾液が垂れてくる。彼の唇は俺のそれの根本の恥骨に押しつけられている。――俺は眉をひそめた。   「……、…、…」    いけない、いけない、駄目だ、絶対に駄目だ。  俺は頭の中で何度もそう自分を律する。――ユンファさんの頭をつかんで腰を突き動かしたい。彼の後頭部をぐっと更に押し、その喉を犯してやりたい。――いけない、いけない、駄目だ、絶対に駄目だ。    ややあって、ぬーー…とユンファさんが唇をすぼめたまま、俺の薄桃に染まった勃起を口内から出してゆく。それは俺にとっての幸いだった。俺の悪い衝動が機を(いっ)したからである。  やがて口からスキンの装着された俺の勃起を抜き出し、彼はたっぷりとリップグロスを塗ったかのように濡れている赤い唇で、「はい、着いたよ…」と微笑した。しかし、その人の俺の目を見上げてくる紫の透きとおった瞳は、じっとりと妖しいか弱い光沢を帯び、依然として俺の加虐性を唆らせる。    絶対に駄目だ。――俺は強いて好青年ぶって、ユンファさんを見下ろしながらニコッと笑った。   「ありがとう、はは…こんな風にスキンを着けてくださるなんて、…初めてされたものですから、ちょっとハラハラしてしまいました……」   「…ふふ…こうやって着けてやると、みんな喜ぶんだよね。……」    ふと目を下げたユンファさんはそう言いながら、俺の勃起を掴んで撫で、それが身にまとう薄桃のスキンの微調整をしている。  ……俺は彼のその姿を見下ろしながら微笑み、内心安堵していた。今も一つ成功体験を得て、なるほど俺は近ごろ、どうやら自分の加虐的な牙を飼い馴らすことに成功していると思えたためである。     ×××   ×××   ×××  みなさま、いつも当作をご愛読いただきまして、本当にありがとうございますm(_ _)m♡♡♡    そしてそしてさらに、いつもリアクションにて応援してくださいます神々の方々、ほんとにほんとにありがとうございます〜〜(´;ω;`)♡♡♡  いつもほんっと〜〜に嬉しくって幸せで、皆さまのおかげで最近めちょめちょ(鹿にしては)ハイペースで更新できております〜〜! ただ最近は「目」も「鍵」も校正というよりかもはや再構成+書きながらリアルタイムで上げてる感じなので、納得がいかずたま〜に数日開けちゃったりもしますが(あとシンプル私生活の諸事情ということもある)、でもでも、行動で感謝を示して〜〜と思い、僕の夢を応援してくださる皆さまのためにも、毎日本気で作品を書けておりますっ(✪▽✪)♡    毎日たのし〜〜! みなさまのおかげで毎日書くのほんとにたのし〜〜です! これがモチベ爆上がりっちゅ〜やつじゃ〜〜!! ありがとうございます〜!  鹿、これでも一生懸命本気で商業デビュー目指してがんばっておりますので、皆さま、ひきつづきどうぞリアクションでの応援のほう、ぜひぜひよろしくお願いいたしますっm(_ _)m♡♡♡  皆さまが下さるリアクションの一つ一つが、僕の夢を叶えてくださる元気玉でありドラゴンボール!! もはやみなさまシェンロン!!!    最近暑かったり雨降ったり憂鬱な感じかもしれないですが、あの〜食中毒とかまじで気をつけてくだせぇませみなさま…!  みなさまのご多幸とご健康、そしてみなさまの願いも全部全部叶うように、日々お祈りしておりますっ(`・ω・´)ゞ        :  :   : ♡   ♡ : ♡ . : ♡   /[[rb:\♡  : .: ././. [[rb: \\  ♡ . ♡ '⌒'⌒[[rb:'⌒'⌒' :     [[rb:   ♡ .∧,,∧ LOVE ∧,,∧ (〃・ω・)  (・ω・〃)  (OO   OO)      みなさま大好き、幸せになってくれ鹿♡            

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