44 / 70
42 ※
あの地獄のループから無事に抜けだし、しばらく俺の上で(俺の乳首を手遊 びしながら)休んでいたユンファさんは、連続した絶頂の波はもとよりそれによる疲労もだいぶ落ち着き、癒えてきたのだろう。――彼は腕を立ててむくりと頭をもたげた。
そしてユンファさんはベッドに着いていた両膝を片方ずつ上げ、両方の足の裏をベッドに着けて、俺のうえでガニ股座りをすると――俺が下腹部においている手錠がかけられた俺の両手の指を、その熱い両手で包みこむようにきゅっと握ってくる。俺は彼のその一つ一つの所作が愛おしくてたまらない。
「…今日は本当にソンジュは何もしなくていいぞ…。へへ、ではここで問題です。――それは何故 でしょうか…?」
と彼は嬉しそうに笑って俺に問題を出しながら、ゆっくりとそのお尻を大きく上下させはじめた。ぬちゅ……ぬちゅ……とその動きはきわめて緩慢ではあるものの、そのお尻の振り幅は俺が抜けないギリギリの大きなものである。
「なっ何故、なぜって、な……」
俺はそれに解答しようにも頭がまわらない。
……それはその極めてゆっくり、じっくりとしたユンファさんのその動きによって、俺の反り返るほどに勃起した敏感な陰茎に――0.04ミリの薄さとはいえ、スキンを着けていてもなお――、彼の膣内の複雑な構造が普段よりもじっくりと鋭敏に伝わってくるために、彼の膣が俺にもたらす複雑なその快感が、否応なしにも俺の意識を自分のそれに集中させてしまうせいである。
ぬぬぬ…と抜けでる――俺の亀頭下のカリ首が、その膣内のリング状の前立腺に引っかかる。しかし俺の亀頭がその引っかかりを越えることはない。
再びゆっくりと、俺の剛健な勃起が彼のいつもより熱くぬかるんだ膣内にぬぷぷぷ…と刺さってゆく。
するときゅっと小さい膣口が、リング状のやや硬い前立腺が、まるで親指と人差し指でつくった輪を二つ並べたなかへ俺のそれを通してゆくように、俺の幹を圧迫しながらずりーー…と下向きに絞るようにしごいてくる。
――そして普段よりやわらかくぬかるんでいるとはいえ、当然彼の華そのものの小ささが変化しているはずもなく、真空かと疑うほど窄い肉壁の細道のなかで、熱いやわらかい無数の襞 をかき分けてゆく俺の勃起に、その無数の襞がにゅるにゅると数多のやわらかい舌のように絡みついてくる。
……俺はそうして自分の勃起の感覚に気を取られていたせいで、
「はは、まさかソンジュ…わからないのか…?」
とユンファさんに笑われてやっとハッとした。問題の解答を考えることすらしていなかった。
「……ぁ…っはぁ…、す、すみません、わからない…」
今はなおわからない――俺は熱を帯びたあわい息を吐きながら思わず目をつむり、力むにまかせて眉を寄せた。俺の両頬から両耳が高熱をだしたときほど熱を持っているので、もしかすると俺のそのあたりは紅潮しているかもしれない。
……やがて俺の勃起の先端は彼の子宮口の前庭、その子宮門――オメガ属のみが膣内にもつ、チューリップの花を逆さまにしたような形状の器官――の、そのやや窄 まり気味の花びらの先端までたどり着く。
その花のなかへと侵入してゆく俺の亀頭は、まるで小さくしか開いていない唇に無理くりそれをねじ込んでゆくように、亀頭全体をその花びらのやや丸まった先で圧迫され撫でられながらそこに侵入してゆく。
――そして、すぽんと子宮門のなかに亀頭が入りこむと、子宮門の花びらの先端が360度の鉤爪 のように機能して俺のカリ下を離すまいと咥えこみ、さらには俺の亀頭はその全体がその花弁 の内壁に密着して、すっぽりと包み込まれる。
「……ぁ…♡ ソンジュのおちんちん…僕の子宮に、当たってる…、…はぁ……♡」
「……、…、…」
そう、当 た っ て い る ――。
子宮門のもっと奥へ入りこんだ俺の亀頭は、その先端でやや硬い彼の子宮口をずりっとこすったのち、さらに、幹に比べればやわらかいその亀頭の先端が、彼の子宮口付近にあるポケット状に奥まった「溜まり」にぐちゅん…とややへしゃげて入りこむ。
するとその場所の小ささ故の圧迫感と、やわらかい粒々としたザラつきはスキン越しにもこと敏感な俺の亀頭に伝わってくる――以前ユンファさんは「挿れただけでイく男もいる」と言っていたが、これはなるほど確かに、ここにスキン無し で入り込んだなら、あるいは俺も「入れただけで」という無様な射精をしてしまうかもわからない…――。
……そして再びお尻を浮かせてゆくユンファさんに、今度はその子宮門の花びらの先端が、俺のカリ下に甘く食らいついてくる。
「……あ、…っあぁ……」
「…ふふ…可愛いソンジュ…。ソンジュ、“ユンファさんのおまんこ気持ち良すぎ”って顔をしているよ……」
「…ッじっさ、…ん…っ」
実際そうです、と言おうにも甚だしい快感のせいで絶句した俺は諦め、はぁ、はぁ、はぁとその呼吸の通過に鳴る低い喉笛をそのままに――俺の指を握っているユンファさんの手指を、あらためて上からぎゅっとにぎる。
……そのさなかにも勃起を抜きとられそうな、腰が抜けそうな快感は俺を悩ませる。カリ下を子宮門の先端にこすられながらもにゅるんっと子宮門から脱したあとは、密閉空間のなかで逆向きにまとわりついてくるやわらかい無数の襞、ずるーー…と今度は上方向に絞るようにしごいてくる前立腺、きゅうっと締めつけてくる膣口――この熱さ、この快感、これは…頭が…溶ける。
「…すみません、もう目が、開けられない……」
気持ちよすぎて――と俺はぎゅっと閉ざしているまぶたを更に強ばらせた。
先ほどはさほどでもなかったというのに、今度は一体どうしたことだろう。
確かに普段からユンファさんの膣内は極上のそれではあるが、今日は彼が熱っぽいからか、その高い体温のせいで彼の膣の内部構造がより鮮明に伝わってくるせいなのか、あるいは――彼のこのじっくりと自分の膣の旨味を俺に味わわせるような動きのせいか――それか彼のフェロモンのせいで、普段よりも俺の勃起の程度が甚だしいので、今は俺のほうも感じやすくなってしまっているせいなのか……。
……まあ俺の気が抜けたせいもあるかもしれないが、とにかく――これも…悪く、ない。
「あぁ、気持ちいいです…、ユンファさん……」
俺は目をつむったまま甘えるように彼の名を呼んだ。愛する美男子に甘やかされるのも悪くない…――相手に主導権を譲るようなこうしたプレイは、実に俺は初めて経験したが――いや、むしろこれはこれで最高かもわからない。
「ふふ、可愛い声出して…――何故今日はソンジュは何もしなくていいか、わかったのか…?」
「……いえ…すみません、…きもち、よすぎて……」
最高だ…が、しかし――もどかしくもある。
俺の恥骨の裏に溜まってゆく衝動性の疼きは、このじっくりとした緩慢な動きに放出の機を見ず、ただそこにどんどんと溜まってゆくばかりである。
……とはいえ…これでその衝動を放出し、俺が能動的に彼を突き上げてしまうというのも何か惜しい。
率直にいって、俺はユンファさんに身をゆだねるこのような行為も決してやぶさかではない。――かえってこの年上の美人に責められ気味のこの今は、なかなか俺の心を悩ましくときめかせている。
まあさすがに毎回ユンファさんにリードされたいとは思えないが――どうしても俺は程度はともあれ彼に意地悪をしないと気が済まない――しかしやはりユンファさんの前での俺はまるで忠犬のように、彼が与えてくれるものならば何でも美味しく平らげられてしまうというか、あるいは俺のサディズムの裏側にもとより存在しているマゾヒスティックな部分が、大なり小なり彼の魅惑性に誘い出されてしまうものなのかもしれない。
「…全くもう…しょうがないなぁソンジュは…。じゃあヒントね…。ソンジュは今日、僕にいっぱい甘えていいんだよ…ははは…♡ ……」
と甘く色っぽいささやき声で笑いながら、ユンファさんは、俺の上体に薄い黒いニットを身に着けた上体を添わせるように深く前のめり、俺の唇をはむ…あむ…と熱く濡れた唇で食みながら――ぬちゅ……ぬちゅ……と、先ほどよりは浅く、しかしじっくりとしたそのペースは変えないでお尻を上下させる。
「……ん…、……」
なるほど、ヒントは「(今日は俺がユンファさんに)甘えていい」…か――するとそれの答えとは、ユンファさんが、今日はこうして「年上のお兄さん」として、年下の俺を可愛がりたい気分だから…だろうか?
……それでなくとも彼はしばしば俺のことを「年下」として(やや見下して)扱いたがるので、あるいは彼が年上(俺が年下)というところに性的な嗜好をもっていてもおかしくはない。
俺が問題の答えをそう考えているさなかにも、彼のしっとりと濡れた熱いやわらかい唇が、俺の唇をあらゆる方向からあむ…あむ…と食んでくる。
俺の左の口角に彼の上唇が、右の口角に彼の下唇があてがわれ、あむ…あむ…と二度三度食まれたあと、今度は反対側に彼の顔が傾き、はむ…あむ…とまた二度三度食まれ――そしてその一方の俺は、彼のその唇の動きに合わせて受動的に唇を動かしている。
更にはこのキスのさなかにも、俺の勃起はぬちゅ……ぬちゅ……と甘い快感を与えられつづけているが、それのみならず、ユンファさんの片手は俺の片頬と耳をじっくりと撫でまわしてくすぐり――それもまた気持ちよくてゾクゾクする――さらに彼のもう片手の親指は、俺の粒だった乳頭をくりくりと転がしては、ときおり大きくその手のひら全体で俺の胸のあたりを撫でまわしてくる。
……俺は乳首はあまり確かな性感帯とはいえないが、しかしその愛撫はとても心地よい。
ふとユンファさんの唇が離れる。
彼のじっとりと汗に濡れた熱い額が俺の額にコツンとくっつけられ、彼はその至近距離、妖しくも嬉しそうな切れ長の半目で俺の目をじっと見つめてくる。彼の赤い唇の両端は陶然と上がっている。
「…もう答え言っちゃおうか。答えは…――今日は、ソンジュが僕の彼氏だから。」
「……、…」
俺の予想していたものとは違ったその「答え」に、俺はふと切なくなった。
……今日は――つまり依然として俺は今 日 だ け は ユンファさんの彼氏でいられるが、それも明日が来ればまた俺は彼のセフレの一人に降格する、ということである。
もちろん当初からそういった話ではあった。しかしそれでも俺にやりきれない思いがあるのは、今日だってまさか心から愛する美男子と、俺が軽薄な「恋愛ごっこ」に勤しんでいるつもりはなかったからだ。
「本当に、今日だけ…? 俺は、明日もユンファさんの彼氏でいたいです。」
俺は強く断言するような調子でそう言った。
しかし、はは…とユンファさんは困ったように笑うと目を伏せ、ちゅ…と俺の唇に尖らせたハリのある唇を押しつけると、俺の唇に熱い甘い蒸気をまとわせながらこう囁いてくる。
「…君は明日もこうやって、僕に尽くされたいって…?」
「……いいえ、そうじゃない…。明日は俺がとことんまでユンファさんに尽くしたっていいんです…。何なら、こういうのはこれっきりでも構いません…。俺はただ、貴方と正式に付き合いたいだけなんです…」
俺はユンファさんの唇に切実な低い吐息でそうささやいた。彼は目を伏せたまま、「じゃあ…」とすでに応じようという気が感じられない、半ば冗談っぽいあえかな笑いを含ませた声で俺にこう聞いてくる。
「…面倒なことになっても…、ソンジュは僕のこと、ずっと好きでいてくれる…?」
「……、…勿論…と言いたいところですが、その内容も聞かないで俺がそう言ったならば貴方は、またこの場だけの浮薄 な言葉だとでも捉えるんでしょう。――ですから聞きます…、面倒なことって、何…?」
「…………」
するとユンファさんがちらと目を上げて俺と目を合わせた。彼の紫色の瞳は悲しげに暗い。そして俺と目が合うなり、彼はその艶のある白っぽいあわい薄桃の切れ長のまぶたをやわらかく優しい具合に細めたが、しかし俺の質問に対する彼の反応とはそれだけであった。彼は微笑するだけで何も答えない。
その人のその儚い微笑は、彼がいう「面倒なこと」を俺が聞いたならば、きっと「ずっと好きではいられなくなる」とわかりきっているというような、いや、たとえいま俺がその内容を聞いたなり「勿論」と答えても、この先には「やっぱり愛しきれない」と必ず彼を見限る、そうわかりきっているというような――そういった哀愁をおびた諦念の眼差し、その微笑であった。
俺はユンファさんのその切ない眼差しを裏切りたかった。もちろん良い意味で裏切りたかった。
「ユンファさん。どうか答えてください…――面倒なことって何ですか。…教えてほしいんです。…俺は例え、貴方が今どれほど重たい何かを抱えているのだとしても……」
「ねえ…えっちしてるのに、今話し込むのは違うだろ…? はは……」
とはぐらかすユンファさんは困ったように笑った。そして彼は話を逸らすように、色っぽい優しい声でこう言う。
「……ソンジュ、舌出して…?」
「……、ユンファさん、俺……とにかく後でも構いませんから、さっきの件、ちゃんと俺に教えてください。俺これでも真剣なんですよ、俺は真剣に、ユンファさんと付き合いたいんです。」
言いながら俺はそのとおり真剣に、俺の目を見下げているユンファさんの半目開きのなか、彼の暗く翳った色深い紫の瞳を見つめているが――彼はふっと笑うと「気が向いたらね」と言った。その軽くあっさりとした声の調子から察するに、彼はどうやらこのあとにもその件を俺に聞かせてくれるつもりはなさそうである。
「ほら舌…」
「……気が向いたらではなく…んっ…」
俺のユンファさんを愛するがゆえの真剣な追求を拒むように、彼の唇が俺の唇をふさいできた。
俺の唇を力強く揉み荒らすような彼の唇に、俺は思うところがあり、その唇に反応せずしばらくされるがままであったが――もちろん俺の「思うところ」というのは、この件をはぐらかされたくないという強い思いだったが、……しかし、いずれにしてもこれ以上追求したところで、ユンファさんはその件を俺に教えてくれることはないかと――結局はその唇の荒々しい調子に同調した俺の唇は、そそられるままにその人の唇を荒らしかえし、そうして二つの唇が競り合うようにもつれ合う。
……さなか、ユンファさんの片方の手のひらが俺の首筋や鎖骨、肩、胸を撫でまわしてくる。彼はさすがというべきか、男の性感を高めるに非常に巧みだった。
「……ん、…ふ……」
俺の上唇がユンファさんの上下のやわらかい唇に挟まれ、あむあむと食まれたのち、ちゅう…と甘く吸われる。俺は自分の上下の唇のあいだにはまってきた彼の肉厚な下唇を同様に何度か食み、ちゅう…と吸う。
……次は下唇を唇ではさまれて食まれ、ちゅ…と吸われる。俺は彼の上唇を食んで、ちゅ…と吸う。
「……、…ふぅ……」
「……ふ…、……」
鼻でする呼吸においてもそうだが、お互いに慣れたもので、このキスはまさに阿吽 の呼吸というような、二人の息がぴったりとあったキスであった。――そのお互いの唇の凹凸 が、まるでそのために誂 えられたかのように組み合わされ、お互いに何をどのタイミングでするべきかわかっているこのキスは、俺の胸を穏やかな幸福で満たしてゆく。
俺のこの喜びは、これが、愛する人と息が合っているというささやかな幸福に浸れるキスであるからだった。――俺は絶対にこの美しい人を諦めない。
ユンファさんを諦めるということは、すなわち俺の人生を諦めるということを意味している。俺はそのように多少自分の彼に対する愛情を誇張して考え、その愛情を、彼を勝ち取るための情熱の炎を絶えず燃やしつづけるための薪 として焼 べていった。
ともだちにシェアしよう!

