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絶頂後、その波が落ち着いたユンファさんは、俺に背を向けたままベッドに両足を着く。そして後ろ――俺のほう――に両手も着くと、彼はその上半身を仰 け反 らせ、ぱちゅん…っぱちゅん…っと大きくややゆっくりと重たそうなお尻を浮かせては落とす。
「…あっ…♡ あっ…♡ こら、もう…悪さ、しないの、ソンジュ……♡」
「…はは…すみません……」
俺はニヤけている。今日のユンファさんはやはり格段に甘い。――ちなみに彼がこの体勢を取ったその理由とはおそらく、こうして上半身を仰け反らせると、彼の一番の弱点である子宮口付近には、人並み以上の太さと長さを誇る俺の勃起でもさすがに届かないためであろう。
……しかし俺は、またその人のぴっちりと黒いニットが張りついた細腰を後ろからつかみ、彼の下半身を俺の恥骨のほうへ押し下げ――恥骨から押し上げるように、ずぷずぷずぷと勃起を奥まで強引に何度も押し込むようにして、再び彼に猛攻を仕掛ける。
「っあぁ…!♡ あ…っ!♡ あ…っ!♡ あ…っ!♡」
すると艶めかしい声をあげるユンファさんは、当然自発的に動けなくなり、俺の突き上げに体を硬直させる。ばちゅばちゅばちゅと激しい俺の突き上げによって、彼の仰け反ったままの上体はただ小刻みに上下に揺らされている。
「……あ゛…っ!♡ あぁイッィく…!♡ ぃ、イく、♡ イくイくいく゛…♡ イっちゃうから、♡ ソンジュ、ソンジュ、またィ、いっちゃうからぁ…!♡♡」
と泣いているユンファさんの腰がぐっと更に反曲し、彼はそうして下腹部や陰茎を前に突き出しながら、喉の全面を天に向けるように反らせて顔を仰向 かせる。すると彼の汗に濡れた黒い艶美な後ろ髪が垂れ下がり、俺が彼を揺さぶるたび、俺の鎖骨や胸に、その後ろ髪からしたたる桃の香の汗がぽたぽたと落ちてくる。その汗は生あたたかい。
「……ッあっ♡ あぁ、♡ あっあぁだめ、♡♡ あぁ、♡ ああぁィく、♡ ………ック♡♡♡ …ひ、♡ イくいくいくィ…ッぅ…――〜〜〜ッ!♡♡♡」
ビクンッ! と大きく跳ねたユンファさんの腰が、ぎこちない呼吸をする胸のように前に後ろにくねる。彼のM字に開かれている細長い白い脚がぶるぶると震え、ビクッ…ビクッとその膝が内向きに跳ねてはやや直り、またビクッ…と内向きに跳ねる。
またその細い白いふくらはぎにはそこの筋っぽい筋肉が浮かび上がっており、つー…とその凹凸を舐めるように透明な汗が上がっているかかとのほうへ流れ落ちてゆく。――彼のつま先はベッドを踏みつけている。
これは絶頂時のユンファさんの癖の一つなのだが、彼はいま足の甲をピンッと伸ばし、かかとを上げているので、そのふくらはぎに力んだ色っぽい筋肉が浮かび上がっているのである。
「……ぅ、ぁ…♡ …あぁ…ぁ……♡」
更には、その黒いニットの肩に力なく寄せられたユンファさんの紅潮した片頬、彼は悩ましげにぎゅっと目をつむり、その凛々しい眉を物憂げにひそめながらも、黒い鋭利な眉尻を心もとなさげに下げている。
……何という美貌、何という艶姿 、何という凄艶 さ――ゾクゾクとサディスティックな戦慄 きが俺の両腕に起こる――美しいユンファさんのこのどこかあえかな艶姿を見ると、俺はすっかりこの絶世の美男子を普段どおりいじめたいと思えてきた。
……しかし、
「……っ、…もう…馬鹿、この馬鹿犬…っ」
と俺の太ももをペチンと軽く叩 いてきたユンファさんは、――わざとだろう――俺の勃起を抜かないままにゆっくりと体を返してゆく。
つまり俺の勃起は彼の回転する膣のなか、それも俺のそれに密着する窄い複雑な構造の膣内に、ぐちゅぐちゅと蹂躙 され――俺の幹にはそのやわらかい無数の襞が縦横無尽に絡みつき、カリ首の360度を咥えこむ子宮門の先端にぐるりとそこをなぞられ、また根元付近の締めつけの強いリング状の前立腺にぐーっと回転の動きで絞られ――と、その経験のないやや苦しいとさえ思えるほどの混乱した快感を与えられ、
「…ッグ……!」
と俺は呻きながらぎゅっと目をつむった。これには眉を含めた目もとが強ばり、ふっと息を止めざるを得ない。
「へへ…ざまあみろソンジュ、この馬鹿。」
ややあって俺の顔を見下ろす格好に戻ったのだろうユンファさんが、俺のしかめられた顔にそう吐き捨ててくる。…俺は薄目を開けて彼を見上げた。
――ユンファさんはどこか冷ややかな微笑を浮かべて俺を見下ろしていた。そして彼はふと目を伏せ、俺の両手首に嵌められている銀の手錠のチェーンを四本の指先と親指とでつまみ上げ、そうして俺の両手をぶらーんと吊り上げながら、つと挑発的な切れ長の双眸 で俺を見下ろすと、ふっと妖艶に微笑する。
「…なあ、大人しくしていろよソンジュ…。僕にいじめられたいんだろ、優しい優しい王子様は…? だからこ ん な も の を僕に大人しく嵌められたんだよな…」
彼はそう言いながら吊り上げている俺の手錠をくいくいと上に上に揺する。されるがままの垂れ下がった俺の両手もそれに伴って上に上に揺れる。
「……、…」
俺は自分の口もとに浮かぶサディスティックな微笑をこらえきれないが、かといってその人の言うそれに反論することもできない。事実その通りだからである。――ユンファさんはつまんでいる手錠のチェーンごと前のめり、俺のその両手を片手で、俺の頭上に押さえつけてくる。
「違うのか…?」
とユンファさんが、俺の顔の真上で暗い妖艶な微笑を浮かべている。
「いえ、仰言 る通りです」
「…そうだよな…なのに何でいい子で大人しく出来ないの…? ソンジュくんは…、……」
「…ふふ…、……っ!」
俺のうす笑いを浮かべた顔に、ユンファさんはペッと唾を吐きかけてきた。…俺はとっさに顔をそむけたが、頬に彼の吐きかけてきた唾液がぺちゃっとかかった。
「…相変わらず生意気なんだよこの馬鹿犬。…」
「……、これはこれは……やってくれるじゃないですか、ユンファさん…?」
俺はつーと二つの瞳を目頭とまなじりへ寄せ、横目でユンファさんを見やる。俺の陰悪な笑みを帯びている唇の口角はより影を深める。
……しかしユンファさんは冷徹な伏し目で俺を見下ろし、まるでその真顔の威圧感で俺を上から押さえつけてくるようだ。――とはいえ、まさか普段どおりのユンファさんのその威圧に俺が臆するはずもなく、俺は背けていた顔を上の彼へ向け、その顔にわざとにっこりと深い笑みを浮かべた。
「しかし、おかしいですね…? 今日は彼氏である俺を甘やかしてくださる、と仰言られた貴方が…まさか俺の顔に、ふ、ククク…唾を吐きかけてくださるだなんてね……」
俺がこう皮肉な調子で指摘すると、依然として冷たい目をしている彼は「ごめんごめん…」と悪びれた響きのない、むしろ応酬 の皮肉っぽいささやき声で形ばかり謝ってくるなり、おもむろに俺の頬にその赤い唇を寄せてくる。
「ソンジュくんの可愛いほっぺにう っ か り かかった僕の唾、僕が責任を持って舐め取ってあげる…。ふふ…、……」
その言葉どおり、ユンファさんは俺の頬に付着した自分の唾液をぺろー…と舐め、それをぺろ、ぺろ…と舐め取り、時折ちゅるる…とすすってくる。
……そしてぺろー、ぺろーと仕上げに俺の頬を何度か舐めあげたユンファさんの唇が、今度は俺の片耳に近寄ってくる。
「…ねえ…今度悪さをしたらお仕置きだからなソンジュ…、…わかった…?」
「……ふっ…ええわかりました、愛しのユンファお兄さま……」
お仕置きね――それとは何だろうか?
むしろそのお仕置きとやらをされたい俺は、早速「悪さ」をする機を虎視眈々と待ち伏せる。
「…いい子……」
ユンファさんは妖艶な吐息をたっぷりと含ませてそう俺の耳に囁くと、
「…じゃあソンジュくんのお手々 はこ こ ね…? ここから動かしちゃ駄目…。わかりましたか…?」
と更に囁きながら、俺の頭上にある手錠をかせられた俺の両手をぐっ、ぐっと軽くベッドに押し付け、「ここ」と俺に示してくる。
「…はい、わかりました」
俺が表向き素直にユンファさんのその意向に従うと、彼は俺の耳に猫なで声で「いい子だねーソンジュくん…♡」と俺の頭を撫でながら、機嫌よさそうに俺を褒めてくる。
……ユンファさんがおもむろに後ろへ腰を引いてゆく。俺はともなって引いてゆく彼の胸へ向けて早速両手を下げ、彼のその平たい両胸――薄い黒いニットの下、ツンと極小さな尖りが浮かんでいる両胸――についたその突起、乳首の先を軽くつまんだ。
「……ァ…ッ!♡」
するとビクンッとしたユンファさんが、痛がっていると見えるほど顔をしかめたので――とはいえ、あがった彼の声にはだのに甘美な甲高さがあったが――、…さすがの俺でも怯 み、あわてて指を離した。
「……い、痛かったですか…?」
と俺が恐る恐る聞くと、ユンファさんはとろんとした目で俺の目をチラと眺め下ろした――彼のこの目はマゾヒスティックな快感に酔っているときのそれである――が、すぐにふいと目を伏せる。
「…いや、実は昨日の客と……」
そう言いながら彼は深く顎を引き、自らハイネックの裾を捲りあげてゆく。
「…赤 ち ゃ ん プ レ イ 、したんだが……」
「……は、……は…?」
唐突に、何の特殊性もないワードのように彼の口から放たれた「赤ちゃんプレイ」という極めて特殊なワードに、俺は思わず我が耳を疑った。
この絶世の美男子と赤ちゃんプレイ……何と面妖な、しかし悔しいが、彼とそのようなプレイをしたくなる気持ちは多少わからないでもない(さすがに赤ちゃんプレイとまでいくと俺は嫌だが、少なくともここまで彼と「お兄さんプレイ」を楽しんでしまった以上、その客の気持ちは俺にも少しはわかると言いざるを得ない)。
ところでなるほど…もしやユンファさんが、今日やけに俺を甘やかしたがるその理由の一つに――もちろん彼自身の嗜好も関係しているに違いないが――三日連続のさらに昨日からのその「よちよちモード」が引きつづき、彼は今もなおそれが完全に抜けきっていないのかもわからない。
そして、やがてユンファさん自身の手によってまくり上げられた、その黒いニットの下からあらわれた――その人のかすかな薄桃色に染まっている胸板には、…「赤ちゃんプレイ」と聞いていたのだが、…なぜか麻縄で縛りつけられたような、赤いすり傷のような横一線状の痕が二本(胸板上に一本、胸板下に一本)と胸板の中央にかすかな縦一本の痕がのこり、さらには、その両方の乳首がかすかに青味がかった赤味の濃い桃色に染まっている。
……そしてユンファさんはその「真相」を、暗い伏し目、かつ静かに苛立 っているような表情で語る。
「…それもS M プ レ イ 兼 赤 ち ゃ ん プ レ イ …、両腕後ろで縛り付けられて、乳首ポンプで吸われたり…、いわゆる搾乳プレイってやつだよ…、“どうちてママのおっぱいからはミルク出ないのかなぁ?”とかキモいこと言われながら…――あと“ママのおっぱい甘くておいちぃ〜〜”って、おっさんに乳首めちゃくちゃ吸われたんだよね…。しかもすんごいしつこく、ずっと、ぢゅーぢゅー強く……“ごめんねたっちゃん、ママおっぱい出なくてごめんね”ってずっと謝らされたし、…いや母乳なんざ出るかよ孕んでもないのに、…あーほんと乳首取れるかと思ったわ……」
「と…、と、とんでもないですね……」
無知ながらそれでも知っている俺の赤ちゃんプレイとは違う(世界は広い…)。しかし、にわかには信じがたいそのとんでもないプレイが事実であると物語っているユンファさんの乳首は、たしかに普段は薄桃色であるところ、今日はオメガ排卵期というのも加わってか、かなり赤々としているようだ。
……まあその客、ユンファさんが持っていった避妊薬や抑制薬を捨てただとか、ともすれば今にもこの家に押しかけようとしているかもわからないだとかを差し引けば、金を払って自分のそういった特殊な性的嗜好を満たそうというその人に、というか人の性的嗜好までにおいては俺も否定しないでおきたい(何なら俺の言えたことでもない)。
しかし、赤ちゃんプレイも更に特殊な「SM赤ちゃんプレイ」に付き合わせていたユンファさんに、まさか本気で惚れていたとは――そういった自分の特殊な嗜好を満たしてくれる相手と結婚したかったとは、仮に彼と結婚できたなら「SM赤ちゃんプレイやり放題」なんて思っていたんじゃないか(彼は仕事だから応じていたに過ぎないが、自分のその特殊な嗜好を受け入れてくれるのは君だけだ、というような惚れ方だったのかもわからないし)などと、つい悪い推察をしてしまうので――やはり多少おぞましい男であるとはどうしても思ってしまうが。
それにしても――。
「しかも排卵日だし、…ヒリヒリするくらい、いつもより敏感になっていて……」
「……、…」
いつもの淡い薄桃色の乳首が――この色白の胸板と強くコントラストする濃い桃色に染まっているこの様は、はやくも俺の目に強く焼きついた。…到底忘れられそうもない。あまりにもエロ…濃艶な様相だった。
……しかもいつもよりも敏感、その要因とはオメガ排卵期のみならず、昨日に乳首をとことんまで責めつづけられたせいでもある――と、…叶うならば今日のみならず、もう何度かこの状態のユンファさんの乳首を責め立てたい。…何なら俺がこの状態にした上で、俺がこの乳首を可愛がりたい。
「…ふふ…まあむしろニットなんて着てみて、気持ちよくなっていたんだけど…、……」
と妖艶に微笑したユンファさんは目を伏せたまま、人差し指と親指のひらかれた股を片胸のあさい膨らみにあてがい、胸を強調するようにかるく押し上げる。
「…ソンジュも僕のおっぱい吸う…?」
「いや、流石に赤ちゃんプレイは俺……」
しかしにわかに、俺の口に下がってきたユンファさんの胸、その熱く凝 った乳頭が俺の唇にぷにっと甘く刺さる。
「…んっ…」
「…さあどうぞソンジュくん…、ユンファお兄さんのおっぱい、たくさんお飲みなさい…?」
「……、…、…」
俺は拒みもしないが吸いもせず固まっている。
この流れで彼の乳首に吸いつけば、何かその「赤ちゃんプレイ」の流れになりそうな危機感があった。俺は間違ってもそちら方面には嗜好性をもたない。
「やっぱり、キモいおっさんが幾ら乳首を吸ったところでミルクは出なかったが……可愛い可愛いソンジュくんがお兄さんの乳首いっぱい吸ってくれたら、きっとミルク出るよ…? 奇跡は起こる…♡ ほら、がんばれがんばれソンジュくん…♡ んふふ…♡」
と俺を猫なで声でからかってくるユンファさんに、
「んむ、あの…でふから…」
俺が彼の乳首を押しつけられたままの唇で抗議しようとすると、彼は「あれ…?」と途端に冷ややかな、しかし優しげな年上の声を出す。
「…これはね、ソンジュくん…。君の…この悪ーい、悪ーいお手々が……」とユンファさんが胸を浮かせ、腹の上においていた俺の手錠つきの両手をおもむろに持ち上げる。――そして、再び俺の頭上にその両手を押しつけた彼は、また俺の唇に片方の乳首をくっと押し付けてきた。
「…お兄さんの言うことをいい子で聞けなかった、お・仕・置・き…なんだけどなー…?」
「……、…、…」
なるほど…俺が思っていたよりも、俺 の メ ン タ ル に ク る タ イ プ のお仕置きだったようだ。
いや、だからこそお仕置きなのか…――。
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