72 / 72
69 ※微
俺たちはあのあと、高級レストランで向かいあっての夕食をとった。――俺たちはああして(俺にとっては念願の)交際を開始した。…すなわちユンファさんは俺の彼氏に、俺も彼の彼氏に、そうして俺たちは晴れて恋人関係となることができた。
しかし、といって、その直後の俺たちの態度にはなんの変化も見られなかった。
つまりユンファさんは相変わらずすげない感じで平気で悪態はつくし、もちろん俺が自分の彼氏になったからといって、好きだの愛してるだのと愛の言葉を口にしてくれるわけでもなく、また俺のスキンシップ――たとえば俺に肩を抱かれるだの腰を抱かれるだの、手をつながれるだの――に対してもまた例によって例のごとし、鬱陶 しげな素振りを見せてばかりいた。
しかしもとより俺も俺で、彼のその普段どおりの態度をいぶかるも眉をひそめるもせず、表向きはやはりこれまで通りの、一方的にその愛する美男子を追いかけている――いささか馬鹿な――男の態度のままではあった。
が、…それにしても俺ばかりは、たとえ表向きそうしてお互いに何も変わらなかったとしても、また例の「約束」ありきのことであっても、何はともあれ至願 であった彼との恋人関係というそれを得られた欣 びから、なかばは改まって襟を正し、――ユンファさんの彼氏というポジションに見合うよう――スマートな紳士らしい男としての余裕をもつよう心がけ、またしかしもうなかばは、はっきり言って内心欣喜 雀躍 とかなり浮かれていた。
さて、そうして表向きはいつも通り、また二人のデートではほとんど恒例ともなっていた高級レストランでの夕食を終え、二人で乗りこんだタクシーのなかで、俺は行き先を尋ねてくる運転手に――これもまたいつも通り――ユンファさんの家の住所を指定しかけた。
……というのも、このところプラトニックな関係でいた「癖」のようなものが、いまだこの頃の俺のなかからは抜けておらず、かててくわえて先ほどにも思うように、「だからといって」俺たちの態度や会話内容、雰囲気にいたるまでなんの変化も見られなかったせいで、この頃はずっと俺の頭の中から除外されていたセックス――恋人関係になるまではしない、と宣言していたセックス――は、このときとなっても自然と除外されたままになっていた。
つまり目的達成のそのときまで封印を決め込まれていた俺の下心は、いつの間にやら俺のなかで「無いのが当たり前」というふうに、いわばもはや仮死状態とまでなってしまっていたのである。
事実俺はユンファさんのことを抱けなかったとしても、愛する絶美の彼とプラトニックなデートができるというただそれだけで、嘘偽りなく心底満足していた。――俺はユンファさんの麗 しい肉体ももちろん愛していたが、それをも含めた「ユンファさんを」愛していたのだ。
それだから俺はその夜も「何もせず」――というよりか、最近あくまでも「何もしない」のが当たり前になりすぎていたせいで、そう心に決めてというのではなく、もはやその件が頭にかすめることもないで、ために一切の迷いもなく――ユンファさんを彼の自宅へまで送り届けようと、タクシーの運転手にそのマンションの住所を告げようとした。
そうして俺はその住所の冒頭をいくらか口に出したが、しかし、さなかそれを防ぐように断固俺の自宅の住所を口にしたのは、ユンファさんであった。
運転手が本当にそこでいいかと確かめる。彼は『はい』と独断的に固い声で答える。承知した運転手によって、俺たちの乗車したタクシーが俺の家へむけて走り出す。
『……、…』――ここまで圧倒されて黙っていた俺は、そっと隣に振り向いた。
ユンファさんは無表情でうつむいていた。ただ彼はぽそりとこう言った。
『……今日、泊まるから……』
『……あ、…ええ…、それは勿論、構いませんが……』
俺はここでやっとドキッとした。
俺の心臓がそうして大きく弾んだのは、この頃仮死状態とまでなっていた「下心」が突然目を覚ました合図であった。
……ちなみにユンファさんは、俺の家に着くまで冷ややかな無表情でうつむいたまま、それきり何も言わなかった。といって隣の俺も、久しぶりに目があった己れの下心に困惑し、また、これからこの美男子を抱くというのが――それも俺の彼氏となったこの美男子を改めて抱く、というのが――いよいよ目と鼻の先に立ち現れたせいで、ひどく緊張をしはじめ、すると途端に何を話したらいいかわからなくなってしまったせいで、やはり黙りこくっていたのだった。
そうして俺たちを乗せたタクシーは俺の家に着いた。
俺の家に上がってすぐユンファさんは勝手知ったる、という感じで断りなくまっすぐに浴室へ行き、シャワーを浴びた。
そして俺は彼に、楽なTシャツやハーフパンツなど部屋着を貸した(脱衣場の目立つ場所に置いておいた)のだが――なおそれには以前から家に置いてあった彼専用の下着も含まれていたが、それはともかく――、しかしシャワーから上がった彼が着ていたものは、俺の紺色の薄手のガウンであった。
ちなみにそのガウンは、シャワー中に作品のインスピレーションを得ることの多い俺が、それをすばやく書きとめたいとき、間に合わせで一枚羽織 るためのものであった。――ためにそれは、風呂からあがってすぐ身につけられるように、という便宜 上、浴室とつながる脱衣場にあるハンガーラックにかけられていた。
もちろんそれも一応部屋着ではあるし、洗いたてのものではあった(俺はそれを着回さない)。――ゆえに、別にそれをユンファさんが着て出てきたこと自体は一向構わなかった、何も問題はなかったのだ。
が…――。
『じゃあ俺もシャワー浴びてきますね、…てきとうにくつろいでいてください、…』
と俺はそれを着ていてはなお艶 やかなユンファさんから逃げるよう、自分もシャワーを浴びにゆくというのを口実に、慌ててリビングのソファを立った。
というのも…どこかうつろな無表情を浮かべて俺のもとへ歩いてきたユンファさんの、その裾 が膝下まである丈の長い紺のガウンを着こなした美しい長身――それもことに俺が目を奪われたのは――やや長めの美しい首、繊麗 な鎖骨、着物のそれのように交差したガウンのV字の襟元からのぞく胸板…その雪のように白いしっとりとした肌、…それにもましてガウンなどという、ほんの少しの手間で何もかもをあらわにできてしまう衣服をあえて選んだ彼は、彼のその思惑は、……
俺のいやまさる緊張と下心は、俺から平常心というものを損なわせた。
そして俺は何かに急かされるよう気ぜわしくシャワーを浴びたが、…しかし実をいうと一旦そこで二度射精をした。――つまり自慰 をしたということである。
久しぶりにあの生白い美しい裸体を抱けるかと思うと、俺の陰茎はそれだけでうち側に熱い激流の血液を充満させた。
だがこれですぐ挑んでしまっては、愛する美男子の目に――男としてどうしてもカッコつけたいかの美男子の前で――情けない男の醜態 を晒 してしまう危険性があった。
俺には――ことユンファさんの年下である俺には――十分な「男の余裕」が必要だったのである。
それで俺は、脳内であのままユンファさんの白い首筋にむしゃぶりつき、恣 に乱暴に彼のその細身を揺さぶった。ソファの上で俺に組みしかれた彼は泣きながらその白い頬に薔薇 いろをにじませ、俺の背中にしがみつきながら、『僕のなかに出して、ソンジュ…』と俺にねだった。――淫靡 な空想のなかでは、俺はスキンなどつけていなかった。なぜならそれは、あくまでも無責任を許される「空想」だったからである。
ところが一度射精をしても尚 おさまらない。
それは俺のあるフラストレーションのせいであった。――未来への不安、苛 立ち、不満、焦燥、悔恨、先取りの嫉妬、…そういった負の感情が俺に凄 まじいストレスをあたえ、そしてそのストレスは、俺の陰茎をふたたび苛立たしく怒張させた。
……俺はユンファさんと例の「約束」をした。
もとよりその「約束」なくして、俺はその美男子と恋人関係になることはできなかったろう。
ましてや自分はセックス依存症なんだという彼から、そしてそれをばかり「生きるよすが」にして、他には一向目もくれない――他にはなんら「生の執着」を見せない、生きてはいてもほとんどいつも危うい瀬戸際にいる――彼から、どうして依存するまでに欲しているセックスというものを奪えよう。
……それが病的な依存症とはいえ、またやがてはそれの治療を勧めたい気持ちも正直あるとはいえ、それでも今のユンファさんにとっては、そのセックスばかりが唯一の「生きるよろこび」なのだ。――とても奪えない。
俺はユンファさんと共に生きたい。
あの言葉に嘘はなかった。――彼が生きるために必要だというのなら、誰とどんなセックスをしようが何をしようが、俺は構わない。
それも決して嘘ではなかった。ましてや俺のその関係を得た欣快 とて嘘ではなかった。
しかし――。
もしもあのとき、俺が「嫌だ」と言っていたら?
ソンジュはそれでいいの、と聞いてきたユンファさんに、
『嫌だ。…俺だけのものになってほしい。』
そう…正直に言っていたら…――?
……いや、彼は俺が「嫉妬しないという自信はない」と言ったとき、「じゃあやっぱりやめといたら」と言った。――するとやはりあの「約束」なしでは、ユンファさんは俺とは付き合ってくれなかったことだろう。
とはいえ、俺は元来人よりも嫉妬深い男であった。
それも俺は元来「獰猛 な牙」をもっている、もっといえば、隠微ながらその牙をいつも疼 かせているような男であった。
すると俺はその牙にそそのかされて魔が差し、浴室のなかでふとこうしたことを思いついた。
四六時中監視さえしていれば危ういことも起きなかろう。――今夜このままあの美男子を監禁し、錠つきの檻 にでも閉じこめてしまえば、あるいは……。
そしてその「思いつき」はやがて「淫虐 な空想」となり………俺の脳内に展開されたほの暗い寝室の中で事が終わったとき、ユンファさんはぐったりとベッドの上で横向きに横たわり、その手足に枷 をはめられていた。それは彼の手首同士が、足首同士がチェーンでつながれるようなものである。――その汗につやめいた白いお尻からは、あふれた俺の精液が彼の尻たぶのまるみを伝って、乱れたシーツのしわの上にしみを作っている。
そして彼のいる俺のそのベッドの隣には、大きな銀のケージ が置かれている。
俺は今しがた犯し尽くしたユンファさんの汗にぬれた黒髪を鷲 づかみ、その頭を持ち上げた。彼は怯えた顔をして俺を見上げる。
『貴方は誰のものですか…?』
『そ、ソンジュ…だけの、もの…、僕は、ソンジュだけの…、は……』
俺がそううわ言のように繰り返す赤いふくよかな唇に亀頭を押し付けると、ユンファさんは何もかもを諦めたようにふと目を伏せ、何も言わず従順に俺のその勃起をくわえる。
「――ん…、……ん……』
ちゅぷ…ちゅぷ…彼はおそるおそるとそれをしゃぶることで、そこに付着した二人の体液を丁寧に舐めとってゆく。怯えからまるで媚びるように――俺が頭を撫でるとビクンッと怯える。しかし俺は優しく、褒めるように彼の頭をする…すると撫でつづける。
『きちんと俺だけで満足出来るようになるまで、あの檻にいましょうね、ユンファさん……』
『……、…、…』
彼はカタカタと震えながら、こくこくと浅くうなずいた。もっともそれは震えているのか首肯 なのか判然としない。
『それと…次の貴方のオメガ排卵期が来たら、俺のつがいにしますから。いいですね』
『……、…、…』
やはりユンファさんはカタカタと震えていた。
――しかし俺が彼の口から引き出した俺の怒張がまたそり返ったのを見るなり、彼はハッと、今にも泣き出しそうな顔をして俺を見上げた。
俺はその顔に苛立ち、彼を乱暴にうつ伏せにして押さえつけながら、また挿入しようとする。
『…っ! やめっ…もうやめて、許して、もういゃ、…あ…――っ!』
『貴方は俺だけのものなんです――あくまでも。』
あくまでも 貴方は 俺だけのもの――。
……俺は「鍵」をかけた。
俺の疼く牙がいだいている、この黒薔薇の想いに鍵をかけ――それがいつしか枯れることを願って、それこそを檻に閉じ込め――そして浴室から出た。
さて、俺は二、三十分も浴室にいたろうか。
俺がもう一着の黒いガウンを身につけてリビングへ行くと、赤茶の三人がけの革のソファの上に寝そべっているユンファさんがいた――彼はその白い両足は床の黒いラグマットに着けたまま、その上半身だけをソファの座面に横たわらせている――。
それは待ちくたびれたのか――はたまた……。
「ユンファさん…、大丈夫ですか…?」
ソファの前に置かれたガラスのローテーブルの上には、コルクの抜かれたシャンパンの瓶と、一個のシャンパングラス――飲みかけの、半分よりもう少し減ったシャンパンが入っている――が置かれていた。もちろんそのシャンパンは俺の家の貯蔵庫(といってもキッチンの片隅に置ける小さなもの)にあったものである。
……彼のぼーっとテーブルの上のそれらを見ているような見ていないような、といううつろな目はその通り、かろうじて開いてはいるが、今にも目をつむって眠ってしまいそうなほどとろんとしている。また彼のシャープな白い頬にもほんのりとうす桃色がにじんでいる。
ユンファさん、酔っているのではないか?
「…ユンファさん…?」
と俺は彼のそばに立って腰をかがめ、優しく掴んだその骨っぽい肩を軽く揺すった。すると「…ん…、…んん……」とやや煩 わしげにうなったユンファさんは、ソファの上で上体だけを仰向かせ、とろんとした切れ長の目で俺を見上げる。…彼はうつろな無表情である。
「…………」
ユンファさんは何も言わずに、ぼーっとした薄紫色の瞳で俺の目を見つめてくる。
俺はつい彼のその美しい瞳に魅せられ、ほんの何十秒か彼と見つめあってしまった――が、
「……、…」
そのまま眠たそうにそっと目をつむったユンファさんにハッとし――内心ヌいておいてよかったな、と苦笑しながら――「抱き上げますよ」と声をかけ、彼の体を横抱きにして持ち上げた。
「…はは…、酔ってしまったの…? すみません、俺、随分お待たせしてしまいましたものね…――ベッドに運びますから、どうぞそのまま眠って……」
「……、…」
すると、ユンファさんはほんの少しだけまぶしそうに眉を寄せ、こてん、と斜め下へ顔を向けた。つまり俺の胸とは反対方向に、床のほうへ顔を落とすように転がしたのだ。
そしてそこで薄目を開けたが――俺が歩いているうちに、彼はまた目をつむってしまった。
そうして俺は寝室の電気を灯さないまま、そこにあるクイーンサイズのベッドへまでユンファさんを運び、丁重にそこへ寝かせた。
彼の後ろ頭をまくらに沈ませ、かけ布団もかけてやる。――そして自分も彼の隣、その一枚のかけ布団のなかに入り込み、あお向けで体を横たえた。
「…………」
俺は布団の中で目をつむり、今夜はユンファさんを抱けないのだな、と考えていた。――率直にいって肩すかしを食らったような気持ちでもあったが、どこか安心してもいた。
……何か正しい直感があって、俺は浴室で二度も自慰をし、その欲望を発散したのかもしれない。
そう思えば俺は悔しくもなく眠れそうだ。
ましてや思い出せば眠れなくなりそうなほど嬉しいことに、ユンファさんとはもう恋人関係となれた以上、彼を抱ける機会はこれからいくらでもあろう。
何も今日という日にあえて無理強いをする必要はない、と、俺は余裕のある男ぶって考えた。――それでも「したくない」といえば嘘ではあったのだ。
しかし俺の隣でユンファさんが、ひそめられた声でこう話しかけてきた。
「ソンジュ…」
「……はい…?」
「僕のこと…いらないの……」
彼はやはり酔っているようだった。いささか舌たるい調子でそういったのだ。
「え、…はは、…要らないですって? 勿論必要ですよ。俺にはユンファさんが必要です。」
「…いや、そうじゃなくて……僕の、からだ……」
「……、…」
……なるほど、要するにユンファさんは「(僕と)セックスしなくていいのか」と言いたい。――付き合うまではし な い 、と俺が(一方的に)宣言していたその行為も、正式に交際を開始した今ともなれば、もうなんのはばかりもなくできるじゃないか、と。
ただ…――眠たくなるほど酔っ払っている人を抱いてもよいものかどうか…、途中で彼の気分が悪くなってもよくない。と俺はその懸念から、あまり気が進まないでいる。
「ですがユンファさん、今酔って…」
「…別に酔ってなんかない…。ね……それより、ほら……」
とささやき声で言いながら、ユンファさんは俺の片手をその熱い指先で取った。――そうして俺の手は、彼のガウンの下半身の合わせの下に導かれ……、するとにわかに、ドクンッと俺の心臓が荒波を立てた。
「……ッ、ゆ、ユンファさん、はは、濡れ…て……」
俺は驚いたなかば歓喜の興奮を覚えた。
今俺の中指の先に触れたのは、彼の大陰唇にあたるふにふにとした場所であったが、熱くなっているそこはぬるりと濡れていた。おそらくそれは彼の愛液であった。なおそのさい自然と俺の手のひらに触れた、布越しの彼の勃起した陰茎も、俺の興奮の大きな要因のうちの一つになったことは言を俟 たない。
しかしいずれにせよ、無論俺は何もしていない。
それどころか、ということはユンファさんは、あえて(俺がたしかに目につくよう用意しておいた)下着もつけないで俺を待っていたということである。
……正直、可愛い、と思わざるをえなかった。俺の家に来たがったのも、一方的に泊まると言ったのもそうだが、彼、それほど俺に抱かれたいと思ってくれていたのだろう。するともしや、濡れにせよ勃起にせよ、期待をして……?
「…はは…、…………」
可愛い…可愛すぎる…――だがそれを俺から言われるのを嫌っているユンファさんの前で、まさかそれを吐露するような真似はしなかったが。
「君を待ってる間に…濡れちゃったんだよ…」
消え入りそうな声でそう言ったユンファさんは、あお向けになっている俺の肩に片頬をあずけ、俺の体にその細身を寄り添わせてきては、俺の股間をガウンと下着というその二枚の布越しに、そっと誘惑的に撫でまわしてくる。
「ねえ、ソンジュは欲しくない…? ――僕のからだ…、君は別にいらないの……?」
「えっ、い、いえっそういうわけじゃ、…」
俺は慌ててそれを否定しながら、彼の頭をそっと撫でる。相変わらずさらさらと手触りのよい髪だった。
「ただ今酔ってらっしゃるようだから、途中でご気分が悪くなってしまうんじゃないかと心配で……」
「もう挿れて……、何にもしなくていいから……」
こうしていまいち会話が成立しないのは、やはりユンファさんが酔っているせいであろう。
彼はやさしいささやき声でこうつづける。
「もう濡れてるから…いいよ、前戯しないで……」
「…そ、そういうわけには……というか、」
酔っているのに大丈夫なんですか、と聞きかけた俺のそれはその実――やたらと優しく撫でまわす、まさに「愛撫」をしてくるユンファさんのその手ほど、「これ」を知りおよんでいる存在もないに違いなかったが――「最終確認」であった。もともと本当は「したかった」俺はつまり、もう「抱く」というほうにほとんど気持ちが傾いていた。
……しかしユンファさんは、俺のその「というか」の先を聞きたがらなかった。遮 ってこう言った。
「嫌だ…。このまま眠りたくない……」
「……、…それじゃあ…その…――具合が悪くなったらすぐに言って…、……」
と俺は遠慮がちなおもむろさで、ユンファさんを組み敷いた。
ともだちにシェアしよう!

