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 ――愛とは一体、何だろうか。  これは哲学的な問いではない。  あるいは人によればそうとも思えるのかもしれないが、俺のこの自問には、そうした深い意味など含まれてはいない。  正解か、不正解か。  これはそうした俗な自問、いいや、疑問である。  たとえば――なぜ俺がユンファさんと結婚をしてもなお、スキンという隔たりを固持しつづけてきたか。  なぜ、結婚をする前にはさんざん「結婚をしたらスキンを外して貴方を抱きます」だなんぞとユンファさんに言ってきた俺が、なぜ、――その行為における責任の一端を、多少なりとでも以前よりかは多く担えるようになった今もなお、なぜ、――交際前から最愛の人にその行為を幾度も幾度も、数え切れぬほど求め続けられていて、なぜいまだに、――間男らはその行為を恣(ほしいまま)に、ひどく無責任にしているなか、それをして誰よりも許されるはずの夫の俺が、…そう悔しい妬ましい疑問をずっといだき続けてきたくせに、なぜ、――本当は自分だってそうした、最愛の夫との何の隔たりもない愛の行為を切望しているというのに、なぜ、  ――なぜ……。  やりきれない思いは腐るほどあるが…――その「なぜ」の答えを言えば、  それは――俺が逃げていたせいだ。  あの夜――ユンファさんがあの暴虐なサディストに酷い怪我を負わせられたあの夜を境(さかい)に、俺はなお恐ろしくなった。  俺はあのとき彼にその男と「縁を切ってほしい」と申し出たが、彼はああして結局はそれを拒んだ。  あそこまでのことをされたというのに、である。  明らかに「プレイ」の範疇を越えた暴行を加えられていてなお、である。――それどころかユンファさんは、あの夜のうちにも、「明日その男の家に一週間くらい泊まる」だなどという恐ろしいことを、平気で言ってのけただろう。  ……ただし、結局彼はあの夜、あの男の家に行くことはなかったのだが。  それはどういうことかというと――まずユンファさんは俺が薬を塗りおえたなり、また「抱いて」と俺を誘惑してきたが、さすがに内臓を傷(いた)めているかもわからない状態のその人を抱くことは憚(はばか)られたため、俺は「抱けません」とその理由を添えて行為を拒んだ。  しかしその代わりといってはなんだが、俺はユンファさんが眠るまで添い寝をして、彼の頭を撫でながら、また、しばしば唇や頬やまぶたやに口づけをしてやりながら、…つまり、そうしてその人を性感の伴わない愛撫で寝かしつけてやった――のち、自分も深夜三時に眠った――という経緯があったために、彼は結局あの夜には、あの男の家には行かなかった、というわけである。  なお、俺がわざわざそうしてユンファさんを寝かしつけた理由は――正直そのときはまだ、彼への疑念など負の感情に胸中を曇らせたままではあったが――、まずあれだけの暴行を加えられるプレイをしていては、およそその過激さによる歓喜か、はたまたもしかすれば無自覚ながらも危機感、恐怖感かとその興奮の種類はさておきとしても、そうしてアドレナリンが過剰に分泌されてしまっていてはたまらず――するとその興奮をたまらぬ欲情と、ある種彼の体と頭が錯覚していて――眠るにも眠れないのだろう、と考えたからである。  つまり今興奮状態にある、すなわち交感神経が過剰に優位になっているというのなら、そうした穏やかな愛撫をもって、眠りにも深く関わる副交感神経を優位にしてやれば――リラックスさせてあげれば――彼も眠れるはずだろう、と俺は考えたのだ。  すると存外ユンファさんは、俺が「ほら、もう寝て…」とささやいたあとまぶたにキスをすると、素直にそのまぶたを閉ざし、そしてそのあとの俺の愛撫をも大人しく受け入れた。…まあ、あるいはそれは甘受だったかもしれないが――内心では本当はどう思っていたのやらわからないが――。  ただ、時おり薄く目を開けて俺の顔を見、そうして俺と目が合うなり、彼はとろんとした眠たそうな顔をふっとほほ笑ませては、またそっと目をつむるか――あるいは、まるで俺に甘えるように……、 「ソンジュ…、もしかして…僕が眠るまで、頭を撫でていてくれるつもり……?」  と聞いてきたので、俺が「ええ」と答えると、にこっと嬉しそうに笑って、また目をつむったり――かと思えば、またしばらくして薄目を開けて俺を見、またふっと微笑んで、 「…ねえ、明日は抱いてくれる……?」 「……、怪我の具合次第…でしょうね、それは…」 「……嫌だ…、明日は絶対抱いてね……」  なんて、甘えるように拗(す)ねた顔をしてみたり…――それから次に薄目を開けたときには……、 「…ね、キスして……」  だとかと、可憐に微笑しながらおねだりをしてみたり…――なおユンファさんにはそのように何度かキスして、頬を撫でて、目を見つめて、などと求められたが、俺は今度は彼のその要求には必ず応えてやった。  そしてユンファさんの唇に俺がやさしく唇を覆い被せると、彼は「ふふ…」と嬉しそうに笑って、はむ…と俺の唇を食んだ。――しかし俺が唇を離すと、どこか寂しそうな切ない眼差しで俺を見た。  俺の胸は高鳴った。  俺の胸は、締めつけられた。  よくわからない。  ユンファさんがもう、俺にはよくわからない。  明日の朝にはきっとまた俺につらく当たるのだろうに、きっとまた、あの冷酷な人と豹変(ひょうへん)するのだろうに…、…今はこんなにも可愛い…愛おしい…――まるで俺に甘えてくれているみたいだ…、まるで、俺のことを愛してくれているみたいだ…――貴方がずっとこのままの貴方でいてくれたなら、俺はどんなにいいだろう。  永遠に朝が来なければいいのに…――。  だが、時間は残酷だ。  朝はやがて必ず来る。  夜は決して続かない。  何事も永遠ではない。  きっと、何事にも永遠などない…――却(かえ)ってつらかった。  憎むにも憎みきれない。…愛していると、結局俺はまだユンファさんを深く愛しているのだと、まざまざと思い知らされてしまう。  ……愛されなくとも構わない。それでも愛し続ける。――そう言っておきながら、結局俺はユンファさんに愛されたがっていた。――俺は無償の愛などという高尚なものを持ち合わせる聖人君子や、間違っても神などではなかった。所詮、俗念にまみれた一人の男に過ぎなかった。  それだから俺は、彼に愛されないことに苦悶し、はたまた愛されているような素振りを見せられると、思わず嬉しくなって胸を高鳴らせた。――そして、きっとだからこそ俺は、いつもこうしたユンファさんを拒みたい気持ちになってしまうのだろう。  愛されたい。夫に愛されることに、囚われているからだ。――だが明日にはまた、夫に愛されていないことを再認識すると、知っているからだ。  ……そして案の定ユンファさんは、その翌朝にはまた冷酷で、残忍な人に豹変――いいや、そのいつも通りの彼に戻った。  何にしても――ユンファさんはあの夜、「縁を切るのはやっぱりやめた」と俺に言った通り、やはりあの男とはまだ繋がりをもったままだった。  いや、それどころか、その夜を境に、かえって以前にもましてあの男と頻繁に会うようになったのである。  俺はもちろんそのことで鬼胎(きたい)をいだいた。もしまた何かあったら、と。  しかし端的にいえば、俺はユンファさんと間男らとのことに、基本関与してはならない。…要はあの「約束」とはそういうものだ。  そして俺はその件でユンファさんに文句など言えない。  あの「約束」のうちにはそうした内容も含まれているからだ。――なおそれはもちろん、相手の男に俺が何かしらを言う、することにおいても。  まして俺は、あの男とはもう縁を切ってくれ、ともう一度彼に言うこともできない。  それはなぜかといえば――俺の「忠告」を聞いたユンファさんが、自分の意思で縁を切るのならば、その「約束」の反故にはあたらないことだろうが――、何かしらやむを得ない出来事や事情もなしに再度それを申し込むことは、俺個人の都合や感情で彼らの自由を侵害する、また夫という立場をもって彼の交友関係を制限する、…すなわち「約束」の反故にあたる可能性があるからである。  したがって再度絶縁を、とは、俺は軽率にはユンファさんに言うことはできない。  ただし――、  何かまた決(・)定(・)打(・)に(・)な(・)り(・)得(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)こ(・)と(・)が起こらない限りは。  だが、…それが起きてからでは遅い。  もっとも俺だって、いくらこうして約束、約束とそれに囚われてばかりいるとはいえども、もしもう一度あのようなことが起きるのならば、さすがにそのときにはユンファさんに、無理やりにでもあの男との縁は切らせよう、とは考えていた。が、本音はやはり…――本当はもう二度とあんなことは起こさせないためにも、やはり絶縁を、と望んでしまってしょうがないでいる。  とはいえ――幸いといえば幸い――男はユンファさんに、あの夜を越える暴行を加えることはなかった。  もっともその程度はいくらもあれ以下ではあるが、やはり会うたび痣や傷やができる暴力的な行為を彼に働いてはいたようだが、それでもそれは決定打といえるほどのものではなかったのだ。  しかし、それでも俺は日々恐ろしかった。  いつまたユンファさんがあれほどまでに痛めつけられてしまうかと――ともすれば今度こそそれ以上、もっと最悪なことになってしまうのではないかと――、家にあの男の気配を感じとるたび、俺は胸の底からこみ上げてくる、戦慄(せんりつ)するほどの恐怖に支配された。  あの男は俺にまで命じた。  俺だけは必ずスキンを着けて夫を抱け、と。  とはいえ、無論俺がそれに従ってやる義理などない。  ましてやユンファさんとて、俺にそれを強いるでもないどころか、彼はなおもしばしばその隔たりのない行為を俺に求めてくる。  するといよいよ俺には、男のその驕慢(きょうまん)な命令とやらに付き合ってやるべき理由が一個も見当たらなかった。  いいやだが…俺には結果的に、男のそれに応じてやる必要性があった。  あった、というよりかは、そのプレッシャーを強く感じていた。  もし俺のせいで、ユンファさんがまた酷い暴行を受けてしまったら…――。  男は言った。 〝「お前、今後も絶対旦那と生ですんの禁止な。――それこそ中出しなんてされようモンなら、お前マジ百叩きの刑だから。お仕置き。」〟 〝「あとお前もうコイツのまんこに中出し禁止ね。…生でヤッたらコイツのこと半殺しにすっから。オーケー?」〟  俺は男のこれを単なる冗談や脅しとは思えなかった。――事実ユンファさんはあの夜、男のその要求を拒んだために、あれほどまでに酷く痛めつけられたというのだ。  すると――たとえば男に会う前日の夜に、俺が彼をスキンなしで抱いたとする。  そしてそのまま腟内射精をした場合、俺の精液が翌日にも彼の膣内にある程度のこっている状態で、彼は男と行為をすることになる。――するとさすがにどろり、と出てくるまで残っているかどうかは定かではないにせよ、少なからずそれ特有のにおいを男の鼻はかぎ取るにちがいなかった。  かといって、ならば膣内射精だけを避ければよい、とも俺には思えない。――その土壇場での回避行為には、絶対に、とまでの確証はないからである。…うっかり、何かの弾みに、ということがないとは言い切れない。  ましてや次の日にどの男とユンファさんが会うのか――その男と会うのか、はたまた別の男と会うのか――、まさか俺がそんなことを知っているはずもなかった。  そもそも当日の朝にたまたま電話をかけてきた男と会うこともしばしばだった。となれば誰と会うかなど、いよいよ俺に予測しきれるはずもないことだったのだ。  すると俺にはとてもできなかった。  もし俺たちのその隔たりのない行為があの男に露見してしまったら、そのとき、ユンファさんはいよいよどんな酷い目に合ってしまうか…――。  ……だから俺は恐ろしくて、スキンを外すことができなかったのである。  いや、そもそもあの男に限らず、サディストの間男らの何人もが、俺にはその行為を許すな、とユンファさんに言っているのを俺は聞いてきた。それはあの男ほど厳命的ではないにせよ、である。  ……すると俺はいよいよ疑心暗鬼になった。たとえ翌日に会うのがあの男ではなかったとしても、またその別の男が、俺に膣内射精をされたことを理由に「お仕置き」と称して、ユンファさんに暴行を加えるかもしれない。  俺は近ごろユンファさんを憎んでいた。  憎みきれずとも、憎らしくて憎らしくてたまらなかった。  だが、それでも恐怖するほど彼の身を案じていた。  たしかに当てつけのつもりでスキンを着けていたことも事実である。――とはいえ、俺のその恐怖による憂慮も事実である。  俺はわからなくなった。――愛とは何だ?  俺は逃げているんじゃないのか。  何か事が起きてからでは遅い。――何より、毎日痣だらけ、傷だらけ、そんなプレイを男らとしているユンファさんを、本当は止めるべきなんじゃないのか。  どうだっていいはずだろう。  あんな「約束」より、ユンファさんの体のほうがうんと大事に決まっている。  ならば自分がスキンを外さないことで陰ながら対処する――彼の身を守る――のではなく、いっそ無理にでも、あんな男らとはもう縁を切らせるべきなんじゃないのか。  あの男らにだって、調子に乗るな、もうこんなことはやめろ、とはっきり言ってやるべきなんじゃないのか。  それこそが、愛なんじゃないのか。  ただ従うだけか?  尽くすだけか?  逃げるだけか?  黙するだけか?  目を瞑(つむ)るだけか?  それはあの「約束」を破ることで、ユンファさんに別れを切り出されることが、恐ろしいからか?  それじゃエゴだ。あんまり利己的にも程がある。自分のことしか考えていない。――ならば彼のことを想ってのことじゃないじゃないか。  ――俺は本当に、ユンファさんを愛しているのか?  俺の中にはいつも疑問があった。  結婚するまでは溢れんばかりだった俺の自信など、今やもうすっかり底を尽きていた。  しかし――俺はついこのあいだまで、  つまり、初めての結婚記念日を迎えるその約二週間前まで、  その疑問に対する答えを見つけられないまま、何ら変わらぬ日々を――俺たち夫夫にとって徒(あだ)な日々を――過ごしつづけてしまった。  何と時間を無駄にしてしまったことだろう。  俺は何て馬鹿だったんだろう。  俺たちはお互いに恐れていた。  二人の足首を結びつけているリボンが、最悪の形で解かれてしまうことを――俺たちは恐れていたのである。  だから逃げた。見てみぬふりをした。  何も聞こえていないふりをした。何も感じていないふりをした。――だから、何も言わなかった。  恐ろしいことが起きてしまうくらいならば、と、お互いの足を縛りつける輪ゴム――現状維持、俺ならばあの「約束」、それを厳守したままの現状維持――へと目を伏せ、その痛みに耐えながら、二人してただじっとしていた。  俺は怖かった。  俺も――いつも怖かった。  だが、もうそろそろ解こうではないか。  少し遅くなってしまったが、俺たちはそろそろ包装紙を脱しよう。――そしてリボンを結んだ花瓶に、薔薇(ばら)を活(い)けよう。  生(活)けなければならない。  もっとも花瓶に花を生けるためには、一旦俺たちを結びつけているリボンをほどき、綺麗な包装紙を取りはらい、輪ゴムを切って、そしてお互いの肌を傷つけあっていた棘を落とし――そうして俺たちは一旦、本当の意味で裸にならなければならない。  しかし、そのときには指先に棘が刺さってしまうかもしれない。――その棘は一生抜けないかもしれない。  それでもいいのだ。そのほうがいい。  夫を傷付けてもなお、俺自身が血を流すこととなろうともなお、俺は俺なりのやり方で、今度こそ必ず夫を幸せにしてみせよう。――もう俺たちは何も遠慮をするべきではない。もう何も呑(の)み込むべきではない。  もちろん花瓶の中でも、俺たちの肌にはときに取り残した――あるいは新たに生えた――お互いの棘が刺さることもあるだろう。だが、それが包装紙の中でよりずっと意味のある血となることは請け合いだ。  これからのその血は、ただ徒に流れて乾いた肌を伝ってゆくだけのものではない。  水の中で流れた血ならば、水に溶けたお互いのその血をお互いの体は吸収することになる。  すなわちそれは、やがて二人の血となり肉となるのだから――。  もう何も、恐ろしくない。  もう何も恐れなくてよいのだと、俺は貴方に伝えよう。  ――貴方にきちんと伝えよう。  俺は事あるごとに「貴方を愛しているから」だと言ってきた。  しかし俺は、今までそうとしか言ってこなかった。  俺は本当の意味では、ユンファさんに愛を伝えられていなかった。  俺はユンファさんに赤い薔薇を贈ろうと考えていたのである。――それと祝いのケーキ、彼の好きなブランドの財布、ペアの高級腕時計、きらびやかな大粒の宝石のアクセサリー、何がいいか、ユンファさんは何なら喜んでくれるだろうか、――いいや、本当にそれでいいのか?  そうじゃない。本当はそんなものはいらない。薔薇だけでよい。  それも、薔薇だって本当は何色でもいいのだ。  俺たち夫夫らしければ、赤だろうが青だろうが、黒だろうが、はたまた――黄色だろうが。  貴方に薔薇を贈ろう――黄色い薔薇を、たったの二本だけ。  そしてこの家という花瓶に活けよう。  それから、リボンという鍵をかけよう。  これからはもう――俺は決して貴方を逃さない。  たとえ貴方が俺から逃げようとも――。  俺は犬ではない。  自分の牙の脅威をよくよく自覚している狼、それを剥き出しにすればいよいよ憎いものを噛み殺すとわかっている狼、そして、もっとも愛しい人をも自分の狂暴な牙にかけてしまいかねないと怯えて牙を隠し、その人を失うことを恐れ、少しでもまともになりたい、と負け犬のふりをして暮らしていた――俺は臆病者の狼だった。  いいや…――何だって?  まともになりたい?  まともになりたい、だって?  ちゃんちゃらおかしな話である!  俺がまともになどなれるはずがないだろう!  なぜって、ま(・)と(・)も(・)で(・)は(・)な(・)い(・)人(・)が(・)俺(・)の(・)夫(・)な(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)!  いいや、いいや、いいや、  俺たちは二人ともまともではない。  どちらも全く、全くまともではない!  そう、だ(・)か(・)ら(・)俺(・)た(・)ち(・)は(・)運(・)命(・)の(・)つ(・)が(・)い(・)な(・)の(・)だ(・)!  ――大丈夫、誰にも気が付かれやしない。  外向きには花瓶を綺麗な「よくある夫夫」の包装紙でくるんで、俺たちの素肌をすっかり隠してしまえばいい。  ユンファさんの服の下にひそんだ甘い鍵付きのリボン、いつも俺の愛はその体に巻きついて彼を俺に縛り付けているが、それは花瓶のなかに住む俺たち以外の誰の目にも見えない。  ……きっといつかユンファさんは素知らぬ顔をしてスーパーに買い物へ行き、俺も素知らぬ顔をして仕事関係の人々と会い、親族と会い、友人と会い、そうして彼も俺の夫として誰かの前、俺も彼の夫として誰かの前、俺たちは素知らぬ顔をして「うちの夫が」と微笑むことだろう。  ――世の中のふうふだって、大なり小なりみんなそうしているのだから、これは何も変なことじゃない。  だけれど、貴方の心に俺にしか開けられない鍵をかけられたそのときには、…いいや、…きっといつかは解いてあげる。  その錠付きのリボンが本当に必要なくなったときには、俺たちの暮らしている花瓶のそのくびれた首に、愛らしい水色と薄紫色のリボンを飾ろう。――本当の意味で俺たちを結びつけている、その愛らしいリボンを。  だから――さあ、もう恐がらないで。  さあ、もうこの鍵をかけよう。  その鍵無くして、何が夫夫だったろう!

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