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俺は――これからは俺の言うことのその全てに従う、と「約束」したというのに――それを反故にし、「気持ちいい、もっと僕の乳首をいじめて」と言うことを拒んだユンファさんに、お仕置きをすることにした。
……では、そのお仕置きとは何か――?
まず俺はあの直後一切の愛撫をやめた。
当然だろう。「もっとして」と彼は言えなかったのだから、それをやめられてしまっても仕方がない。
さらに彼のなかにあるバイブも静止させ、その真っ白な胸板を露出させるまでまくり上げていた、白いTシャツの裾もすっかり下ろしきり――しかしその人の両手首は、依然ベッドヘッドに拘束したまま――、
そして優しく丁寧な手つきで――かけ布団を、その胸までかけてやった。
こう微笑みかけながら。
『ふふ…俺の言うことをきちんといい子で聞けるようになるまで、セックスはお預けです…――さあ、おやすみなさいユンファさん…、どうぞ良い夢を……』
『……へ、…っちょ、ソンジュ、…君何言って、…』
すると当然、ユンファさんは目を瞠って絶望した。
さんざ焦らしに焦らされた末に嬲られた乳首の快感は、その快感の微弱な電流の送られた彼の子宮を甘美に収縮させ、その子房 に更なる強烈な刺激を夢見させたことだろう。――また今しがたまで膣内で振動していたバイブは、俺の雄 しべを迎え入れるためだけに、その果肉をなお瑞々 しくやわらかにほぐしたに違いない。
だが、ここで終わってしまってはそれも徒である。
その蜜の溢れる果肉がえぐれんばかりにこすられるのを、その子房がつぶれんばかりに突き上げられるのを、そのためだけに火照ったその体がどれだけ待ち望んでいることか。
ましてや、これまでは妖艶な薫 りで誘うまま毎日欲しいだけその花果 を間男らに、そして俺にもほぼ毎日一度は喰 わせてきたというのに、今日は疼かせるだけ疼かされて、しかしそうして熟 れきってもなお、一度も喰われるまでには至っていない。――すると日々その逸楽にふけるのに慣れた月下美人の華は今、どれだけその快楽を切なほど欲していることか……。
だが――終わりだ。
本当にここで幕切れだ。
なぜといえ、これはお仕置きなのだから――。
……俺はその後ベッドサイドランプの灯 りを消し、そして扉を開けてこの寝室から出ようという間際、ドアノブに手をかけたまま一度背後に振り返り――終始『待って、嫌、嫌だソンジュ、』と俺を引き留めようと焦っていたユンファさんに、『おやすみなさい』と優しい声で、再度――自分の意思は固いことを、その挨拶をもって――伝えてから、いよいよ寝室をあとに、パタンとその扉を閉めきった。
ただしそのあとシャワーを浴び、夕食をとり、寝支度を済ませた俺は、当然眠るために再び寝室へ――するとユンファさんは俺が隣で布団にもぐり込んでいるさなか、『ソンジュ…ソンジュお願い、犯して…』とまずは弱々しい調子で俺に頼んできた。
『は…、悪かったから、もう…、もうムラムラして…おかしくなりそう…、ねえ、お願いだから…――酷くしていいから、お願い……』
しかし俺は『いいえ。おやすみなさい…愛してるよ』と言って彼の頬にちゅっと口づけてから、恬淡 な態度でユンファさんに背を向けて横たわり、肩までかけ布団をかけて、そのまま本当に就寝した。
……もっともユンファさんはその直後、欲どしいほどの体の疼き、その焦燥 からか『おいふざけるなよ、』だの、『いいからこれ外せよ、』だのとガチャガチャ、手首を拘束する手枷の鎖を鳴らしながらわめいていたが、――俺は無視をした。
するとさすがの彼もいよいよ諦めたのか、やがて黙り込み、そしてもぞもぞと布ずれの音が聞こえはじめ――おそらくは何とか一人で快感を得られないかと、腰をくねらせてみたり、膝や内もも同士をこすり合わせてみたり、体をよじったり揺らしたりしてみていたのだろう――、極めて静かな夜の寝室には、その布ずれの音に加えて、しばらくはぁ…はぁ…とその人の秘めやかななまめかしい呼吸の音ばかりが、くり返し聞かれるようになった。
しかし所詮は無駄なあがきである。
それどころか、あまつさえそれによって、非常にかすかな快感ばかりは得られただろうことを踏まえれば、かえって余計にその火照った体を追いつめただけであろう。――まして、今疼いてたまらないところにただ入っているだけの細いバイブは、膣に力を入れて締めて快感を得ようにも、性感帯を多少圧迫するばかりで、もっとその人の下半身を焦らしたに違いない。
やがてユンファさんは観念したように、震えた小声で『せめて…バイブ…』とつぶやくように言った。
『なあソンジュ、起きてるんだろ…――お願い…せめてバイブ、動かして…、…奥突いて、お願い……』
その貞操帯に付いたバイブは、彼の奥にあと数センチで届かないように設計されている。――ただし俺がそれのリモコンで操作してやれば、その最奥をズンズンと容赦ない機械らしい速度で、かつ遠慮のない力で突き上げてくれることを、彼はこの日の昼に知った以上、当然覚えていたのだ。
しかし俺は彼のその要求もまた無視した。
なおそれは寝たふりをした、といっても決して間違いではなかったが、実はその時点ではもうすでに、俺はとろとろとした寝入り際にあった。
すると何か返事をするのさえ億劫な状態にあり、それこそもう少し目が冴えていれば更に焦らしてやるために、バイブを振動させてやるだの、それの先端を回転させてやるだのの責めをしたかもしれないが、それをしようかしまいかと迷っているあいだに、俺はその直後にいよいよ眠りに落ちてしまった。
となれば無論のこと――ユンファさんはその焦らされた状態のまま、朝を迎えることとなったのである。
それも彼は結局、その夜は一睡もできなかったようだ。…すると朝、疲れきった蒼 白い顔でベッドに拘束されたまま目を伏せ、俺が隣で起き上がってももはや微動だにしないで、また、もう俺に何を言ってくるでもなかった。
俺は、その翌朝にはユンファさんの手首の拘束を解いてやった。
それから横抱きにかかえ上げて、また共に入浴し――そして俺は、寝不足と疲労、更には俺への嫌気からヤケになっているか、もはや抗う気力も失われたらしいその人の体を、隅々 まで丁寧に洗い清めてやった。すると、それさえも彼の不満を抱えた体は愛撫と捉えたのだろう――、体を洗い終えたのち、入浴剤に白くにごった湯のためられた浴槽のなか、後ろから俺に抱きかかえられていたユンファさんは、ぼうっと目を伏せたまま、
「……、…」
湯がにごっているのをいいことに、こっそり自分のなかをくち…くちと慰めはじめた。――もちろん湯の中のことともなれば、実際には「くちくち」なんて音は聞こえなかったが、ぞく…と俺の上体に密着していた背中の肌がざらついたので、俺がまさか、と確かめるためにその人の股ぐらへ手をやると…――「案の定」…、俺はその手でユンファさんの手首を掴んで止めながら、彼の耳に「駄目…」と囁いた。
「ふふ…これからは俺に許可なく勝手にオナニーしちゃ駄目だ、ユンファ…。わかった……?」
「……、…」
するとユンファさんはうなだれ、少しだけその紅いふくよかな唇を尖らせたが、それきり自分の体を慰めようとはしなかった。――
そして入浴後は、「俺のためにお洒落 しようね」と囁きながらきちんとした服――とはいえこのあと寝てもらうつもりであるために、着ていて楽な深いVネックの黒い、ややだぼっとしたやわらかな生地の長袖のトップスに、下もそれのセットの黒い余裕のあるパンツ――を着せてやり、もちろん「鍵」もかけなおして、…自分も白いカッターシャツとグレーのスラックスを着……さらには脱衣場の洗面台、その鏡の前――。
黒いVネックがなおその白皙を引きたてる自分の首もとを鏡越しに見、疲れたような諦めたようなうつろな表情ながらも、じわりとその伏し目を潤ませたユンファさんの耳に……、
「ほら俺の可愛い猫ちゃん…、とっても可愛い…。よく似合っているよ……」
と俺は囁きながら、その長めな気高い白い首に巻かれた細身の黒い首輪をチラリと横目に鏡越し、己れも確認した。
一見チョーカーと見えるようなその首輪は黒革の、太さは1.5センチほどのものである。彼のうなじ側にあるバックルや、正面中央にある――リードを繋ぐための――リングなど金具は金だ。
そしてそのリングに取り付けられた短い金のチェーンから垂れ下がる、葉付きの薔薇の花のアウトラインを緻密に模 る黒縁に、真紅のルビーが嵌 ったこのチャームは、ちょうど彼の鎖骨中央のくぼみにのるかのらぬかというところで、およそ彼が動くたびに妖しくぷらぷらと揺れて俺を誘うことだろう。
「…ふふふ…」
と俺は満足して笑う。思ったとおりだった。
ユンファさんのあまりにも白い肌を、高雅 な長めの首と繊麗 な浮き彫りの鎖骨を、この金具の金がアクセントになった黒い首輪と紅 薔薇のチャームは、より白く妖艶に引き立てている。
「ねえユンファさん…」と俺はうっとりと微笑しながら、後ろからその人を抱きしめ――そして、鏡に映る自分の首もとの首輪に見入っているそのうつろな横顔を、じっと見つめる。
「この薔薇ならば枯れようもない…――この紅く、そして黒い薔薇…、気に入ってくれた……?」
「…………」
しかしユンファさんはぼう然とした伏し目のまま、何も答えなかった。――ただしそのとき、じわりとその人の白い頬にほの甘い薄もも色が帯びたのを、俺は見逃さなかった。
俺はその頬にちゅ、と口づけてから…、
「ふふ、嬉しいんだね…? 頬をピンク色に染めて…可愛いよユンファ…――だけれどこれからは…少しずつでも、そういうこともきちんとお口に出して言えるようにしようね…、……」
とやわらかな声で言ってから、ああ、そうだった、と――昨夜、この朝にこうするつもりで――この首輪と共に、洗面台の歯ブラシ立ての前に置いておいた指輪の箱から、――これまでたったの一度も彼が着けてくれなかった――シンプルな金にやや大粒の水色のアクアマリンがひと粒あしらわれた、結婚指輪をつまんで取り……、
「首輪もそうだけれど…、今日からこの結婚指輪も、俺の許可なく勝手に外しちゃ駄目だよ……」
と囁きながら、後ろから取ったユンファさんの左手の薬指に、それをゆっくりとはめてゆく。と…――その様をぽうっと見下ろしていたユンファさんの体がぞくぞく…と小さく震え、じわりとその頬の紅潮も濃くなってゆく。
「わかった…?」俺は彼の結婚指輪のはまった左手の、その手の甲に手のひらを重ねながら、その四本の指の股それぞれに指をはめこんでやわく掴み――自分のその左手の薬指にも、シルバーに比較的大粒な、紫のやや濃いタンザナイトがひと粒あしらわれた結婚指輪がはまっていることを見せつけながら――、そう念を押した。
「……、…」
するとユンファさんは俺の結婚指輪を見下ろしたまま、極めて浅くこく…と頷いたように見えた。――しかし俺はそれでは許さず、彼の唇の両端を軽くつまんで「お返事は。」と低い声を出す。
「……っ、…ゎ…わか、った…」
ユンファさんが怯えたように眉を寄せながら、そう言いつつコクコクと頷く。
……俺はそれに満足を覚え、途端にやわらかな優しい声で「いい子だね…」と彼を褒めてやってから――その後、カチャリとその薔薇のチャームが垂れ下がるリングに、金のやや細めのチェーンリードを取り付け――そして「さあ行こうか」と声をかけながら、それを優しく引いて歩き出した。
――ユンファさんは無言で追従した。
しかしリビングまで来たところで俺が足を止めると、一方ユンファさんの足は自発的にキッチンへ向かおうとした――ので、俺はその人の肩を掴んで引き留め、向かいあう。
と、彼はどこか怯えたように目を伏せて――すなわち俺を見ず――、かすれた小さな声でこう言う。
「料理作るから…朝飯……それと、夕飯の支度……」
「…ありがとう。」俺は朗らかにそう言って、ちゅっとその人のふくよかな紅い唇にキスをし、しかし続けてこう言った。
「ですが、結局昨夜は少しも眠れなかったんでしょう。――朝食くらい俺が作りますよ。…それに夕食も、たまには何か出前でも頼みましょう。」
「…っでも、…」
ユンファさんは焦ったように俺を見た。
だが一方の俺は優しく彼に微笑みかける。
「何も恐がることはありませんよ…、たかだか一日やそこら手を抜く如 き、何だというの…。んふふ……」
「……、…」
するとユンファさんは口を小さく開け、驚いたような顔をして固まった。しかしその表情は困惑に曇り、また俺を見るその薄紫の瞳も小刻みに揺らいでいる。
俺は微笑んだまま、さらに彼にこう感謝を伝える。
「いつも感謝しています。本当にありがとう。…ユンファさんの作ってくれる料理はいつも最高に美味しいし、…貴方の完璧な家事には生活を助けられている以上に、この家を高級ホテルの住み心地とまでランクアップさせ、俺の生活を極上のものにしてくれています。…そして勿論、俺はこれからも貴方に家事をお任せすることでしょう。……だが…、いくら専業主夫とはいえ、貴方にだって何もせずに休む日が必要です。」
「……、で…でも僕…働いても、ないのに……」
するとユンファさんはそう複雑そうに表情を曇らせたまま、ぼそりと――アルファ属の俺でなければ聞き取れないだろうほど――小さな声で言った。
しかし俺は「何を言うの、」と破顔した。
「貴方は立派に働いてくれているじゃないですか。毎日毎日…達成したと思えばまたタスクを課せられ、やってもやっても尽きることのない仕事を、貴方は日々不器用なほど完璧にやってくれている。――まあ、確かに家事炊事をやっても収入源にはならないかもしれないが、それで俺の生活を支えてくださっているのだから、結果的には収入に繋がっている仕事ですよ。」
「……、…」
ユンファさんはぽかんとした。
俺はにこやかなまま、その人の驚きに明るんだあわい薄紫の瞳を見つめて、こう続ける。
「俺と貴方の仕事は、生活の支えている部分が違う。ただそれだけのことで、その価値は同等のものです。――すると俺は夫として貴方に日々感謝こそすれ、まさか一銭も金を稼いじゃいないのに、などと貴方を侮 る道理がありません。――しかし、」
と俺はやや眉尻を下げながら、ユンファさんに小首をかしげて見せる。
「こと俺の仕事は、休みを取ることだって思うままに出来る。…その一方で貴方の仕事は、毎日毎日、やってもやっても尽きようがありません。――なら、その点も夫夫として同じにしましょう。…これからは貴方の思うままに、…いえ、それがどうしても難しいというのなら、何曜日は必ず、と決めて最低週二日は休みを取ってほしい。――まあ要は…」
そして俺は顔の傾きを正してから、ユンファさんににこっと笑いかける。
「これからはほどほどに、サボって。」
「……、サボ…サボれ…って、」
するとそう、ユンファさんは驚きまじりの、明らかに動揺した不安げな表情を浮かべて言う。
「わざわざサボれって言うのか、君、…僕に……?」
俺は「ええ。」と明朗に肯定してから、やや眉尻を下げ、真剣な低い声でこう言う。
「ねえ、ユンファさん…、〝唯一の存在意義だ。僕はそれでなくとも役立たずなんだから、家事くらい完璧にやらなきゃ、きっといつかソンジュに捨てられてしまう〟――〝それに、僕がソンジュに必要とされることなんか、せいぜいそれくらいしかないんだから〟……、それは全て、貴方の悪い思い込みです。」
「……、…、…」
ユンファさんの驚いた顔が、たちまちうす赤くなってゆく。――しかし俺はまっすぐに彼の目を見据えたまま、
「俺は貴方の仕事ぶりを必要として結婚した訳じゃないんです。…家事炊事をやろうがやるまいが、また手を抜こうが抜くまいが変わらず――そして貴方が休んでいるその時にも何も変わらず、貴方は俺には必要不可欠な、大事な夫なんですよ。」
と強い断言の調子で言ったあとには、…またふっと微笑して、驚き顔のままのユンファさんの両肩をぐっと掴み――ぐいぐいと押してゆく。
「あっちょっ、おいっソンジュ、…」
「それに、そもそも我が家は子供もいない夫夫二人だけの家庭です。…週休二日でも十分に回せるでしょう。――ということで、…トーストでも焼いてきますね。」
そしてそのまま彼をダイニングテーブルの椅子に座らせてから、俺は早速足早にキッチンへ向かった。――
そのあとは共に向かい合ってダイニングテーブルに着き、朝食を済ませた。
俺は今しがたプレゼントしたばかりの黒い首輪がよく似合う夫に、改めて惚れ惚れと、満足して常ににこやかに朝食を楽しんだが――その一方で、ユンファさんは椅子に姿勢よく座って、焦げた目玉焼きののった、これもまた焦げ気味のトーストを文句も言わずに食べてくれたが、しかし目を伏せたまま、ほんの数回ばかりしか、対面に座る俺のことを見てはくれなかった。
ただ、
「すみません、焦がしてしまって。――考え事をしていたもので、つい火をつけたトースターやフライパンのことを忘れていました。…はは…やっぱりユンファさんは凄いんだな。…俺も料理の練習をしないと…、今度、教えてくださいね。」
と俺が照れくさく笑いながら言うと、彼は伏し目のままながら、ふ…と少しだけ口角を上げてくれたのだが。
そしてその朝食の後は、俺は椅子に座ったままのユンファさんの首輪――それについたチェーンリードを軽く引き、するとふと儚げな不安そうな顔で俺を見上げた彼に「さあおいで」と――そのまま書斎兼自室に連れて行った。
そしてそこで、ユンファさんに微笑みかけながら、こう言ったのだ。
「お手洗いに行きたくなったり、寂しくなったり…何かあったら遠慮せず、いつでも声をかけてくださいね。」
「……、…」
そのときユンファさんは不安げな顔をして、ただじっと俺の目を見つめた。
――檻越しに。
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