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 俺の可愛い可愛い猫ちゃんのケージには、飼い主の匂いがするふかふかのベッド、美味しいおやつと飲み物、それからおもちゃを――。  四方の白い壁が背の高い本棚にほとんどおおい隠されている俺の自室兼書斎、そこの仕事机の真隣、部屋の角(かど)に置いた――今ユンファさんが入っている――この黒い檻は、その実檻というよりか「ケージ」といったほうがいく分正しく、幅180センチ、奥行き110センチ、高さ120センチの、超大型犬用の輸入品である。  そして、それの規則正しい黒い格子(こうし)のすき間はユンファさんの腕が一本通ってやや余裕があるほど、また外側上部にはいくつかのフックが並んでいる――それはたとえばリードや、手枷や足枷などの拘束具なんかをかけるためのものである――。  なお底面は目の細かい金網状だが、ただし今それを目視することは難しく、…というのも俺は事前に、底にパズルマットを敷きつめ、その上にその底面の約半分の面積を占めるほぼ同幅のマットレス――もともと俺がこの部屋で仮眠を取るために使っていたもの――と、そして、もう半分には黒い毛布も敷いておいたからである。  ちなみにここには、もとは俺の仮眠用のベッドが置いてあったのだが、そのベッドフレームはすでに処分した。  そしてそのマットレスにはもちろん白いシーツがかけられており、かつ俺の使っていた白いかけ布団や枕(まくら)も揃っているので、眠るにしろくつろぐにしろ、何ら困ることはないだろう。――ましてや枕もと近くの毛布の上には、小型の低い折りたたみテーブル(白い真四角のもの)も置いてあり、その上にはおやつのお菓子や飲み物、灰皿にたばこも入れておいてあげたし、スマートフォンの充電器もある――そう…俺は格子越しに、ユンファさんに彼自身のスマートフォンも渡してあげた。  スマートフォンというのは素晴らしいものだ。  それがあるだけで、暇つぶしも過ぎるほど娯楽を満喫することができる。…可哀想じゃないか。お(・)も(・)ち(・)ゃ(・)なくしては、俺の仕事が終わるまでの長い時間、「俺の可愛い猫ちゃん」を退屈させてしまうことだろう。  ましてそれを渡したのは、俺の仕事机の真隣に置かれた、この出入り口に南京錠のついた檻のなかでならば、それで何をしようが別段構わないと思うからである。――もし間男らと電話やメッセージのやり取りやをしたいというのならすればよい。  したところでどうせ徒に終わる。もう会えるわけでも家に来られるわけでもないのだから。…もっとも、ユンファさんはもうそんなことはしないだろうが。  ちなみに俺はこの檻一式を、初めての結婚記念日を迎えるその日よりも前に、実はこの部屋にすでに用意してあった。  普段ユンファさんは俺の書斎兼自室にはそうそう立ち入らない。二ヶ月に一度か二度、掃除のために入るか入らぬかという程度である。  そして俺は、基本的にはユンファさんがいつ誰とどこで会うのか、それを知らなかったが――ただし、唯一俺にもそれを把握できる期間があったのだ。  それは、毎月ほとんど予定通りに訪れてきたユンファさんのオメガ排卵期――そのおよそ一週間のあいだ、彼は必ず間男の誰かしらの家に泊まり込むのである。  ユンファさんはその理由を俺に「(避妊薬は飲むが)抑制薬を飲まないでするセックスが最高に気持ちいいから」だとか、「男らが殊(こと)にその期間中の(オメガ属の)自分の体を求めてくるから、徹底的に犯すために泊まれと言ってくるから」だとかと聞かせていたが、…まあ、それはオメガ属の自己防衛本能からのことだったのかもしれない。  その期間中、アルファ属の俺の隣で眠ることは、無理やりつがいにされる危険性がある、と彼の本能が危機感を覚え、それで比較的安全な(少なくともつがいにされる可能性はない)ベータ属の男の家に行っていたのかもしれない――などと以前の俺は嫉妬を紛らわすため、あえて理屈をつけて考えていたが――まあいずれにせよ、そうしてユンファさんがその期間にある約一週間、家を開けることは俺にもわかっていた。  したがって俺はその期間中(隙)に、事前に注文していたこれらの配達を受けられるよう日時指定し、またかつ組み立てやなかに入れるものなどの用意も、今日この日にいたる前からすでに済ませていたのだった。  しかし、それにしてもこんなのは間違いなく「悪いこと」である。  俺は学生の頃からわかっていた。――俺のかねてよりの「理想」は、世に糾弾されるべき問題、あるいは罪を孕んでいる。  そしてその「理想」を一つ叶えてしまった今、悪ければ俺は罪に問われることだろう。  それこそ夫のユンファさんに、今彼の手元にあるそのスマートフォンで通報でもされたなら、俺はいよいよ言い逃れもできない。  だが――ユ(・)ン(・)フ(・)ァ(・)さ(・)ん(・)が(・)そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)を(・)す(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)。  そもそも俺は、無理にこの檻に彼を押しこんだわけではない。  首輪からリードを外し、キィ…とそれの扉を開け、「さあどうぞ、入って」と俺は促しただけだ。  するとユンファさんは無言で、自分から四つんばいになり、そのなかに入ったのである。  ……俺はそのとき、あまりの嬉しさにわななく手指を使うのはなかなか苦労したが、ひとまずは檻の出入り口に南京錠をかけ終え、それの鍵をスラックスのポケットにしまった。  それから微笑んだ口もとをさえも震わせながら、その場にしゃがみ込み――黒い格子越しに俺のことを不安げにじっと見てくるユンファさんの頭を、その格子のすき間からさし込んだ手で優しく撫でつつ、「いい子だね」と褒めてやった。 「……、…」すると俺の目を見てくる彼の不安げなまなざしに、わずかとろんとした悦びが浮かんだ。――ああ、罪な目だ。 「……ふふ…、…それじゃあ俺は仕事をするから、終わるまでここでいい子にしていてね。…ただ勿論、何かあったら遠慮なく言ってください。……」  しかし俺がそう言うと、「俺の可愛い猫ちゃん」は少し寂しそうな顔をしたのだが――。  ただユンファさんは案外、その檻の中で悠々自適に過ごしていた。  それこそ、まずは中のマットレスでぐっすりと昼下がりまでよく眠り――それも近ごろじゃ稀(まれ)に見るほど安心しきった穏やかな顔で、すやすやと熟睡し――、ただ昼下がりを過ぎると徐々に意識も覚醒してきたか、その檻の真隣で茶革の椅子について仕事をしていた俺は、ときどき片頬のあたりに無視しづらい視線を感じた。  それでふと見下ろすと、そういうときには必ずユンファさんはマットレスに横向きに――俺のほうに顔を向ける形で――横たわり、かけ布団にくるまったまま、とろんとした眠たそうな半目開きで、俺のことを見上げていたのである。  そして俺は目が合ったときには必ず、彼にふと微笑みかけながら「どうかしましたか?」と尋ねた。  するとユンファさんは大概目をそらすこともなく、「トイレ」などとぼそり言うときもあれば――もちろんそのときには行かせてあげたが、彼は用が済むと必ずこの部屋に戻ってきて、また自ら檻の中に入った――、あるいは何も言わずにただじっと俺の目を見つめてくるだけで、それもややあってからまたそっと目をつむり、もう少し眠るようなときもあった。  しかし、だんだん眠るのも飽きてきたのだろう夕方ごろには、ユンファさんはおやつのチョコレートを食べながら(おやつはいくつかの種類を用意したが、彼がまっ先に食べたのはやはりチョコだった)、立てかけた枕を背もたれにマットレスの上に座り、スマホで動画を観たりゲームをしたり――案外快適そうに暇つぶしをしているな、と思って俺は少々微笑ましかったのだ(というのも、俺はこの檻を「お仕置き」のために用意したわけではなく、「日常」のために用意したのである。よってその中でお仕置きをすることはきっとあろうとも、彼がいい子にしているうちは、かえってそこで快適に過ごしてほしかったのだ)――が、  挙げ句の果てにユンファさんが、仕事を終えて檻から出してあげようと――南京錠を解錠しようと――している俺に真顔で言ったのは、こんな要求である。 「ねえソンジュ。…中に座椅子とかソファとか、座れるものが欲しい。――枕(これ)だと背中に鉄格子が当たって痛い。」 「…はは、」俺は思わず笑ってしまった。カチャンと鍵が開いた。  俺は笑ったまま彼をまともに見て、こう答えた。 「わかりました。…早急に、良いものをご用意しますね。」  ……可愛い猫ちゃんである。――  さて仕事を終えた俺はその夜、もちろんユンファさんとともにリビングへ行き、夕食は宣言通り出前で済ませた。  それからまた二人で入浴し、「鍵」もきちんとかけ直して、寝支度も済ませたのち――寝室に入り、ベッドサイドの暖色系のランプを灯したあと――俺は背後にふり返り、あとから着いてきていたユンファさんのことを、にわかにぎゅっと抱きしめた。 「……っ、…な、何、…」 「……ん…? ふふ、夫に抱き着くことの何がおかしいの……?」と俺は彼の耳に囁いたが、すぐに「なんてね…」と微笑する。 「…そのパジャマもよく似合ってる…。色っぽくて、凄く綺麗だなぁと思って……」  というのも、彼の今着ている黒い上等なサテンのパジャマ――余裕のあるサイズの長袖長ズボンの、しかし襟はV字に胸もとまでざっくりと開いたもの――が、俺の思っていた何倍もその人の美貌をよりなまめかしく引き立てていたのである。  俺はせっかくだからとこの折に、ついでにユンファさんのパジャマも、もちろんこれも含め、彼に似合いそうなお洒落で上等なものを厳選して、しかしそのわりには何着も買っておいたのだ(ちなみに今彼が着ているこれは俺とペアのものであるため、今は俺もサイズ違いの同じものを着ている)。  ……もっとも今までそれ代わりに着ていたTシャツや半パンの類とて、着たいならば好きに着たらいいとは思うが(それを着ていることが不満だったわけではないが)――ただし、間男に買ってもらったという衣服だけはパジャマの他も、すっかり処分してしまうつもりである。  俺はさらにユンファさんを抱きしめたまま、彼の耳にこう囁く。 「これからも俺や自分のためになら、好きな服をいくらでも買っていいからね…――でも本当に素敵だったのにな、あのもこもことした黒いパジャマも……」  ……過去の失敗の記憶が思い出されて胸が痛む――結婚してからしばらく、あのもこもこの少しセクシーな黒いパジャマを着て、あんなにいじらしく俺を誘ってくれたユンファさんに対し、あの時の嫉妬に取り憑かれていた俺ときたら、どうせそれも間男のために買ったんだろう、だなどと邪推(じゃすい)をしていたが――あれは間違いなく彼が、俺と甘く緊密な情交を結ぶために購入したものだった。  そのことを裏付けるように、…実はユンファさんは結局、その翌日にあの新品だった黒いパジャマを捨ててしまったらしいのだ。――そのことを思い出すと俺の胸はひどく痛み、今も申し訳なくてたまらなくなってくる。 「あのパジャマ、俺のために買ってくれたんでしょう…。覚えていますか、その時のこと…、貴方が俺に媚薬を飲ませてまで、抱かれたいと思ってくれて…――それなのに馬鹿な俺は、貴方の本当の想いにも気が付かず、スキンを…」 「……っ!」ユンファさんが急に俺の胸板を押しのけ、うす赤い顔をうつむかせながら、とた、とたと後ろに数歩歩き、「いや、ちが…」 「違う、あ、あれは別に、君のためなんかじゃ、…」 「…それはどうだろう…、んふふ、でもまあいいんです。そうだったならもっと嬉しいけれど…――たとえそうではなかったとしても、俺は〝そうだ〟と捉えるだけですから。」  今の、俺は。  およそ何をも恐れていない今の俺は、ただそう捉えるだけだ。――そう捉えるべきだということを、もう知っているからである。  しかしユンファさんは俺をキッと睨みつけてくる。 「…か、勝手な、…勝手なこと、…」  言うな、としかし、俺はユンファさんのその言葉をこう遮る。――数歩前に歩いて迫り、その人の顎をつまんで、くっとその顔を上げながら。 「さあそれはさておき…、今日は首輪も外さなかったし、指輪だって今も着けている…――何より、今日一日きちんと檻の中でいい子にしてくれていたから…――ご褒美をあげようね、ユンファ……」 「……、…、…」  するとユンファさんはハッと目を見張り、言葉をも失って、ただゆらゆらと揺れる赤紫の瞳で俺を見上げた。――じゅわりと、その両頬を赤らめながら。  ――そうして俺は彼に「ご褒美」をあげたのだ。  ユンファさんを横向きに抱き上げ、丁重にベッドへ寝かせたなら――組み敷き、まずはたっぷりとキスをしてあげる。  ゆっくり、じっくりと唇でもみほぐすように、彼の唇や舌やを食み……唇が離れるたびそっと彼の表情を窺(うかが)いながら――目が合うたび、ふと微笑みかけながら――唇を食みあい…舌を舐めあって、…その人の表情がとろんとするまで、その人の腰がもぞ…もぞと揺れ、膝同士をすり合わせるようになるまで――およそ二十分ほど、ただひたすらにたっぷりとキスばかりをしてあげた。 「は……、は……」  すると次に唇を離したとき、ゆるんだ半目開きで俺の目を見上げたユンファさんはもう静かにも息を上げ、くったりと全身を脱力させていた。  あとはもう俺に暴かれるのを待つのみ、といったようである。――昨日から焦らされているその人の体は、すっかりその切ない不満の疼きを、このキスによって思い出してしまった――いや、それがついに晴らされることへの期待で、思い出す以上に――それこそ昨夜以上に――その体は今疼きはじめているのだろう。  俺はそんな彼が可愛らしくって愛おしくってたまらない。――ちゅ、とその紅潮したつやのある頬に口づける。  ちゅ、ちゅと下がってゆく。それから――黒い細身な首輪を着けたままの――首筋にもキスをして、…するとユンファさんは「…ん…♡」と鼻から小さな甘い声をもらしたが、 「ソ、ンジュ…いい…、もういい……」  とふるふる小さく首を横にふりながら、俺のパジャマの二の腕あたりをきゅっと掴んで、制止してくる。 「はぁ…挿れて…、もう…今すぐ…、もう…もうキスだけで、濡れてるから……」 「……、…」  俺の頬がぞわりと粟立つ。  キスだけで濡れている…愛する美男子のそのセリフは、俺の心身を急き立てるように悦ばせたのだ。  しかし返答はせず、俺はおもむろに彼の白い鎖骨に――パジャマのV字に裂けた襟から覗いているその鎖骨に――ちゅ、と口づけ、…ちゅ…ちゅ、とそのまま俺の唇は下がり、月の光に照らされた雪のように白い胸板へ……、  そしてそこに、一つ唇の咬み痕を残してあげた。  ……俺はやおら腕を立て、その月下の雪に落とされた血痕のような紅い痕を指先でなぞりながら……、 「さあユンファ…〝君だけのものって証のキスマークを、ご褒美につけてくれてありがとうソンジュ、嬉しい〟――俺の目を見ながらそう言って……」  と囁き声でそのセリフを求め、つと瞳を上げて彼を見る。だがその人は目を見開き、いら立った困惑の表情で俺を見上げている。 「……、は……?」 「……言えないの。…それなら…」  俺は冷ややかにふと目を伏せながら、ユンファさんの上から退(ど)こうと――その人の隣に横たわろうと――体を傾けた。が、それは嫌な彼が俺の腕をパッと掴み、「ま、待って、」 「ご、ご褒美って、…まさか、キスマーク…?」 「勿論。素晴らしいご褒美でしょう……?」  俺はにこっとユンファさんに向けて微笑む。 「だっ、だって君、」しかし俺の猫ちゃんは不満げにムッとする。 「言うことを聞いていたら、だ…抱いてくれるって、…だから今日、」 「……んん…まあ、そうですね…」  俺はそれも一理ある、と小首を傾げる。  だが、…眉尻を下げて笑う。 「だけれど貴方…、昨日のことに〝ごめんなさい、もうソンジュとの約束を破りません〟と俺に謝れてもいないのに……」 「…っいや、」するといよいよ彼は眉をひそめ、その切れ長の目で俺を睨みつける。 「そんなの後出しじゃないか、…ていうか、そもそもキスマークなんかご褒美じゃな…」 「ああそう…、わかりました。じゃあ今夜もセックスはお預けですね。…だって、またそうやって俺との〝約束〟を反故になさるんだもの。……」  俺はそう挑発しながら、再びユンファさんの隣に横たわろうというふりをして、体を少し傾けた。  しかし、すると彼は焦って「わ、わかった、」と――怒っているような勢いはあるが、泣きそうでもある切ない声で――言いながら、俺の二の腕をぎゅっと掴んで引き留める。 「ご、ごめんなさい、…」 「…ふ…、……」  まあユンファさんにしては持ったほうだろう。  俺はおもむろにユンファさんの上に体を戻しなおし(といってもその幅などわずかなものだが)、その人の赤らんだ泣き出しそうな顔を真顔で見下ろす。 「もうソンジュとの〝約束〟は破らないから、い、言うこと、聞くから、全部、…君の言うことは全部聞くから、だから……」 「……そう。じゃあ、〝キスマークありがとう〟は」  俺のその低声による要求に、ユンファさんの眉目に帯びた含羞(がんしゅう)の強ばりが濃くなる。  しかし、ゴク、と喉を鳴らしたその人はその少しの間ばかりで、潤んだ小刻みに揺らぐその紫の瞳で俺の目を見つめながら、か細い震えた声でこう応えた。 「あ…あり…がとう…、き、キスマーク、…嬉、しい…」 「……ふふ…、……」  俺は、ひとまずはそれを言えたユンファさんを褒めるように柔らかく目を細めて笑いかけ、「これからは…」と優しい囁き声で言う。 「俺にキスマークをつけてもらったら、きちんと〝ありがとう〟ってお礼を言おうねユンファ…――何故なら嬉しいことなんだから…、俺だけのものだという証をつけてもらえることは、とても幸せなことなんだから…――ね…、そうですよね…、貴方にとってはキスマークも、立派なご褒美でしょう…?」 「……、…、…」  ユンファさんは怯えたような顔で俺をただじっと見上げてくるだけだ…が――俺はおもむろに頭を下げ、再び彼の震えている白皙の胸板に唇を押しあてると、そのまま小さく唇で咬みつく。 「……っん、♡」びく、とその人の上体が跳ねる。 「……、ほら…〝君だけのものだって証をつけてくれてありがとう、ソンジュ〟は…――忘れないで…、言えないのなら、やっぱり今日も……」 「き、」とユンファさんは俺の両肩を挟み込むようにして掴み、――俺は動いていないが――行かないで、と引き留めながら、慌ててこう言う。 「き、君だけのものって証、…き、キスマーク、ご褒美につけてくれて、ぁ、…ありがとう、ソンジュ、嬉しい…」 「……ふふ…、……」  俺はおもむろにユンファさんの耳もとへ唇を寄せる。 「いい子だねユンファ、いい子だ……」  そしてそうやわらかい微笑を含ませた声で囁きながら、彼の片胸をサテンのパジャマの上からゆっくりと優しくまさぐる。 「……っ♡ ぁ……」 「……ちゃんと〝ごめんなさい〟も〝ありがとう〟も出来たね、いい子だよ…――さあ俺の可愛い猫ちゃんは、ご褒美に何が欲しいの…?」  するとユンファさんは陶然とした声で――膝の側面をすり合わせながら――、こう答えるのだった。 「おちん…ちん…、ソンジュのおちんちん、おまんこのなかに欲しい…、奥まで…一番奥までおちんちん挿れて…――僕の子宮、君のおちんちんでいっぱい突いて…、…ほ、ほしい…、です……」 「…んふふ…、……」  俺は別に丁寧語を求めたわけでもなかったが――まして淫語の類においても別段そこまでを求めたつもりではなかったが――、それによって自ら服従を示すいい子な猫ちゃんには、俺もサドの心をくすぐられてたまらなくなる。が、…躾(しつけ)にはメリハリが必要だ。――今必要なものは飴(あめ)である。 「勿論…」俺はちゅっとその熱い耳にキスをする。 「…え…」と、しかしユンファさんは、――俺がここまで意地悪をしすぎたせいか――もちろんと言うだけではいまいち安心できなかったらしく、疑わしげに恐る恐る確かめてくる。 「ほ、本当…? 抱いて…くれるの……?」 「…うん、勿論。ご褒美だからね」  俺はユンファさんの顔を見下ろした。  彼はその赤らんだ顔に嬉しそうな微笑をたたえている。――俺はそれがあまりにも可愛かったので、「他には…?」と甘やかすにふさわしい声と微笑みで尋ねる。 「他に俺にしてほしいことや、欲しいものがあれば、もう一つおまけで。」  するとユンファさんは「え…」とどこかいじらしい困惑の表情をうかべ、その瞬間は意外そうだったが、わりにすぐうっとりとした切なげな顔をして「じゃ、じゃあ…」 「い、いっぱい…したい…。いっぱい…ぁ、朝、まで…とか…、結婚する前みたいに…いっぱい…抱いて、ほしい…、……」  しかし、「けど…」と、ふとその長いまつ毛が憂いに伏せられる。 「無理…言って…ごめん…、い、今更もう…もう無理だろ、飽きちゃっただろ、僕の体なんか…――それでも毎日…その方が、むしろ奇跡だったというか……」 「…いや、俺はその実我慢していただけなんだけれど。…しかしまあ、それが無理かどうかは、これからわかることなんじゃないですか…――。」  このように、本当は高価なブランド品など要らなかったのである。

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