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思ってたのと、違う!

 電車を降り、歩くこと10分。自宅に着くと、僕はまずリュックのファスナーを開けた。  途中から妙に静かになったなと思ったら、彼はどうやら眠っているようだった。  僕は重い思いをして、文字通りお荷物である彼を連れて帰ってきてあげたというのに。  おそらく苦虫を噛み潰したような顔のまま、中から頭部を取り出す。  するとデュラハンと名乗ったこの男はぱちりと目を開け、それから大きく息を吸った。 「ぷはぁ! やっぱ外の空気、うめぇ~!」 「それは良かったね。だけど、あまり大きな声は出さないでくれる? このアパート、壁が薄いからさ」    「了解! ありがとう、亮太。放置しないでくれて、まじで助かったわ」  ニッと笑って、彼は言った。 「どういたしまして。とはいえさっさと体を見つけて、出ていってね。正直、迷惑」  僕の言葉を聞き、彼は冷たいだのお前に人の心はないのかだのと言って騒ぎ立てた。  だけどさすがにどう見てもふつうの人間じゃないこいつにだけは、人の心がないとか言われたくない。  それにしても、この生首。……いだたいどういうカラクリで、動いているんだろう?  不思議に思い、再び頭を持ち上げた。  高くかかげて、本来首があるはずのあたりを下から凝視する。  もしかして骨や肉が丸見えの、ちょっとグロい感じなのかなとも考えたけれど、そこはキレイに皮膚で包み隠されていた。 「いやん、えっち♡」  男の言葉に心底苛立ち、床に向かって投げつけてやりたい衝動にかられたけれど、それはギリギリのところで踏みとどまった。 「ねぇ、デュラハン。一応聞いておきたいんだけど。君は、妖怪? 怪物? オバケ?」  素朴な疑問を、口にした。すると男は心外そうな顔をして、唇をとがらせて答えた。 「失敬な! どれも違う。俺は、デュラハン。妖精さんです☆」 「妖……精……?」  僕の知る妖精は、羽があって小さくて。葉っぱや花でできたドレスで身を包んだ、かわいらしい女の子なイメージだ。  ……目の前のチャラい男の生首は、絶対に違う。  その考えが、まんま顔に出てしまったのだろう。デュラハンは不愉快そうに、ポンポンと床を跳ねながら言った。 「ほんとに妖精だってば! 信じられないなら、調べてみてよ。『デュラハン』で、レッツ検索ぅ!」  スマホを手に取り、言われるがまま検索してみる。するとあっさり、『デュラハン』という言葉がヒットした。  もしかして僕が知らなかっただけで、彼はわりとメジャーな存在なのだろうか?  説明文を読もうとしたら、デュラハンはそのまま跳ねながら僕のすぐそばに。そして一緒になって、スマホの画面を覗き込んできた。 『デュラハン:英語でDullahan、またはDubhlachan。アイルランドに伝わる首なしの騎乗者、または首なしの御者のこと。頭部のない男の胴体の姿で、首を手に持つか胸元に抱えている。悪しき妖精。死を予言して、死人が出る家に現れる。』 「なに、これ。縁起わるっ!」  思わず本音がこぼれ出てしまった。するとデュラハンは涙目になり、必死な感じで訴えた。 「違うって! それは勝手に人間が考えた、都市伝説的なやつ。俺は別に、死を予言したりしねぇし! それに、ほら。この愛くるしいキレイな瞳を見てみ? 悪いこと、しそうに見えるか?」  きゅるんと瞳を輝かせ、上目遣いに見つめられた。  だけど、この男。初対面の時の印象が、どうにも悪すぎる。  あの時逃げ出したデュラハンの服装は、ホストのものだったように思う。  それに女の人に、思いっきりぶん殴られてたし。  なので悪しき妖精というのは、あながち間違いじゃなさそうな気がする。  ……やっぱり僕、ちょっと早まったかもしれない。

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