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デュラハンのデュラハン
真っ白なスーツを着た身体を見ませんでしたかなどといって、聞き込み調査をするわけにもいかず。
彼の頭部をリュックに入れて、身体が行方不明になったあたりを中心に歩いて探す日々が始まった。
しかしそれっぽい噂を聞くことも、SNSなどで情報が取り上げられているのを見つけることもないまま、あっという間に時は過ぎていった。
ちなみに、この男。最初に僕が想像したとおり、歌舞伎町でホストとして働いていたらしい。
当然彼が悪しき妖精 デュラハンであることは、皆に隠したまま。
頭部と身体は完全にセパレートタイプらしく、首元はハイネックやスカーフなどで隠して。
戸籍は店長が用意してくれたからあると話していたが、入手方法はこわくて聞いていない。
そしてお姉さんに彼が叩かれた理由は、かなりドン引きするものだった
そう。お姉さんに枕営業を求められ、拒否した結果だったというのだ。
ホストって、やっぱりそうなのか……。
汚物を見るような視線を向けると、デュラハンは不本意そうな様子で言った。
『そういうホストも、いるにはいるけどさ。みんながみんな、そういうやり方をしてるわけじゃねぇよ。俺はお姫様たちを、ただ楽しませたいだけ! 好きな子としか、ヤんない主義! だからぶん殴られたって言ってんじゃん!』
それを聞き、ちょっとホッとしてしまった。……なんでだろう? 自分でも、その理由はよくわからない。
彼は妖精なので、食事をしなくても死ぬことはないらしい。だけど食べるのは好きらしく、三度の飯を毎日要求した。酒も、甘いものも好き。
一人暮らしの学生相手だというのにこの男、居候のくせに遠慮というものが一切ないのだ。
とはいえ自炊は趣味みたいなものだし、誰かとともにする食事はおいしい。だけどそれを言おうものなら、デュラハンは確実に調子に乗るだろう。
だからそんなこと、口が裂けても言ってやらないけれど。
風呂にも入りたいというから、初日は一緒に入ったのだが、これが良くなかった。
桶に入れ、僕が自分の身体を洗っていたらコイツは、とんでもないことを言い始めたのだ。
『ヤバい、勃った……』
『は?』
『だから、勃っちゃったんだよ! デュラハンの、デュラハンが!』
『なんでだよ! いったいどこに、そんな要素が!?』
身体と頭部が分離した状態でも、そういうのはちゃんと分かるらしい。もちろん僕はそんなの、知りたくもなかったけれど。
『俺実は、男もイケるんだよね。亮太だったら、あり寄りのあり。亮太のことは好きだし、身体取り戻したら一発ヤらせてくれない?』
……本当にコイツ、サイテーだな。勃ったまま街をうろつく彼の身体を想像し、ゾッとした。
『絶対に、イヤだ。全力で拒否する。っていうか、僕を変な目で見るな!』
そんなやり取りがあり、それ以降僕は服を着たまま彼を洗うことにした。
身体の方は、頭部がなくとも衣住の管理は自分でなんとかしているだろうとのことだった。生存本能からなのか、知力を持つ頭部とは違い臆病な性格なので、危険回避能力も高いらしい。
もしかしたら頭部よりもずっと優秀なのではないかとも思ったけれど、その言葉は心の中だけにとどめておいた。
そして、一週間が過ぎた頃。突如彼の身体が、見つかった。
何気なく朝の情報番組を見ていたら、ナチュラルに街中を闊歩するデュラハンの身体が映り込んでいたのだ。
「え……。デュラハン、ちょっと来てよ! あれって、君の身体だよね!?」
テレビの画面を確認し、ちょうどコーヒーを口に含んでいた彼はブフォッと思い切りふき出した。
だから僕はふきんを手に取り、テーブルに飛び散ったコーヒーをいそいそと拭き取った。
「あのバカ! 全然テレビカメラに、気づいてねぇし!」
しかし、次の瞬間。デュラハンの身体は写ってしまっていることに気づき、ものすごい勢いで駆け出した。唖然とする、僕とデュラハン。
だけど先に冷静さを取り戻したのは、僕のほうだった。
「行こう、デュラハン! ここからならそう遠くないから、まだあの辺りにいるはずだ!」
「亮太、大学は?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ? 今日は、自主休校だ!」
「ありがと、亮太。まじで俺、お前のこと好きだわ。愛してるぅ!」
いつも以上に、バインと大きく跳ねて。デュラハンは、僕の頬にキスをした。
「なっ!? デュラハン! 君はいったい、いま何を……!!」
突然のことに、はげしくうろたえる僕。だけどデュラハンはにんまりと笑い、勝手にリュックの中に飛び込んだ。
「亮太、なる早でよろしく!」
「……あとで覚えてろよ」
めちゃくちゃイラッとしたけれど、いまは彼の身体を捕まえるほうが先だ。デュラハンの言葉に従い、渋々リュックを背負った。
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