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デュラハン・ハント

 アパートの階段を駆け下りたところで、ちょうど一台のタクシーが通りかかった。  だから慌ててそれをとめようとしたら、リュックの隙間から様子をうかがっていたらしきデュラハンが、ちょっぴりバツが悪そうに聞いた。 「え……。もったいないから、電車移動じゃねぇの?」 「それだと間に合わないかもしれないだろ? 今日は、特別!」 「……俺なんかのために、いいのかよ?」  初対面の日に交わした会話を、気にしているのだろう。普段は図々しいくせに、意外と繊細なところもあるらしい。ちょっと苦笑しながら、素直に気持ちを伝えた。 「全然いいよ、デュラハンのためなら。だって君はもう僕にとって、見ず知らずのヤツなんかじゃないだろう?」    僕の言葉に感動したのか、鼻をすするような音がした。……僕の、リュックの中から。  なんだかちょっと照れくさくなり、早口で告げた。 「ちなみに君が入っているそのリュックは、僕のお気に入りだ。鼻水を垂らしたりしたら、めちゃくちゃ怒るからね! それからもう君は、黙って。運転手さんに、変に思われるだろ? お口は?」 「チャック!」  ちょっと涙声のまま、元気に答えるデュラハン。それがおかしくて、クスリと笑った。  停まってくれたタクシーに飛び乗り、行き先を告げる。  目指すは先ほどの映像にデュラハンの身体がうつりこんでいた、最近開店したばかりのおしゃれなカフェの前だ。 ***  到着前に確認したところ、すでにネットでは顔なしスーツ男のことが話題に上がっていた。  情報社会、恐るべし。  だけど常識的に考えて、そんなのが都会の街中をうろついているだなんてことはありえない。  そのためその大半は、たまたま顔が見えない角度だったんだろうという感じの書き込みだった。  だけどオカルト好きの一部の人間は、角度的に見てそれはない、カメラに気づいて逃げ出したから本当にヤバいのがうつってしまったのではないかと大盛りあがりだ。  あれは首なし騎士のデュラハンなんじゃないかと、まさかの真実にたどり着いてしまった者までいた。  ……これは一刻も早く身体を見つけてやらないと、相当ヤバい気がする。 ***  目的地に到着したけれど、もうそこにデュラハンの身体はなかった。  店の前の長い長い行列は、おしゃれ女子で溢れかえっている。  デュラハンの身体は危険に対する回避能力が高いということだったから、身を守るためにここをもう離れてしまったのだろう。 「オープンしたばっかりの店だし、人が多いな」  思わず出てしまった、大きな舌打ち。  ボソボソと小声で、リュックの中からデュラハンが話しかけてきた。 「あの路地裏が、怪しいかも。アイツ、薄暗くてジメジメしたところが好きだから。あとこんなふうに人が多いところでは、むやみに動き回る可能性は低いと思う。見つかるリスクが上がるから」 「なるほどな。身体の方は君と違って、しっかりしてるんだね」 「おい!!」  大きな声で、ツッコミを入れるデュラハン。人の目があったから慌てて咳払いをしてごまかし、彼のいう路地裏に向かい、何事もなかったような顔で早足で歩き始めた。 ***  昼間でもなんとなく薄暗い感じの路地裏に入ると、大きなゴミ箱の横で、震えながら体育座りをするデュラハンの身体がいた。 「見つけた!」  うれしくて、思わず漏れ出たいつになく大きな声。  それに驚き、デュラハンの身体はガバッと立ち上がったかと思うと、勢いよく駆け出した。 「ちょ……、待ってよデュラハン! 僕は君の味方だよ!」  慌てて僕も、そのあとを追う。だけどもともと運動神経がよろしくない上に、重たいデュラハンの頭を背負っているのだ。  どんどん開いていく距離。バイト先から近いと言っても、このおしゃれエリアは土地勘があまりない。ここで逃げられたら、まずい! 「待ってって、言ってるだろう!? デュラハン、君の頭はここだ!!」  リュックから、むんずと頭部を取り出して。デュラハンの身体めがけて、思いっきりぶん投げた。 「ちょ……! 亮太、俺の扱い雑ぅぅぅうっ!!」  くるくると高速回転しながら、絶叫するデュラハンの頭。その声に反応し、彼の身体が足を止めて振り向いた。

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