6 / 10

はじめての、キスとハグ

 慌てた様子で頭の方に向かって全力疾走する、デュラハンの身体。  それは見事頭部をキャッチして、そのままドスンと思いっきり尻もちをついた。 「あっぶね! まじで俺、顔から行くと思ったわ。まぁでもさっきまでの俺、顔しかなかったんですけどぉ!」  ゲラゲラと笑う、デュラハンの頭。  立ち上がり、それを胸のあたりで抱える彼の身体。……ホント、存在そのものがシュール過ぎる。 「ごめん。でもあの場合、しかたないだろ? ああでもしないと君の身体、あのまままたどこかに逃げちゃったと思うし」 「まぁ、たしかにな。ありがと、亮太。でもこれで、ようやく亮太を抱きしめることができる」  ニッと笑ってそれだけ言うと、デュラハンは器用に頭部を身体の首のあたりに乗せて、僕のことを抱き寄せた。 「!!!!!!」  突然のことに驚き、言葉を失う僕。  すると彼はククッとおかしそうに笑いながら、ワシワシと僕の頭をなでた。  なんだか照れくさいし、恥ずかしい。……だけど不思議と、嫌じゃなかった。  でもそのまま当たり前みたいな顔をして、彼の形のよい唇が近づいてきて。そこでようやく、我にかえった。 「ダメ!!」 「えー、なんで? 別にキスくらい、良くね? 俺は亮太のこと、すっげぇ好きだし。身体のほうも、お前のこと気に入ったみたいだしさ」  不満そうに、口をとがらすデュラハン。だから僕は慌てて、拒絶の言葉を口にした。 「ダメなものは、ダメなの! だって、ほら。ここ路地裏で人通りはほぼないとはいえ、まだ外だし!」  身振り手振りを交えて、必死に訴える。すると彼は、にんまりと満足そうに笑った。 「なるほど。ここが外だから、ダメなんだ?」  しまった! 完全に言葉のチョイスを、僕は間違ってしまったようだ。  なんて答えたらいいか本気で迷っていたら、デュラハンの大きな手が僕の手を握った。 「ここから俺んち、近いんだよね。鍵もコイツがちゃんとなくさずに持ってたから、いまから遊びに来ない?」  抱きしめていた腕を離し、長身をふたつに折り曲げるみたいにして、僕の顔を覗き込むデュラハン。  ブルートパーズの宝石みたいな、美しい碧色の瞳。柔らかなちょっと癖のある髪は、見事なまでの金髪だ。  首は離れていても、こうしてみるとやはり彼はとんでもなく美形で。  だけど身体を取り戻した途端そんなイケメンムーブを発動されたものだから、恋愛経験皆無の僕はどう反応したらいいか分からなくなってしまった。  性格も、声も、態度も。これまでの頭だけのデュラハンとまったく変わらないはずなのに、ちょっと目線が変わるだけでこんなにドキドキさせられてしまうだなんて。 「じゃあ、確認な。嫌じゃなくて、ダメなんだよな? ここだと。でもここじゃなかったら、キスしてもいいってことだよな?」  突然真面目な顔をして、そんなふうに聞かれた。だから僕は悪い魔法にかけられたみたいに、気づくとコクンと彼の言葉にうなずいてしまっていた。 「はい! 1名様お持ち帰り、確定でーす! 亮太、楽しい夜にしような? ぁ、そうだ! そう言えば最近全然ヤッてねぇから、ゴム切らしてたわ。コンビニに寄らなくちゃだな」 「その言い方! ほんとデュラハン、チャラすぎ。それと僕は家に遊びに行くとは言ったけど、君と寝るとは言ってない。やっぱりこのまま、もう家に帰らせてもらうから!」  苛立ち、いつもの調子で返したのだけれど。僕よりも大きな身体に再びすっぽり包まれて。  さらに文句を言おうとした唇は、甘いキスでふさがれてしまった。

ともだちにシェアしよう!