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あふれ出した感情
連れて行かれたのは、都内の一等地にある高層マンションの上階。あまりにもゴージャスな暮らしっぷりに、少し引いた。
「いらっしゃい、我が城へ!」
ドアを開け、エレガントに僕をエスコートして中へと誘導するデュラハン。その室内は予想に反して余計なものがほとんどなく、美しく整理整頓されていた。
「部屋、キレイにしてるんだね。なんか、意外だ……」
彼の性格から考えて、てっきり散らかし放題の汚部屋で暮らしているのだと思いこんでいた。
だから素直に、そんな感想が口をついて出た。
すると彼は不愉快そうに唇を尖らせて、反対に身体のほうはちょっと得意げに腰に手を当てた。
「掃除の担当は、そっちだから。キレイ好きというか、俺と違ってそいつはちょっと潔癖なところがあるからなぁ」
なるほど、そういうことか。その言葉に、妙に納得してしまった。上半身と下半身は別人格、を地で行くわけだ。……その意味は、普通とはちょっと違うかもしれないけれど。
ナチュラルに頭部を、ソファーの上に置く身体。どうやらそこが家での、定位置らしい。
「りょ〜た♡さっそく、しようぜ」
ポンポンと、跳ねる頭部。ナチュラルに僕の服を脱がしにかかるデュラハン(身体)。
こういうところは、一心同体のようだ。
「しない。身体を取り戻した途端、発情するな!」
「だって、ほら。こいつひとりだと、なかなか抜いたりもしねぇからさ。すっげぇ溜まってるわけよ」
ちょっと強めに言ったら、身体のほうはこころなしかしょんぼりしているように見えた。
とはいえ頭部のほうは、あいも変わらずケチだの一発ヤらせろだのと大騒ぎしているわけだが。
心底げんなりしながらも、身体のほうが少しだけかわいそうになってしまい、つい流されるがままに。
すると調子に乗ったデュラハン(頭)が大きく跳ね上がり、自分の首のあたりに飛び乗ったかと思うと僕にキスをしてきた。
先ほどファーストキスを経験したばかりの恋愛経験ゼロな僕は、正直どうしたらいいか分からない。
ちょっと途方に暮れ、されるがままになっていたら彼はクスリと笑い、目を閉じるように言った。
場数の違いを思い知らされた気がして、なんとなく気に食わない。だけどここで反抗するのは、ちょっと子どもっぽいかもしれない。
そう思ったから彼の言葉に従い、素直にまぶたを閉じた。
再び触れた、柔らかな彼の唇。でもそれに酔う間もなく、今度は舌先が口内に侵入してきた。驚き、反射的に逃げようとする僕。
なのに強く腰を抱かれ、そのままはげしく唇を貪られた。
ハァハァと、乱れる呼吸。角度を変えながら何度もキスを繰り返されると、次第に身体が熱を持ち始めるのを感じた。
でもこんなのははじめてのことだからやっぱりどうするのが正解か分からなくて、必死に腕を伸ばしてデュラハンにしがみつく。
すると彼はようやく唇を離してくれたのだけれど、その時透明の液体が糸を引き、ふたりの間を繋いで。……プツンと切れた。
まだキスをしただけだというのにとてつもなく卑猥な行為をしているような気がして、なんともいたたまれない気分になり視線を落とす。
そんな僕に見せつけるみたいに、デュラハンは自身の口元を長くしなやかな指先でぬぐった。
「かわいい、亮太。次は、唇以外も食べさせて」
頭部を、ベッドの上に置いて。デュラハンの身体が、優しく僕を抱き上げた。
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