22 / 27
第22話
秋吉に告白されたあの日から、数日が過ぎた。
大学での日々は、表面上は何も変わらなかった。毎日変わらず、講義をし、学生のレポートを採点し、自身の研究を進める。しかし、圭の内面には、絶えず静かな嵐が吹き荒れていた。
秋吉の姿をキャンパスで見かけることは、ほとんどない。彼もまた圭を避けているのか、あるいは、圭への告白を最後に、彼なりに区切りをつけようとしているのか。
どちらにしても、圭にとっては好都合なはずだった。秋吉から遠ざかること。秋吉を忘れること。今の圭にとってそれは何よりの至上命題だ。
だというのに、圭の心にはぽっかりと空虚な穴が開いている。一人でいる時の研究室の静寂が重い。実験装置の前に立っても、隣にいた秋吉の気配を思い出す。集中しようとすればするほど、秋吉の真剣な眼差しや、不意に見せる笑顔、そして最後に聞いた声――あの告白の言葉が思考を侵食してくる。
――好きです。
――恋愛感情として。俺は、藤堂先生のことが、好きです。
思い出すたびに、ぎゅっと心臓が締め付けられる。拒絶の痛みではない。むしろ、その逆だ。
秋吉の言葉は、抗いがたいほど甘美な響きで圭の心の奥底を揺さぶる。だからこそ苦しい。認めてはならない、受け入れてはならない感情。
それは、教師としても、一人の人間としても、越えてはならない一線だった。
彼の想いを受け入れてしまったら、取り返しがつかなくなる。未来へ向かおうとする若者の足を、自分の手で引き留めてしまう。誰かを『愛する』ことなど到底できない自分が。
そう、理解しているはずなのに。あの告白を嬉しいと、確かにそう感じている自分自身が、圭は最も恐ろしい。
心の奥底に懸命に封じようとしながらも、その感情は、心のどこかをじわじわと溶かしていく。振り払おうとすればするほど、かえって深く染みこんでくる。
理性の輪郭が、日に日に曖昧になっていくのを感じる。自覚していながら抗いきれないことが、こんなにも苦しいと、今まで圭は知らなかった。
まだ正気を保てている自分に、微かな驚きを覚え始めていた――そんな一月下旬のある日。
学会の準備に関する打ち合わせを終えた圭に、高瀬が声をかけてきた。
「よう、藤堂。この後、一杯どうだ? ちょっと付き合えよ」
普段なら、適当な理由をつけて断るところだ。今の圭には、誰かと酒を酌み交わすような余裕は到底ない。
しかし、高瀬の有無を言わせぬ口調と、何かを見透かすような視線に、圭は無意識のうちに頷いていた。学生時代から続くこの先輩には、昔からなぜか逆らえないところがある。
ともだちにシェアしよう!

