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第11話 18禁です
心臓が止まるかと思った。
頬に触れた柔らかな唇は甘く瑞々しいリップ音をさせると、ゆっくりと離れていく。
康介の名前がここで出てくるなんて想定外だったし、ましてやセーフワードだ。
――俺が、康介と言ったら、止めるってことだよな……?
無意識に喉が上下して、生唾を呑む。清十郎の瞳は冗談を言っている風には到底見えず、身体の中心がチリチリと燻り始めた。
「……わかった。それでいい」
吐く息が熱い。気分の高揚が抑えられず、言葉尻が消えていく。
キスして欲しい。そう思いながら唇の力を抜いて見せるけれど、寄せられた唇は口角に触れるだけで離れてしまう。切なさが胸をギュッと締め付け、視線が落ちて眉が下がる。
「新、……ストリップ。私に新の身体を、隅々までお見せください」
清十郎の熱い吐息が頬を撫で、コマンドを低く囁かれると身体中が心地良く粟立った。反射的に跳ねてしまった肩が恥ずかしくて顔を上げると、清十郎の熱心な瞳に囚われる。
強いグレアで満たされると息が弾み、爪先から一気に駆け上がるゾクゾクとした感覚に身体
が震えた。
僅かに強張る指先でジーンズのファスナーを下げると、無機質な音が室内に響く。清十郎の視線が自分の下腹部へと落ちていき、鼓動が煩く高鳴り始めた。
清十郎の視線だけで視界が滲んできて、興奮が敏感な部分への刺激を増長させる。少しでも身体を動かせば、淫らな声が出てしまいそうだった。
「はぁ……っ、ん、ここ、で、すんの?」
シャツの裾をたくし上げると乳首が擦れ、吐息交じりに清十郎に問いかけると、清十郎の視線が上がってきて微笑まれる。
「はい。新はこういう場所がお好きかと存じますので」
含みを感じる穏やかな声に思わず目を伏せてしまうと、清十郎の小さく笑う気配がした。
反論できない自分が悔しいけれど、ドアを隔てた向こう側を誰か通るかも知れないと想像すると興奮するのも事実だった。現に性器は主張するかのように下着を持ち上げていて、下着に小さなシミを作っている。
清十郎の視線をひしひしと感じながらシャツを脱ぎ捨て、床に落とす。
自分で脱いでいるはずなのに脱がされているみたいな感覚がして、脇腹に自分の手指が掠めると目を強く閉じていた。
清十郎はただ黙って見つめてくるだけで、触れてもくれない。
ジーンズを膝まで下げ、足首から抜いて下着一枚になると、清十郎がやっと反応を見せてくれた。
鼓膜を揺らす、含み笑いだった。
下腹部が疼き、足が僅かに震える。落ちた視線の先にあった性器は寸刻前よりも大きく下着を持ち上げていて、下着のシミは二回りも大きくなっていた。
「私はただ拝見していただけですが、新の身体はどうされたのでしょうか? 私の目の前で服を脱ぐことが、そんなにしてしまう程、……興奮しますか?」、
明るい室内で、隅々まで舐めるような清十郎の視線と、羞恥心を煽るような言葉で視界が滲む。気付けば呼吸も荒くなっていて、言葉も出てこないままで小さく頷くと、清十郎の唇が弧を描いた。
「そうですか。では、続きをどうぞ」
清十郎の目を見ることはできないけれど、唇はずっと視界にある。僅かに開いた唇の隙間から鈍く光る赤い舌が覗くと、使命感に駆られて下着に指をかけていた。
清十郎の目の前で自分から下着を脱ぎ、勃起しきった性器を晒す。恥ずかしくて仕方がないはずなのに、太腿までずらした下着の中から顔を出した性器は腹に突きそうな程反り返り、先走りが下着に糸を張っていた。
射貫くような視線が心地良く、快感で吐いた息が震える。
清十郎を上目遣いに一瞥すると包まれるように頬を撫でられ、思わず頬釣りしてしまうと柔らかく微笑まれた。
「見られているだけで、こんなにも大きくして、濡らしてしまう。新の身体はとても素直で魅力的ですね」
低く囁いてくる清十郎の吐息が頬を撫で、その熱さに睫毛を伏せる。耳の後ろを指の腹で撫でられると嬉しくて、触れられてもいない性器が大きな雫を作っていた。
弾けた雫が先端を濡らし、陰茎を伝う。指先でなぞられているような感覚に吐息交じりの声を漏らしてしまうと、頬に触れていた手が離れていった。
「おや、……新。涎を垂らすなんて、はしたないですよ」
笑いを含んだ声で清十郎に囁かれると、項がゾクゾクと心地よく粟立ち、先端に大きな雫が再び出来上がっていた。
「ごめ、はぁっ、……ごめん」
自然と下がった眉で清十郎を見上げるけれど、不意打ちで弾けた雫が陰茎を伝う。上擦った声が溢れてしまい、反射的に俯いた。
清十郎の興奮を滲ませた熱い吐息が肩口に触れ、息を止めるみたいにしてきつく唇を結ぶ。
「厭らしい顔も、声も、新はすべてが素敵ですよ。……ですが、隅々まで見せていただきたいので、覚えたてではありますが幾つかコマンドを使わせてください。新にもきっと、喜んでいただけると存じますよ」
「……っ、何?」
顎先に添えられた清十郎の手指に顔を持ち上げられ、強制的に顔を合わせられる。清十郎の瞳は今にも蕩けてしまいそうな色をしていて、恍惚とした吐息に息を呑んだ。
「プレゼント」
『恥ずかしい部分を晒せ』を意味するコマンドに身体は強張りを示すのに、頭の中は高揚感で真っ白になっていた。思考停止の状態で清十郎に背を向けると、足首で止まっていた下着を脱ぎ捨てる。
汗で湿った掌を壁につけ、背中を逸らして尻を突き出すようにした途端「ステイ」を告げられる。自分が今どんな体勢で、清十郎からどう見えているのかを想像すると、窄まりが疼き始めていた。
「アトラクト」
『興味を引かせろ』を意味するコマンドだった。目の前を星が飛び、呼吸が荒くなる。
清十郎に興味を持ってもらうにはどうしたらいいだろう。そう思案する反面で、この状況で興味を引けそうな動作は一つしか思いつかなかった。
自身の体液で鈍く光る陰茎に手を伸ばし、短く息を吐き出しながら片手でゆっくりと握り込む。もう片方の手は壁についたままで、陰茎に触れた瞬間に壁に爪を立てていた。
室内にグチュと水音が響き、強く目を閉じると目尻を涙が伝う。
何も声を掛けてもらえず、触れてももらえない。もしかしたら、後ろにいる清十郎はそっぽを向いているかもしれない。そんなのは嫌だ。俺だけをずっと見て欲しい。
あと一往復でもしたら達してしまいそうな陰茎から手を離し、震える指先を後ろへと伸ばすと 窄まりに指の腹を押し付けた。
「清十郎……、俺の事、見てくれてる?」
体液で濡れた指をゆっくりと押し込みながら吐息交じりに問いかけると、清十郎が小さく笑う気配がした。
「勿論です。私はずっと、新だけを見ておりますよ。明るい場所ですから、見えない部分はありません。新がお尻を震わせている姿はまるで雛鳥のよう。……可愛らしい」
清十郎の熱の籠った声は興奮が抑えられておらず、天にも昇る気持ちにさせてくる。口角が無意識に緩み、熱い吐息と共に意味をなさない感嘆の声が漏れた。
後背部に清十郎の気配を感じ、壁に影が落ちる。人肌の温もりが布越しで伝わってきて、腰に硬い熱が触れた。
清十郎の性器だと察し、淡い期待で指を窄まりから引き抜こうとすると、またしても「ステイ」を告げられる。
「続けてください。……一人でしている時と同じように。私はずっと傍におります」
耳に触れる清十郎の唇が甘く囁いてきて、目尻に溜まっていた涙が頬を伝った。
清十郎の息遣いをすぐ傍で感じながら、指の出し入れを繰り返す。肩で息をして、単調な快楽に堪えきれずに指を根元まで挿し込むと、想定外のタイミングで乳首を指で摘ままれた。
「あぁっ、…ん、はぁ」
思わず声が洩れ、身体を跳ねさせると、低い含み笑いが鼓膜を揺らす。
「背中と肩に小さい傷がありますが、これは康介さんにつけられたものですか?」
清十郎の焦らすようでいて優しい指先に翻弄されていると耳元で呟かれ、薄目になりながらも辛うじて頷いた。
苦悩を滲ませるような清十郎の声が耳に届き、肩口をきつく吸われる。
「あぁっ、ん……っ、ぁ、もっと……」
――もっと強く、乱暴にして。その噛み痕が消える位に強く噛んで、清十郎で上書きして欲しい。
喉元で止まってしまった本音が、何度も頭の中をぐるぐる回り始める。窄まりに挿し込んでいた指を動かせる余裕なんてなくて、無意識に揺れていた腰の動きについていけずに指が抜けていた。
乳首への愛撫と、傷跡を何度も舐め上げてくる舌先に声を抑えられずにいると、肩口に硬いものが触れた。
ぬるりとした舌の感触と湿った吐息。それと同時に触れているそれは清十郎の歯に違いなく、ほんの僅かな痛みで期待値が振り切る。
「んっ、……ああっ! ぁんっ、せ、ぃ、十郎ぉ……っ」
全身が脱力し、目の前が真っ白になると同時に白濁が床を汚していた。
多幸感に包まれながら息を荒くしていると、清十郎に後ろから抱き締められる。
「おや、もうイってしまいましたか。新は本当に、痛いのがお好きなんですね」
首筋に唇を押し付けられると、少しの擽ったさと歓喜で首が縮まってしまう。達したことで冷静さを取り戻し始めたせいか、耳まで真っ赤になっている気がした。
「あんま、痛くしてくれなかったくせに」
「ですが、随分と良さそうにしていらっしゃいましたよ?」
「……まぁ、ヤバかったのは確か」
全裸で抱き締められ、足元にはまだ生温かいであろう白濁が数滴落ちていた。こんな状況で隠し事をしても仕方がない。開き直りが本音を口にさせ、言った直後に後悔で睫毛を伏せる。
「過度の痛みなしでも、私は新を満足させることが出来ました。……私と新の相性は悪くないと存じますが、新のご意見を後ほどお聞かせください」
余韻さえも心地よいプレイなんて、人生で初めてかも知れない。そう思うと同時に、腰に当たる清十郎の昂りの存在が気になり始める。
「わかった。……それより、清十郎は、いいのかよ。すげー、あたってんだけど」
腰に触れているソレはとても硬くて、とても熱い。不意に大きさを想像してしまうと、両眉が情けなく下がっていた。
「はい。私は後ほど致しますのでお気になさらず。……新が私だけに好意を向けて下さるまでの辛抱ですから」
その時が近いと予言するかのような、自信に溢れた含みのある言葉で顔が熱くなり、眉間に皺が刻まれると、申し訳なさと歓喜で胸がいっぱいで言葉が出てこなかった。
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