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第14話 攻視点です

 新の身体のラインは健全な青年そのもので、掌に吸い付くようなきめ細かい白い肌は、思い出すだけで身体の隅々までを熱くさせてくる。  胸の突起は指先で弾くと挑発するかのように硬く尖り、下腹部から内腿に伝う白濁と透明な粘液は、独特の生臭さがあるにも関わらず、神聖な物のように感じられた。  新の肩には薄らと鬱血が見られ、酷く痛々しい。こんなものを作らずとも、新を満足させる事ができると証明出来たと自負しているが、新はどうお考えだろうか。  あの鬱血痕が、新が未だに元恋人の所有物であると主張しているようで、――歯がゆい。  あの日、新に向けて初めてコマンドというものを口にした。新は最後までセーフワードを口にすることはなく、キスを強請る素振りさえも見せてくれた。  けれど、新からの返事は未だに貰えていない。ここ最近の新は以前より出掛けることが増え、帰宅は大抵真夜中だ。  新の帰宅が確認出来るまでは瞼は重くなってはくれず、ただ薄暗い天井を眺めて過ごす。その時間はとても長く感じられ、大切な新が視界に映らない時間は、生きている意味を考えさせられるといっても過言ではなかった。  玄関のドアが開く音で安堵し、新が無意識に口にしているであろう『ただいま』に、小声で 「おかえりなさい」を返す。  自分の気持ちを優先出来るのなら直ぐにでも出迎えたいところだが、新はそれを望んではいない。  新は部屋に行くより先に浴室へと向かい、毎回シャワーを浴びている。夜とはいえ八月だ。あとは眠るだけなのだから、何ら不思議なことではない。  ――そう思うのに、シャワーの流れる水音が耳に届く度、どうしてだか、スマートフォンの着信音で浮かない顔をする新が脳裏に浮かぶのだ。  仕事で疲れている新を、週に何度も遊びに誘う人間が、気遣いを出来るとは到底思えない。そんな風に思うと苛立ちと共に眉間に皺が深く刻まれるけれど、新の友人を悪く思いたくもない。  この狭量にも思えるネガティブな感情はきっと、時間が迫っている焦りからだ。  新には未だに話すことは出来ていないが、九月になれば元の世界に引き戻されることが決まっている。  あんな約束なんてしなければよかった。そんな風に思いながら寝返りを打つと、隣の、新の部屋のドアが閉まる音が耳に届いた。  反射的に聞き耳を立てている自分の浅ましさに顔が強張り、新は無事に寝床についた、これ以上プライベートを探ろうとするな、と胸の内で自分に言い聞かせて目を閉じる。  しんと静まり返った空間で音を見つけようとしてしまい、そんな自分への嫌悪感で無意識に眉間に皺が刻まれた。  ――明日こそは、新にお話ししなくてはならない。  気持ちが落ち着かない原因は実は他にもあって、退職したい旨をオーナーには話したが新には話せていないことだ。無論、新の耳に一番に入れるべきだと思ってはいたが、話すことが離れることを生々しく感じさせ、喉元で他愛もない言葉に代えさせていた。このままでは話を出来ないままで、当日を迎えてしまうことになり兼ねない。  だから、出勤してすぐにオーナーへ退職の話を通し、逃げ道を断つことを選んだ。  けれど、新に一番最初に話すことを励行しなかった自分は、運に見放されたのだ。  新と二人で帰路についていたあの日、前々日にも出かけた新だったから、今晩は話が出来ると期待していたが、失敗だった。  余程大事な用事なのか、一刻を争う程に会いたい人との逢瀬なのか――。  新は自由だと思う反面で、自分の目の届かない場所での新が気になって仕方がない。  ――ずっと傍で、新を見守りたい。新の笑顔を曇らせる全てから、私が護って差し上げたい。 「新……」  口から突いて出た声が熱を帯びていたのは、新の鳴き声をもう一度聴きたいと、強く願っていたからに違いなかった。

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