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第5話
波乱の出張を終え、三日後。完治したらしい刈谷くんがようやく復帰してきた。動きの覚束ない彼を自宅まで送り届け、その後何度も携帯へ連絡はしたがいつもの既読スルーだった。顔色も戻り、動きも軽そうな刈谷くんを見て安堵する。俺への塩対応は相変わらずだったが、帰りのストーキングを拒絶しないところもいつも通りだった。部屋への侵入もスムーズで、パターン通りに刈谷くんが風呂上がりのミネラルウォーターのボトルを手にする。ベッドに組み伏せると、彼はいつも背を向ける。正面に向き合うのを異常に嫌がる。それ以外はなぜか抵抗はしない。温かい彼の肌にいくら口付けを落としても、それはそれは密に触れても、彼は見事なポーカーフェイスだ。衣擦れの音と微かな呼吸音と秘めやかな接触だけの空間で、俺にどれだけ貪られても刈谷くんはそのまま息を潜めて、流れに揺蕩うように身を任せている。とても一方的なまぐわいだ。繋がりではない。虚しいか、と問うのは贅沢な気がする。心を開かない刈谷くんが唯一俺にくれるものなのだから。そう思っていた。
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