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第9話
帰り道。今夜は背後にお供がいる。深く俯いて顔を見せてくれない彼は、ジャケットの裾を握りこんだままじっと後ろをついてきている。こんな時は不用意に声を掛けるべきではない。過剰に反応して刺激するのもよろしくないだろう。何事もないようにいつも通り帰路を進むだけだ。かつて彼がそうしてくれたように、自然を装いながら部屋の中にお供を招き入れる。
俺が鞄を室内に下ろしても、ジャケットを掴んだ手を離してはくれない。そのままスルリとジャケットを脱ぎ捨てると、彼は俺が振り返る動作にビクリと身を強張らせた。一杯一杯なんだろう。小さく震えている気がする。初めて見る必死過ぎる刈谷くんに、俺はどうしても笑みが抑えられない。未だに感心してしまう。刈谷くんのポーカーフェイスは本当に凄い。モジモジとジャケットを持ったまま手の所作に困り果てている彼は、本当に愛おしい。儚くて切なくて、狂おしい程に可愛らしい。
たまらない衝動のままに刈谷くんの体を抱きすくめると、彼はフニャフニャと脱力して崩れ落ちるように膝をついた。ひたすらなごめんなさいのループに陥った彼をやや強引に抱き起して、下劣な俺はまたベッドへと刈谷くんを連れ込む。
ベッドに転がしてまじまじと姿を見下ろすと、彼はいつも通り馬乗りの気配を察した瞬間に両腕で頭や顔を庇う素振りを見せた。これが、刈谷くんを正面から抱けない理由だ。怖いのだ。この行動の奥底に何が染みついているのか、嫌でも分かってしまう。とても繊細で痛々しい。自己防衛の両腕をそっと開いて俺は刈谷くんに口付ける。刈谷くんは、今夜は嫌がらなかった。
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