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□真相 [中学時代編]

 母と縁が切れたアイは、母方の祖父母に引き取られる事になった。母はケンカ別れの形で実家を出て行ったので、アイは他に親族がいるなんて知らずに生きて来た。  施設で迎えを待つ間、怖くて怖くて仕方がなかった。事件以来、人見知りが人間不信にまで到達していて、学校に通うのも困難になっていたのだ。道すがら、かつてのフォロワーから襲われるかもしれない。学校の誰か、同級生の親や先生が牙を隠してチャンスを窺っているかもしれない。そんな風に想像しては、夜もまともに寝られなくなるくらいにガタガタと怯える毎日なのに、初対面の人間の家で暮らすなんて、生きていける気がしなかった。  しかし、彼らは結果として真人間であった。離婚経験、凌辱や育児放棄などの虐待、強姦未遂を経て、人間不信まで抱えたデリケートのシャボン玉みたいな子を突然押し付けられる事になったというのに、警察から聴取内容を聞かされた祖父母は、涙を流してアイを抱きしめた。一瞬本能でぞわっとしてしまったが、母がよくやった、と褒める時や、襲ってきた男のそれとはどうにも違う。  おはよう、という何気なく出てくる声かけや、何でも好きなものを食べさせてあげる、という言葉に含まれているものも、打算もなくて、ぬるま湯につかっているかのように心地よい。身の安全のため、名前を「幸男(ゆきお)」に改名したのだが、それも父の名付けた「(あい)」より、よっぽど心がこもっていると感じた。(自分にはちょっと似合わないような気がして、慣れ親しんだ「愛」の方が気に入っているのは内緒である)  とはいえ、生活にゆとりができようとも、すべてが順調ではなかった。中学は地元から少し離れた場所を選んだので、アイを知る者はいなかったものの、そこでも相変わらず孤独だった。校則や目立ってしまう事を恐れ、髪は黒く染め続けていたので、周りの評価は地味で暗い男止まり。女も男も好きになれず、一人達観した目線で色めきだった男女を小ばかにする日々。  それなのに、アイの中では体をまさぐられた事が強烈に脳裏に焼け付いていて、うずいてしまう。本能はぬるま湯よりも熱い熱を求めていた。スマホでいろいろと調べて欲求を晴らすものの、思い出したくもないのに、吐き気がするほど最悪なのに、「襲われたあの時、石で攻撃しなかったら自分はどうなっていたのだろう」、「拉致が成功したら、あの男は何をするつもりだったのだろう」と思春期の妄想が溢れ出す事がある。体が熱くて、飢えて飢えてどうしようもない。  祖母が怪我で一週間入院する事になったある日の夜、ついにアイは祖父相手に欲情し、寝込みを襲って関係を持ってしまった。普段から可愛がってくれているという親しみと、相談しやすい同性である事、年寄りというのが恐怖していた男から外れていた。  事情を知る祖父は同情した。ナイーブな問題にどうしてあげればいいのか分からなくて、仕方なしに付き合うが、いつかはちゃんと好きな人を見つけるんだよと諭してくれた。  中学二年生になると、アイはとうとう同級生からいじめられるようになった。まったく新しい環境下で学校に通わせたい、という思惑が仇となったのだ。  相手は男三人のグループで、リーダーは一ノ瀬(いちのせ)ツヨシという不良だった。小学生時代からいじめの常習犯で、席が隣りになった事を皮切りにターゲットにされたらしい。女顔、オカマ、ホモ野郎の他、「ゴリラ(先生)にケツ振って媚びて来いよ」だのと下品な言葉で罵られて、周囲を不快な気分にさせた。  だが、身も心も成長し、一ノ瀬も想像つかないような胸糞爆盛りの修羅を潜り抜けて来たアイには、もう口先だけのちゃちな悪口は効かなくなっていた。女顔もオカマもホモ野郎なのも否定はしないし、何ならゴリラ先生どころか、授業で教師が変わるたびにタチネコのえぐい妄想してるし、という構えである。  お前らもまとめてクソミソに抱いてやろうか? と心の中で脅しつつ、素知らぬ顔で無視した。それで興味をなくして去ればよかったものを、アイの微妙な反応が気に食わなかった一ノ瀬は、本格的ないじめに走った。靴を隠したり、カバンを教室の窓から投げ捨てたり、机に花瓶を置いたり、トイレに閉じ込めたりする。これらもアイにとっては「ああ、ボクも似たような事してたっけな」くらいのものだったので、密かに一ノ瀬たちが持参していたエロ漫画を拝借し、修正液とペンでヤられる女の名前を全部彼らの名前に書き換えた後、図書室の読書感想文用の課題図書コーナーに置くというちょっとしたお返しをして済ませた。  しかし、給食がない日に弁当を目前でぶちまけられた時、流石のアイも堪忍袋の緒が切れた。その弁当は祖母がアイのために用意してくれたもの。アイにとって祖父母は感謝しきれないほどの恩人であり、どちらか一方であろうとも、蔑む行為は決して踏んではならない虎の尾であった。  その場では彼らの好きにさせた。腰を上げたのは翌日の放課後だ。難無く薬で眠らせた一ノ瀬らを美術準備室に連れて行くと、用意した安っぽいコスプレの制服を着て襲い掛かり、彼らの性癖をぶっ壊してやった。ついでに「いいもの見せてあげるから来なよ」と、同じくいじめられていた比留間(ひるま)ジュンという女子生徒を誘い出し、彼女の前で辱めてやると、男性不振からレズになりかけていた彼女の性癖もぶっ壊れた。  その後アイ、一ノ瀬、ジュンの三人は仲良くなった。表ではただの友人関係を装いつつ、女装・男装・コスプレをして遊びに行ったり、男二人でジュンの貞操を守護しつつ小遣い稼ぎしたり、ラブホテルに酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎするなど、本人たち的にはやんちゃ程度な、普通にアウトの範囲で遊び惚けた。  三人の中で、一ノ瀬はストッパーの役割だった。性においてはただの思春期の純真男だったため、暴走しがちなアイやジュンを諫めていた。生意気だとして、気軽に遊びたい時は二人で彼を辱めたが、一ノ瀬のしかり度合いによっては大人しく言う事を聞いた。  ジュンとはもっと踏み込んだ、アブノーマルな付き合いをした。ジュン秘蔵のエロ漫画を読み漁ったり、一ノ瀬がドン引きするようなAV鑑賞をしたり、作中の主人公や相手役になり切ってごっこ遊びをした。遊びじゃないキスもした。ゴムは使ったが生ではしていない。 「僕たち、付き合わない?」と誘われた事がある。アイも気の合う彼女の事は好きだった。  断った。アイは真剣な恋愛には踏み切れないと思った。 ――《補足》――  一ノ瀬……小柄なのを舐められないよう、ちょっと日に焼けてて、うっすら腹筋があり、耳には片方だけピアスをつけています。この「ちょっと」というところに彼の本質が見て取れます。  ジュン……短髪に近いショートの眼鏡っ娘。ぺちゃ。男装モードの時はコンタクトをして、一人称が僕になります。

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