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□真相 [現代]
卒業まで残り半年。アイは自身の身を滅ぼしかけた悪の人物を探した。当時は夜で、周囲が暗かった事や逃げるのに精一杯だったのもあって、覚えているのは大柄なデブのおっさんという大まかな特徴だけ。それでも、顔の広いアイは人脈を結集させて焙り出した。
名は、不城 キンジロウ――チハルの父親である。
キンジロウの身辺調査を行うと、有名企業の社長である事や、電車で行ける範囲に仕事場がある事、離婚済みである事、その一人娘はアイにとって大層都合がいい女である事が分かった。高飛車で面倒くさがりで、気に入った男の前では猫かぶり。おまけに高級志向のSNS中毒者ときた。あの女によく似ている。
アイはキンジロウと接触を図った。運転が出来る・筋肉自慢の仲間を集めて仕事帰りのくたびれたキンジロウを待ち伏せし、人目のつかない夜道で拉致してもらうと、寂れた廃墟でリンチを――なんて手法はアイのタチではない。ホテルをレスリングの会場に、ベッドをリングに、鞭やバイブ、拘束具など道具を用いてタイマンで激しく戦った。
「お前のッ! せいでッ! ボクがどんな苦労をしたかッ! 分かるかッ!? この脂ぎったクソッカスの肉ダルマがあぁぁッ!!」
バシィィッ! バシィィッ! パァァアンッ!!
「はうう"んっ♥ すみませんっ! すみませんっ! アイちゃんが可愛くて、居ても経っても居られなくて、つい乱暴を……っ!」
「気やすくちゃん付けするなッ! 『アイ様』と呼んでかしずけ! これからお前を飼い殺しにする女王の名だ! チン毛のブロッコリー野郎がぁッ!!」
ビリビリィーーッ!!
「ぎゃひいぃんっ♥ あ、アイ様に、いぢめて"も"らえるなんて、ぢあわせぇえ……っ♥ お"うッ♥ あへぇっ♥ 糖尿病で死ぬ前に、腹上死でイきそう……っ♥」
「勝手に死ぬなぁッ! お前の腐り切った命 をもぎ取るのはこのボクだ! くたばれえぇぇえええッ!!」
観客として同席と撮影を許可された仲間たちは、初めて見る苛烈なアイにおののき、部屋の隅に集る埃のように息を顰める事しか出来なかった。どんな方法で痛めつけてやろうだとか、相手の事をある意味で考慮しなくてはならない調教や拷問といった類いではない、殺意だ。殺意のプレイだ。熱気と汗がほとばしり、ベッドなのか皮膚なのか骨なのか分からない軋む音を響かせる。奴隷としてこき使わなければならないのに、互いにエクスタシーで死んでしまいそうだった。
流石にこれ以上は!というところで仲間たちは総出で止めに入った。後にアイは撮影映像を見た者全員から『アイ様』と呼ばれるようになった。
強力な言いなりの資金源を手に入れたアイは、作家としての腕を振るってストーリーを作り上げた。ただ単に結ばれるだけなら、頭を捻らずとも積極的なアピールでどうとでもなるだろう。だがアイの目的は違う。イブキを曇らせ、快感という甘い蜜を延々啜っていきたいのだ。恋愛経験の乏しそうな真面目男と張りぼての美人が持ち駒にあるのなら――寝取られ一択。得意分野だ。キンジロウの会社の案内パンフレットをイブキの家の郵便受けに投函して、機が熟すのを待った。
内定が顔パスで通ると、高校卒業後、イブキはキンジロウの元で社員として働く事となった。やがて数年が経ち、キンジロウの勧めでイブキとチハルは婚姻関係を結ぶ間柄に。舞台となるタワーマンションも用意した。マンションにはあらかじめ隠しカメラを何台か仕込んでおいた。カメラはこの先も細々と増やしていく予定である。
さあ、ここからいよいよ真打の登場だ。アイは満を持して隣りに移り住み、挨拶に来たイブキと久々の対面をした。特にチハルとは初顔合わせとなる。
イブキはアイにまったく気付かなかった。無理もない。彼とまともに接したのは六年間の小学生時代のうち、わずか半月程度。体格は当然、声、髪の色や長さも違うのだから。卒業式直前に一度会っているのが多少気がかりであったものの、誤魔化すまでもなかった。最初の内はごく普通に隣人として接して、飲み友達としての立ち位置を獲得した。
本格的に始動したのは、イブキが友人同士で飲み会を開いた時。一ノ瀬にすぐに帰るように促させた後、アイは到着時間を計算して部屋へ赴き、ボイスレコーダーを懐に忍ばせ、性を匂わせるアピールをしてチハルが食いつくよう仕向けた。チハルは想像以上の成果を上げてくれた。その後は、実は借金持ちであるなどと嘘を吐き、ホストの名刺をチハルのバッグに入れて帰った。
自宅謹慎中は日記を書き上げると、普通に外出した。イブキの実家と高校を訪れたのだ。
まずは肉親の仕込みから。イブキをストーキングしていた頃の知識を活用して、日時をずらす事なく庭の手入れをしていた父親と接触した。
「亡くなった友達の事がふと懐かしくなって、思い出の地を回っているんです。『冬野美海』って女の子なんですけど、イブキくんとはよく遊んでいたそうで。冬野美海と、兄の『冬野大空』について、何か伺っていませんか?」
一般モブの見た目に変装しているので、あくまで冬野美海の友人というていだ。後はトイレを借りたいとか適当な理由でイブキの部屋に侵入し、一ノ瀬のコピーとジュンのアドバイスを受けて作成した卒業アルバムを忍ばせるだけ……。
チャンスが無ければ隠しカメラの設置でどうにでもなる、くらいの軽い気持ちで構えていたが、イブキの父親はあっさり招き入れてくれて、茶菓子まで勧めてくれた。「この親にしてこの子あり」ということわざがスッと浮かんだ。
イブキの実家に出向いたその足で、今度は高校へ。イブキが同じ高校出身だったらしい「冬野大空」に興味を持った際、調査に現れる事を見越して先手を打つのだ。アイは校庭の周囲を見渡すと、ライン引きをやっている松木に目を付けた。
「松木せーんせいっ。私、誰だか分かりますか?」
「ええっと……? 悪いな、思い出せん。OBか?」
「ふふ! やだなぁ、忘れちゃったんですか? 私――ああいや、俺、三年前に卒業した『立花フミヤ』ですよ」
「三年前……は!? あのフミヤか!? 随分その……あ、垢抜けたなぁ。まるで別人じゃないか」
松木は動揺しながら本の虫だった青年の面影を探す。アイは清廉な女性の格好をしていた。フミヤという生徒をチョイスしたのは、背格好が一番近かったため。整形やホルモン注射したと言えば、それ以上は追究してこなかった。イブキの名さえ出さなければ目的が不透明であるので、後々バレても差し障りない。
「当時の卒業アルバムを見ていたら、いろいろ懐かしくなってしまって。購買部の焼きそば&からあげDXパン、競争率高くてずっと食べられなかったんですけど、あれってOB特権で買えちゃったりしません?」
「いや~、それはちょっと俺にはどうにもな~」
この場でも過去の知識が大いに役立った。学校関係者しか知らないはずの情報を出して信用を獲得し、会話に「卒業アルバム」というワードを強調させた。当時の担任はほぼ残っていないらしいので、仕込むのは松木で十分。いずれにせよ卒業アルバムに行き着くからだ。
帰宅後は、ターゲットの部屋に仕込んだ監視カメラの映像をチェックした。イブキに関する映像はすべて保管。チハルの映像も撮れたので、チハル単体のものだけを血眼になって入念に抜き出し、もし彼女が相当な悪女であれば、顔と背景に強力なモザイク処理をして売ろうと思った。
サプライズの企画が持ち上がった時も遅くまで作業を続けて、翌日の朝飯はエナジードリンクになった。
サプライズ当日は、イブキに女装をさせて一緒に買い物をした。女装をさせた時点でアイの思惑は成功だったので、おかちめんこになっても面白いと思っていたのだが、存外可愛くて驚いた。近くで見ると男だと分かるが、変ではない。か細い体つきなので服のサイズは問題ないし、簡単な化粧で済むほど素材はいい。
何より随所に見られるうぶな仕草が良かった。恥ずかしくて堪らないらしく、しきりに髪の毛で赤らめた顔を隠したり、動きに合わせて揺れるロングスカートが気になって、ぎゅっと掴んでいたり。お母さんにべったりで寂しん坊な子供のように「あんまり先に行っちゃわないで」、「どこにも行かないで」と目で訴えながらアイの腕にしがみついていた。
女の格好をした男という状況も、出掛ける理由も、頼りにされている理由も違う。――だが、本物の恋人みたいだと思った。不意に体温を感じて、性的興奮とは違う心臓の高鳴りに支配される。心を通わせる前に直結だったアイには知らない感覚だ。イブキには場慣れしているように見えたが、本人は結構無理をしていた。
(マズい……平静を装えなくなってきている。あいつらも来ているというのに、このザマでは立つ瀬がなくなるな。見られていないといいが――)
「チーズ」
カシャッ!
考え事をしていると、突如キャップをかぶった小柄な男が立ち塞がり、スマホで写真を撮って来た。イブキはアイの体にぶつかって鼻を抑え、アイは硬直する。男装したあいつら(その1)だ。
「すみませぇーーんwww、操作方法分かんなくてぇーーーwwww」とニタつきながらカシャシャシャシャシャシャシャシャ連射していると、即座につれの友人らしいあいつら(その2)が出てきて引きずられていった。
「……イブキちゃん、見た?」
「? 何か言いました?」
「……」
何も見ていないようで助かった。まあ逆の立場なら自分も同じ事をするだろうな、と考えて不問とし、イブキの乱れた髪を少し手直ししてあげようと、後ろを向かせる。
その時、通路の端の禁煙所にて、うっすらとガラス窓の向こうにブサイクなおっさんの姿が見えた。すぐさまイブキをこちら側に向かせて、視界に入らないように体を寄せる。
あいつら(その3)である。ハァハァという息遣いが聞こえてきそうなほど蠢いているのを目にしたアイは、ブチッと青筋を浮かべた。
――《サプライズ計画終了後に打ち上げした時の、アイ・一ノ瀬・ジュンの会話》――
一「ジュン! お前、俺一人の手はずだったのに、男子便所にさも当然のように入って来てんじゃねーよ! 監視役としての役目を全うしやがれ!」
ジュ「追い込まれてビクビク震えている男がいる空気を味わいたくて、つい吸い込まれてしまった。――ほら、見たまえよ、イブキちゃんの隠し撮りだ」
一「うっわ。イブキ、すっげー可愛いな……。クラスの代表として真面目にやってるイメージだったけど、こういうカッコすると、清楚系でしおらしくなっていいな。マジで可愛い」
ア「ああ、想像より似合って驚いた。次回はアップの髪型も試してみたい」
一「ウェーブ! でっかい庭でモフモフの犬飼ってるお嬢様みたいなやつ!」
ジュ「まったく、君たちはどうしてそう安直にかつらを被せようとするかな」
一「出たぜ、ジュンのこだわり癖」
ジュ「僕は男が無理して恥ずかしそうに可愛い格好するのが男の娘(少年)―—もといチン娘(成年)の醍醐味だと思ってる。けれどかつらをつけてしまう事で、似合う奴は本当に女と差異がなくなってしまう。女と差異がない奴は自信を持ってしまうのがいけない。そんなチンコついてるだけの背徳感の薄い女よりも、筋肉だるまの刈り上げおっさんがする不格好なグロチン娘の方が写真に収めたくなるな」
一「チンコチンコの連呼やめろ。こっちが恥ずかしくなるわ」
ア「ボクはどちらもいけるが、確かにかつらをつけてしまうと、イブキ本来の素材が薄れてしまうな。流石はジュンだ」
一「気付け。お前全否定されてんぞ」
ジュ「アイは特別だよ。人間と妖魔を比べては失礼だ」
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