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●番外編(全体的にギャグ)

 キンジロウ(46)は大手企業の社長でありながら、膨大な性的欲求を抱える性癖モンスターおじさんである。  てっぺんが心もとないバーコード頭と糖尿病に片足突っ込んだ豊潤な蓄え、周囲の気温を1℃上げるくらいの発汗と汗臭い匂いを漂わせるデブスで、妻からは金払いの良さを差し引いても存在が不快だと離婚され、一人娘からは父親であるのが恥だとコケにされていたりと、一見可哀想な扱いを受けている――のだが、実直に仕事をする裏で、後述するとんでもない側面を持っている。 「おっぱいでっけ~w」と肉付きの良さを周囲にいじられた事で目覚めてしまったのか、若かりし頃からスケベな事に興味津々。ビデオや雑誌、エロゲーなどを買い漁り、今では純愛から同性愛、異種族、無機物と何でもござれ。近親、NTR、性転換、レイプ、死姦、糞尿、虫、ドラッグ、グロ、果てには筆舌しがたい倫理観ゼロなものまで、隙がないくらいジャンルの好みは多岐に渡る。  それでもギリギリ趣味の範囲内に留まっていた彼だが、NOタッチの原則を破ってとうとう被害者を出してしまった。相手は当時小学男児だったアイである。最初は未亡人リストの一人として、配信活動をしていた彼の母親目当てでフォローをしていただけに過ぎなかったのだが、チラッと映った男の子か女の子か分からない美しい子供に心を奪われてしまったのだ。  キンジロウは配信を支援し、彼らのアカウントが凍結されても尚追い続けた。そうしてかくかくしかじかで済まされない事があって――現代。いつ初雪が降るとも知れない寒さの中、キンジロウはトボトボと駐車場に向かって歩いていた。12月も中旬を迎えて、道なりに植わっている樹木はイルミネーションで彩られ、一組のカップルが体全体で大型のハートを作りながら写真を撮ってはしゃいでいる。  通常運転であれば、カップルを見かけただけで「あのおっぱいはBだな。冬にストッキングは大事なお腹を冷やしてしまうよぉ。オスっ子の方は3TS(チンサイズ)かな。ワンコ系でお馴染みのモモチンくんに近い声と形のいいお尻だ~」だの「子供が生まれるまでに何回くらいエッチするのかな~」だのとゲスの勘ぐりをしてしまうのだが、今は溜息しか出なかった。今はというか、ここ二ヶ月くらいはずっと本調子ではない。 「アイ様が無事に中森くんと結ばれたのは良かった……良かったんだけども、最近めっきり構って下さらなくなってしまった。おかげでアソコもすっかりしなびてしまったよぉ~、トホホ……」  キンジロウは通称「断食モード」と呼ばれる状態だった。飢餓を越えた微欲の境地だ。鶴の一声でエロ漁りと発散行為を強制的に封じられ、苦しむ様をいじめられる事があるのだが、アイがイブキと結ばれてからは連絡の類いも一切なく放置されてしまって、調教された体が自然と禁欲するようになっていたのだ。  飼い主にねだる腹ペコの子犬(比較するのは失礼)のように、星空に向かってくぅん……と鳴くキンジロウ。星にだって、古代の天文学者がロマンチックな星座を見出したのと同様、星々をつなげ、エロティックな星座を創造して発情できるのだが、今はただの点滅にしか見えなかった。  するとその時、鞄に入れたスマホから着信音が鳴った。子供時代に大好きだった魔法熟女アニメのオープニング曲。「ひさかたのぉ~~⤴」から始まるその特別なメロディーは、彼からのコールであると示していた。キンジロウは股間の尻尾をブンブンと振り回すような気持ちで電話に出た。  アイから集合場所に指定されたのは、約一年前にイブキとチハルが住んでいたタワーマンションの、子供部屋と称した一室であった。イブキらの部屋やアイの部屋はもう別の入居者が居付いてしまったのだが、この部屋だけはキンジロウの金で契約し続けていた。キンジロウとの密会に使われているのだ。この事はイブキでさえも知らない。  キンジロウはハァハァと運動不足の体を引きずりながら玄関の鍵を開ける。目的を果たした事で、リビングだけは狂気から一変して、小ざっぱりとした空間になっていた。  たった一つしかないシングルソファーには、アイが優雅に腰かけている。キンジロウは恋する乙女のようにドキッとすると、バタバタと駆け出して彼の前に跪いた。だが「お久しぶりで――」と挨拶を交わそうとするキンジロウは無視され、アイは直ちに本題へ入った。 「ボツリヌス♥ハニーキッスという、幼児向け兼赤ちゃんプレイ向け玩具を製造販売している企業を知っているか?」 「はひ!? ……ああ、はい。おチンコにも見える哺乳瓶のロゴデザインの……おっぱいだと直球過ぎて認可が下りなかったので、ソレで断念したっていう。そこがどうしたのでしょう?」  感動の再開を期待していたキンジロウは、ちょっと残念がりながら尋ねる。アイは顎でテーブルに置かれた赤ちゃんの人形――頭部がなぜだかすっかりなくなっている――を示した。 「夫婦歴=子供の数って事にしたくてな。年一ペースで12月の性なる夜に本気子作りして、イブにサンタクロースが赤ん坊を届けてくれるというていで、そこのメーカー産の人形をイブキに贈りたいのだが、その前に恒例イベント(倒産の憂き目)にあっている」 「妥当ですねぇ」 「断食中の発言は、本気で正気を疑うな」 「下僕(ぼく)を呼び寄せたという事は、今回も企業への出資命令でしょうか……?」 「そうだ。お前はボクの貯蓄だからな。つべこべ言わずに身銭を切れ」 「つ、常々思っていた事なんですが、よ、養子を向かえるつもりはないんでしょうか……? 年一ペースの実現は厳しいでしょうが、後ろ指を指されずに夫婦だと公言できると思いますよ」 「イブキが言うに、ボクが可愛がった末にいじめてしまいそうだから人形が丁度いいのだと。人前でエロい言葉ばかりしゃべったり、風呂場を盗撮するだとかのろくでなしになりかねないし、どちらにせよ脱ぎ散らかした服で人形の呼吸器を塞いで、あまつさえ踏み壊すようなやつには、子育ては任せられないのだそうだ」  人形の頭部がなくなってしまっているのはそういう事か。腑に落ちるキンジロウ。 「金にものを言わせる下僕(ぼく)より向いてない人って、いたんですねぇ~」 「ハァ"!?」  着火したように語気を荒げて立ち上がると、アイはキンジロウを蹴とばし、脂肪の塊を何度も踏みつけた。 「ボクは手を出す前に踏み留まったんだぞ! その点、お前はどうだ!? ええ!? 小五のボクに手を出しやがって、偉ぶるなよ!!」 「はっ、はひいぃぃ~んっ! すみません、しゅみましぇん、じゅびばじぇん~~っ! 未遂だろうが男だろうが、レイプしたらその人の人生を壊してしまうんだって、日々猛省していますぅう~~~っ!」  法で裁かれていないなりの鉄槌を受けるキンジロウ。話が進まないので、手短に鞘を収めたアイはコピー用紙に印刷してきた会社のサイト情報や書類を叩きつけた。  しかし、跪いたポーズのまま書類を吟味するキンジロウの反応は、どうにも晴れ晴れとしない。 「断食中はどうも、子育てに奮起する親と、子育ての末路を想起させるような赤ちゃんプレイ勢を店内にマッチングさせるような企業は、存在しちゃあいけないんじゃないかとまともな思考になってしまって、よっぽどのものでないと気乗りはしないのですが……」 「逆らう気か」 「めめっ、滅相もございませんっ! 下僕(ぼく)はあなた様の貯蓄、キンコ(金庫)ロウ。最終的には喜んで出資させていただく所存でございますが、出来ればなぜこのメーカーの人形にこだわるのか、お聞かせ願いたく……!」  会社経営をしている長の立場からも、いつ倒れるとも知れない企業に望みはかけられないのだろう。「ったく、お前からエロを抜くと面倒だな」とアイは頭を掻いて、人形の襟ぐりを掴んだ。 「この人形は、母性に目覚めた幼児のために作られている」 「はぁ」 「だが企業が企業だ。人形の口に乳首を付けると優しくフィットし、痛くも弱すぎもしないソフトな唇の動きと、内蔵されたタンクに牛乳を仕込めば口から出てくるという細かやかな気配り、吸い付く音声のバリエーションも豊富で、母性を心ユくまで満たせるように開発してある。これは我がhentai(ヘンタイ)国が誇るべき唯一無二の一級品だ!」 「ななななななんなーーんですか! その親御さんブチギレ必須の、将来どころか生涯まで障害しかねない性癖覚醒機能が備わったいかがわしい人形はーーーー!? ど、どうか浅慮な下僕(ぼく)をお許しくださいぃ~っ! まさかそんな性なる赤子がこの世に産み落とされていたなんてぇっ!」 「このモロ出しビジネスマンのような姿勢が、人形だけに留まると思うか?」 「即刻支援いたしましょうっ!」  焚きつけられたキンジロウは書類に目を通していった。レンズの分厚い眼鏡で視界調整して、商品一覧を漁っている間、アイはテーブルの上に置いていた缶コーヒーを飲んだり、スマホを見たり、座り方を変えたりと、そこはかとなく散漫な様子を見せる。 「ちは――」 「あのぉ~、そこのテーブルお借りしてもよろしいでしょうか。流石にこの体制は腰に響いてしまって」 「借りたきゃ借りればいいだろう」 「……な、何か怒ってます?」 「怒ってない。――チハルとはその後どうなんだ」 「さ、さあ……? 事務的な連絡はしましたが、それでも無断欠勤が重なって、就業規則に乗っ取って処置したので以降はまったく。夜の街で見かけたという噂が流れた事はありますが、真実かどうかは」 「質問を間違えたな。母親でなくわざわざ父親を選び、離婚後も不自由ない暮らしを提供されたにも関わらず、散々お前を粗末に扱ってきた娘を利用され、落ちぶれて行ったのをどう思っているのかが聞きたい。スカッとしたか? それともボクを恨んでいるか?」  アイはチハルを寝取られ相手として巻き込んだ事に、余所の事情ながら若干キンジロウの報復も含めていた。バチクソ犯罪者とはいえ、女児どころか老若男女いけるキンジロウが、最も身近な肉親に手を出さなかった事だけは認めていた。勇気がなかったと言われればそれまでだが、本気になれば体格差で圧倒できるはず。アイ自身、その場に石がなければ対処できなかった。  とはいえ、報復というのはあくまでアイの言い分。キンジロウの意思は聞いていないし、アイの命令とあれば、都合をつけてでも従う精神だ。果たして、本心はどう思っているのか。アイは缶コーヒーを飲む振りをしつつ機微を観察する。  キンジロウはふっと上を見上げると、何を考えたのか、書類をペラペラめくりながら一言だけ発した。 「……生きていてくれれば十分です」 「そうか」  ――《補足》――  ボツリヌス・・・ラテン語でソーセージの意味。19世紀のヨーロッパでソーセージやハムを食べた人に起きた食中毒からとった(Wikipedia談)らしいですよ。はい。  時系列は、本編(春)→番外編(12月)→■新しい生活(一年後の春)となってます。一軒家が完成するまで別のマンションに移り住んでいます。頭部のない人形は買って即日に壊したのと、夫婦歴=人形の数とするのも踏まえ、名前のない0番となりました。

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