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【1】※

「はぁ、はぁ、、」 「…あ、、うっ、、は、はっ」 壊れかけのベッドがギシギシ、ミチミチと、変な音を立てている。2人で横になるには狭いベッドだが、横にならなければ狭いとは感じない。 「…っ、いくっ…いきそ、」 「は、はっ、はぁ、お…れも、」 一層ギシギシとスプリングが音を立てている。セックスをしてる男が射精する瞬間って、気持ち良く絶頂を迎えるために腰を大きく速く振り回すもんだ。 精子をおもいっきりぶっ放すためなんだから、そりゃそうなる。だから、壊れかけのベッドも更に大きな悲鳴をあげることになるんだ。 男同士だからその辺のことはよくわかる。 セックスしてて気持ちがいいところも、いきそうになったら腰の動きなんか止まらなくなることも。 無我夢中で腰を振り回すのは、男なら当たり前のことで、みんなそんなもんだろう。 「だ、すぞ…」 「っっ、ああっ、いく…」 外はまだ薄暗いみたいだ。 この時期は特に濃い霧が街を覆う。 霧の影響で街は涼しく、朝夕は寒く感じることもあるけど、日中の日差しはギラギラとしていて厳しい。 空調が効かないこの部屋は、そんな日中の暑さとはまた別の蒸し暑さがある。それと、たまに息苦しく感じることも。 だけど、そんな息苦しさは嫌いじゃない。 覆い被さっているテオが、肩で息をしている。相変わらず彼の身体は熱い。 この部屋の息苦しさが嫌いじゃない理由はわかっている。テオに抱かれると、不自由なく甘やかされ満たされる。そして、テオの無遠慮な甘やかしが、嫌いじゃない息苦しさを生んでいるからだ。 熱い身体も、肩で息をする仕草も、言葉なんかなくても、テオに甘やかされているそう実感できる自分のことが好きだと、カミロは思う。 「...明日、休みだろ?俺もだけど」 息切れをしながら、答えを待たずに問いただされる。テオはもう一度セックスを始めようとしているのか、新しいコンドームに手を伸ばし、付け直そうとしていた。そんな上半身を起こしたテオを、下から蹴飛ばしてやった。 「いいかげんにしろって!明日っていうか日が変わってもう今日だぜ?もうそろそろ、オリバーも起きてくるころだから」 「いいじゃん!休みなんだろ?たまには構えって。俺の相手もしてくれよ」 部屋の中は数本のロウソクの影が、時々ゆらゆらと壁を揺らしていた。割れた窓ガラスからゆるい風が入るが、ロウソクの火は消えない。 薄明かりの中、ふざけて拗ねる仕草をするテオの姿もはっきりと浮かび上がっている。カミロはそんなテオの顔を見て、声を上げて笑った。 「あははは、相手しろって?今夜はずっとお前の相手ばっかりしてやってるじゃん。何度目だよ、セックスばっかりしてるだろ?」 「明日休みならこのままもっと相手しろよ。セックスじゃなくてもいいからさ」 テオは拗ねた顔を崩さず、ギシッと音を立てて身体をベッドにぶつけた。身体の大きなテオが隣に寝転ぶと、ベッドは急に狭くなった。このベッドは子供用のはずだ。 「だから、ここに二人並んで寝ると狭いんだってば。あはは、お前は本当に…」 ぎゅうぎゅうとカミロに抱きつき、無駄に絡んでくるテオの頭をこづくように撫でた。汗でカールしている髪が愛おしく感じる。 テオとカミロは同じ年。幼馴染なんかではなく、何となくこの辺で遊んでいて仲良くなった関係だ。 昔は高級住宅街と呼ばれていたこの辺りだが、今ではゴーストタウンとなり、夜になると若者たちの遊び場となっていた。 ここに集まってくる奴らはみんな同じような生活水準者。低所得でいわゆる貧困エリア、スラムとも呼ばれているところで生まれ育つという共通点がある。 そんな奴らはみな、寂しさを紛らわせるように時間を持て余している。だから夜な夜な集まり始め、廃墟の部屋に侵入し音楽をかけダンスをしたり、ライブをしたり、路上でスケートボードやBMXで遊び、更にはバスケやサッカーでバトルをしている。 いわゆるブロックパーティが、毎晩ここ廃墟で開催されている。 皆が適当に持ち寄ったアルコールを飲んだり、潰れたジャンクフードを食べたり、だけど楽しくて笑ったり。そんなことをしながら、朝まで退屈な時間を過ごしている。 初めてテオと会ったのは、壊れたスケートボードを彼が抱えてたときだった。大きな身体のくせに、まるで子供のような顔で泣き出しそうになっていたテオを見て、思わずカミロは吹き出した。 __テオがカミロに身体を絡みつくたびに、ギシギシと壊れかけのベッドが音を立てている。 ゆらゆらとロウソクの炎が揺れる壁にも、そんなテオの動く影が写っていた。 二人がセックスをするここも、廃墟マンションの一室だ。スケートボードで遊んだ帰り道、二人はこの廃墟マンションの一室に忍び込むのが日課となっていた。 電気水道などのライフラインはもちろん繋がっていないが、以前の住居者は家具を残し、そのまま退去していた。無断で忍び込んだ二人は、おかげで結構快適に過ごすことができている。 「もうすぐ日が昇る。帰らないとな」 さっきまでふざけて拗ねていたテオが呟く。そうは言っても動く気配はなく、カミロの身体にまだ絡みついている。 「…そうだな。そろそろ帰ろうぜ」 「お前がいてくれてよかった…」 帰ろうと返したカミロに、聞こえるかどうかほどの小さい声でテオが呟く。テオの言葉を拾ったカミロは一瞬動揺し、一瞬嬉しくも感じた。 「ははは、なんだよ、ボードの修理をタダでしてくれるからだろ?」 テオの言葉がなんだか恥ずかしくて、ジョークっぽく返してしまう。 「ちっげぇよ!ま、ボードの修理は助かってるけどな!」 テオはバツが悪いのか、恥ずかしいのか、カミロを置いてさっさと着替え始める。カミロもテオの後を追って素肌にシャツを羽織った。 外に出たら埃っぽい風が吹いて、錆びた鉄の匂いが鼻につくんだろう。それも慣れっこで嫌いじゃないけど。

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