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【3】
「兄ちゃん、僕も一緒に行く!」
「ダメだって…お前は明日学校だろ?」
病院で新しい薬をもらった。オリバーには合っていたみたいで、飲んでしばらくすると咳も止まり、すっかり元気になった。
すると、元気になったオリバーは、カミロと一緒に廃墟に行きたいとせがんできた。
「学校あるけど…大丈夫だって!明日はちゃんと起きて行くからさ!それにほら、友達も来てるかもしれないんだよ?ね?お願い」
「ダーメ。いくら兄ちゃんや知り合いがいるっていっても、あそこは危ないんだぜ?今日は大人しく寝てろよ」
テオのボードを修理した。馬鹿力でネジを締めすぎたせいで壊れたらしいけど、調整すればすぐ直る。ついでに削れていたデッキも手入れしてやった。
「友達のビッケが言ってたよ?兄ちゃんスケボー上手いってさ。あそこにいるみーんなの憧れだって言ってた」
「俺はそんなじゃないだろ…それに、お前の憧れはテオだろ?」
「そうだけど…だけど!兄ちゃんもすごいって言われてるよ?僕、すっごく誇らしいんだ。友達みんなが、お前の兄ちゃんすげぇ!って言ってくれるからさ」
はははと、オリバーの言葉を笑って受け取る。オリバーは気分がいいようで、いつも以上によく喋る。このまま咳が止まり元気になってくれればいい。病気が完治するかもしれないという期待で、家の中が明るくなっていくようだ。
「オリバー?」
「あ、おばあちゃん!」
奥の部屋から足の悪い祖母が顔を出した。少し足を引きずる感じで歩いている。祖母が好きなオリバーは駆け寄り抱きついていた。
祖母と母は似ている。二人とも歳をとっても美人であり、纏わりつく雰囲気が人当たりの良さと優しさを出している。
「ばあちゃん、オリバーのこと頼むね。こいつさ、俺と一緒に行くっていうんだよ。ダメだって言ってんのに…」
「なんだよ…やっぱりダメか。じゃあ、今日は大人しくしてるけど、このまま元気になったら連れて行ってよ?兄ちゃん、約束してよ?」
「元気になったらな。あ、それ取ってくれる?…うん、そうそれ。持って行かなくちゃ。他の奴らのボードも見てやらないと」
スケートボードのメンテナンスに必要な工具をリュックに詰め込む。テオだけではなく、他のスケボー仲間のボードもチェックしてやろうとカミロは思っていた。
「すっ…げえ…兄ちゃん、修理も出来るの?ボード直せるんだ」
「簡単な修理だったらな」
「カミロは手先が器用だから。ちょっとコツを掴めば上手く出来るんだろう。そんなところも母親に似てるね」
うんうんと笑顔で頷く祖母に褒められる。手先が器用だとは小さい頃から言われていた。唯一自分でも誇れるところだ。
「ねぇ、おばあちゃん!兄ちゃんスケボー上手いんだって。友達がね、教えてくれた。だからさ、僕も一緒に行って兄ちゃんが滑るのを見たいんだよ。やっぱり今日一緒に行きたい!」
オリバーに珍しくねだられて、祖母は困った顔をしている。末っ子だし身体も丈夫ではないから、家族みんながオリバーをいつもケアしている。だけど、わがまま言ったり拗ねたりすることがないオリバーは、少し心配になるくらい素直でいい子なんだ。
それを知っているから、こうやって珍しくねだられると、祖母も困った顔をしてしまうんだろう。
「オリバー、ばあちゃん困るだろ?そうだな…学校が夏休みになったら連れてくよ。それならいいだろ?もうすぐだし」
「やったぁー!本当に?嬉しい!兄ちゃん約束だよ!」
オリバーと約束をして、いつもの場所に向かった。すでにテオは来ていた。ボードが無いせいか、手持ち無沙汰にスマホを眺めている。
それでも、やっぱりテオの周りには人が集まっていた。女の子たちが、必死に彼に話しかけているのが見える。
そんな中、カミロを見つけたテオは、ふっと顔を上げ、その輪の中から立ち上がる。そして、少し小走りでこっちへ向かって来た。
たったそれだけのことなのに、胸がじんわりと温かくなる。
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