5 / 29

【4】

「カミロ!どうだった?直った?」 「ああ、直せたよ。ほら」 修理したボードをテオに渡すと、彼は『ヒュー』と口笛を吹き、嬉しそうにその場でボードに足をかけると、すぐに走り出した。 カミロは遠くからじっとそれを見つめる。客観的に見ることで、その人の得意技や癖がよくわかる。 テオのスタイルは豪快だ。空中で技を決めるエア・トリックやオーリーが得意で、勢いよく滑り出すと、大きく宙に舞い、高いジャンプを決める。難易度の高い技を次々と繰り出しながらも、着地は完璧だった。 ただ、その豪快さゆえに、ボードのウィール(タイヤ)はすぐに消耗してしまう。 そろそろ交換の時期だな、とカミロは考える。 「カミロ!俺のトリック見た?完璧だろ?あー、元に戻って良かった。マジで感謝するよ、ありがとう!」 ボードが直ったのが嬉しいのか、テオはいつにも増して技を披露している。 「テオ、ウィール買い替えろよ」 「は?えー…やだ、金かかる。まだ使えるじゃん。直ったばっかりだし」 「お前の滑りはパワー系だから、消耗が激しいだろ?」 「そうかもしれないけどさ…まだ大丈夫じゃね?充分滑れるよ?」 「お前の癖だからしょうがないけど、ジャンプするタイミングで、前輪に負荷がかかってる。それに右側の方が消耗が酷いはずだ。もう少し硬めのウィールにすると、負荷も減ってもっと高く飛べるぞ?」 『すげぇ…』と周りから感嘆の声が漏れる。カミロはこうやって人の滑りを分析するのが得意だった。特にテオの滑りは誰よりも見ている。 「俺だって新しいウィール欲しいよ?だけどなぁ、金かかるもんなぁ」 「ま、そうだよな。簡単には買い替えれないよな。テオほどパワーがない奴なら、そのままでもいいけどさ…でも、変えた方がいいと思うぜ」 お金が無いのはここではみんな同じだ。テオだけではなく、カミロも。だからこそ、強くは勧められない。 「じゃあ俺が買い取るよ。そのウィール」 周りのスケボー仲間のひとり、ジャミが声を上げた。 「ああ、ジャミだったらいいかもな。ジャミは少し小さめのウィールの方が合うし、テオの使い古しならちょうどいいかも知れない」 「おお!だろ?そしたら、カミロが俺のボードも調整してくれる?」 「ああ、いいよ。ジャミの場合、後輪を少し遊ばせるといいな。テオの前輪をジャミの後輪にするとバランスが良くなると思う」 話がどんどんと進んでいく。 「おいおいおい!ちょっと待てって!俺、まだ売るとは言ってねぇぞ?」 テオの焦る声に、周りは爆笑した。 「早く売れ!」 「買い替えろ!」 みんなが口々に茶化す。 「いずれにしても、次の給料日まではこのままだな。みんなもすぐに買えないだろ」 「だよな…」テオもみんなもぼやきながら、また滑りに戻っていく。 「なぁ、カミロ…俺のボードも見てくれる?」 その後、スケボー仲間が次々と「俺のも見てくれよ」と声をかけてきた。 カミロは工具を持ってきていたので、簡単な修理をしながら時間を過ごす。 「カミロ、お前ホントに何でも見抜くよな」 カミロが工具を使ってボードを調整していると、テオが横に腰を下ろした。スケボー仲間たちはそれぞれのボードを手に、思い思いに滑ったり、座って雑談している。 「俺より俺の滑り、分かってね?」 カミロは手を止めずに「かもな」とだけ返した。 「……お前がボードの整備士になって、金稼いだら俺のスポンサーになってくんね?」 テオが冗談めかして言うと、カミロは少しだけ鼻で笑った。 「スポンサー?お前、金かかるだろ」 「そりゃな。じゃあ、俺がめちゃくちゃ稼ぐからよ。そんでカミロは俺の専属のボード整備士として雇ってやるよ。そっちだな」 「はは、ありがたいね」 そう言いながら、カミロはテオのボードを手に取った。テオのものだけは、特に慎重に調整する。滑りのクセを考えながら、ウィールの具合を確かめる。 「……あんま無理すんなよ?」 ふと、テオがぽつりと呟いた。 「は?」 「お前、いつも人の面倒ばっか見てっからさ」 カミロは目を伏せ、ボードに視線を落とした。 「別に。ただ、見てたら分かるだけだし」 「そういうとこだって」 テオは笑いながら、立ち上がるとまたボードに乗った。カミロの方をちらりと見て、「俺の滑り、チェックしとけよ」と言い残し、勢いよく蹴り出す。 カミロは曖昧に肩をすくめながら、テオの背中を目で追った。

ともだちにシェアしよう!