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【4】
「カミロ!どうだった?直った?」
「ああ、直せたよ。ほら」
修理したボードをテオに渡すと、彼は『ヒュー』と口笛を吹き、嬉しそうにその場でボードに足をかけると、すぐに走り出した。
カミロは遠くからじっとそれを見つめる。客観的に見ることで、その人の得意技や癖がよくわかる。
テオのスタイルは豪快だ。空中で技を決めるエア・トリックやオーリーが得意で、勢いよく滑り出すと、大きく宙に舞い、高いジャンプを決める。難易度の高い技を次々と繰り出しながらも、着地は完璧だった。
ただ、その豪快さゆえに、ボードのウィール(タイヤ)はすぐに消耗してしまう。
そろそろ交換の時期だな、とカミロは考える。
「カミロ!俺のトリック見た?完璧だろ?あー、元に戻って良かった。マジで感謝するよ、ありがとう!」
ボードが直ったのが嬉しいのか、テオはいつにも増して技を披露している。
「テオ、ウィール買い替えろよ」
「は?えー…やだ、金かかる。まだ使えるじゃん。直ったばっかりだし」
「お前の滑りはパワー系だから、消耗が激しいだろ?」
「そうかもしれないけどさ…まだ大丈夫じゃね?充分滑れるよ?」
「お前の癖だからしょうがないけど、ジャンプするタイミングで、前輪に負荷がかかってる。それに右側の方が消耗が酷いはずだ。もう少し硬めのウィールにすると、負荷も減ってもっと高く飛べるぞ?」
『すげぇ…』と周りから感嘆の声が漏れる。カミロはこうやって人の滑りを分析するのが得意だった。特にテオの滑りは誰よりも見ている。
「俺だって新しいウィール欲しいよ?だけどなぁ、金かかるもんなぁ」
「ま、そうだよな。簡単には買い替えれないよな。テオほどパワーがない奴なら、そのままでもいいけどさ…でも、変えた方がいいと思うぜ」
お金が無いのはここではみんな同じだ。テオだけではなく、カミロも。だからこそ、強くは勧められない。
「じゃあ俺が買い取るよ。そのウィール」
周りのスケボー仲間のひとり、ジャミが声を上げた。
「ああ、ジャミだったらいいかもな。ジャミは少し小さめのウィールの方が合うし、テオの使い古しならちょうどいいかも知れない」
「おお!だろ?そしたら、カミロが俺のボードも調整してくれる?」
「ああ、いいよ。ジャミの場合、後輪を少し遊ばせるといいな。テオの前輪をジャミの後輪にするとバランスが良くなると思う」
話がどんどんと進んでいく。
「おいおいおい!ちょっと待てって!俺、まだ売るとは言ってねぇぞ?」
テオの焦る声に、周りは爆笑した。
「早く売れ!」
「買い替えろ!」
みんなが口々に茶化す。
「いずれにしても、次の給料日まではこのままだな。みんなもすぐに買えないだろ」
「だよな…」テオもみんなもぼやきながら、また滑りに戻っていく。
「なぁ、カミロ…俺のボードも見てくれる?」
その後、スケボー仲間が次々と「俺のも見てくれよ」と声をかけてきた。
カミロは工具を持ってきていたので、簡単な修理をしながら時間を過ごす。
「カミロ、お前ホントに何でも見抜くよな」
カミロが工具を使ってボードを調整していると、テオが横に腰を下ろした。スケボー仲間たちはそれぞれのボードを手に、思い思いに滑ったり、座って雑談している。
「俺より俺の滑り、分かってね?」
カミロは手を止めずに「かもな」とだけ返した。
「……お前がボードの整備士になって、金稼いだら俺のスポンサーになってくんね?」
テオが冗談めかして言うと、カミロは少しだけ鼻で笑った。
「スポンサー?お前、金かかるだろ」
「そりゃな。じゃあ、俺がめちゃくちゃ稼ぐからよ。そんでカミロは俺の専属のボード整備士として雇ってやるよ。そっちだな」
「はは、ありがたいね」
そう言いながら、カミロはテオのボードを手に取った。テオのものだけは、特に慎重に調整する。滑りのクセを考えながら、ウィールの具合を確かめる。
「……あんま無理すんなよ?」
ふと、テオがぽつりと呟いた。
「は?」
「お前、いつも人の面倒ばっか見てっからさ」
カミロは目を伏せ、ボードに視線を落とした。
「別に。ただ、見てたら分かるだけだし」
「そういうとこだって」
テオは笑いながら、立ち上がるとまたボードに乗った。カミロの方をちらりと見て、「俺の滑り、チェックしとけよ」と言い残し、勢いよく蹴り出す。
カミロは曖昧に肩をすくめながら、テオの背中を目で追った。
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