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【6】

子供用のベッドに二人で横になる。 昨日の今日でまた懲りずにセックスをしてしまい、腰が重い。 「明日からさ、ちょっと忙しくなるみたいなんだよな」 「この前言ってたやつだろ?この辺の開発工事だっけ」 「そうそう。深夜工事もあるっていうから、毎日はこっちに来れないかも。その分、雨が降ったら休みになるけどな」 テオの仕事は工事現場の肉体労働だ。簡単に金が稼げるから、案外楽なんだと本人は言う。この辺の奴らに職業の選択肢はほとんどない。どの家庭も金銭的に厳しく、家族みんなで働いて家計を支えるのが当たり前だ。だからどんな仕事でもいい。仕事があればいい。 「へぇ、でもいいじゃん。稼げるんだろ?ウィール買えるぞ」 「いつもより稼げても、家に入れる分が増えるだけで俺のポケットマネーは変わらないよ。でもウィールは新調できるかもな」 さっきまで暑くてたまらなかったが、今は汗が引いてきた。テオはカミロの冷たくなった肩にキスを落とす。音がして、少しくすぐったかった。 「開発工事の期間ってどれくらいなんだろう。ここも取り壊しが始まるんだよな」 二人の隠れ家がなくなるのは寂しい。でも、仕方ない。無断でちょっと借りてるだけだし、文句を言える立場じゃない。 「うーん、オリンピックまでだろ?会場をここに建てるんだって聞いた。俺らが遊んでる手前から工事は始まるって。多分、来年にはこの辺は全部更地になって、その後はバンバン新しく建てていくんだろうな。周りは変わっていくけど、俺らだけだよ、置いてけぼりはさ」 母が言ってた時期と同じだ。街も景色も変わっていく。でも、自分だけは変われない気がして、焦る。テオも同じなのかもしれない。 「お前、忙しくなるんだったら、俺も仕事増やそうかな。当分、ここに来れなくなるんだろ?」 「多分、週に二、三日は夜勤になりそう。だけどそれ以外は来れるよ。単純に来る日数が少なくなるだけでさ。それより俺らの遊び場が無くなっちまうけどな」 「そりゃ仕方ないだろ。街の不良の遊び場なんて潰した方がいいって」 「だよな〜」と、二人で顔を見合わせ笑い合った。 「カミロ、お前さ本気でボードの整備士やらないのか?修理もメンテナンスもできるじゃん。それを仕事にすればいいのに」 「どこに需要があるんだよ。この辺の奴らはみんな金が無いんだぜ?やったって稼げるわけないだろ。それに俺のは独学だし」 「あるよ!絶対、需要はあるって。お前さ、すげぇじゃん。さっきだってみんなの癖を的確に見つけて、アドバイスもしてたし。個人の癖を生かしてボードのメンテができるやつなんて、ほとんどいないぞ」 「だけどそれはこの辺の奴らにだけだろ?そんな仕事したって、食っていけないし、誰も俺に依頼なんてしてこないって」 「そんなことない。少なくとも俺は違う。お前を必要としてる」 テオがカミロの目をまっすぐ見た。 「真面目に考えてみるのも、ありだと思うぞ」 「……適当なこと言うなって」 カミロは目を逸らし軽く笑いながら、テオの腕を指でなぞる。でも、さっきの言葉が耳の奥に残って、ふと考えてしまう。 「オリバーどうだった?」 テオが話題を逸らしてきた。 「えっ?」 「病院行ったんだろ?」 オリバーを病院に連れて行ったことを、なんで知っているんだろうと思ったが、テオにメッセージを送っていたことを思い出した。 「ああ、新しい薬処方されてさ、飲んでみたらオリバーに合ってるみたいだった。咳も止まって元気になってきたよ。でもさ、元気になったらなったで『スケボーする場所に連れて行け』って絡まれてさ。出てくるの大変だったんだぜ」 「あははは、不良の集まりを見たいって?でも、オリバーなら平気だろ」 楽しげにテオは笑った。多分、カミロが渋っている理由を知っているからだ。 この辺にいる奴らは不良と呼ばれても仕方がない。実際、悪いことをやってる奴も多い。 カミロもテオもそんなことに興味はないが、オリバーがそっちに引き込まれたら厄介だ。だから連れて行きたくない。 テオは、そんな心配は無用だとでも言いたげに笑っている。 「ま、でも一番の理由は、自分もスケボーやりたいんだろう。まだ早いって言ってるのに」 「早くないだろ?俺らはオリバーくらいの頃には、やってたし。そっか…どこかに余ってるボードないかな。誰か新調しねぇかな」 「あー、ジャックが新しいの買うって言ってたっけ。でも最近、彼女が出来たからな。金、そっちに使うんじゃね?」 「だろうな。俺も今、余ってるのはないし。でもどっかで手に入ったら、オリバーにやるよ」 「あはは、テオから貰ったら喜ぶぜ?オリバー、テオのこと憧れてるし」 「いや、憧れは兄ちゃんの方だろ?俺もオリバーと同じで、憧れはお前だけどな」 「お前はまた、適当なこと言って」 「本当だよ?俺にはできない生き方を、お前は当たり前にやってるって思ってる」 「なんだよそれ…」 言いかけたところで、口を塞がれる。テオのキスは熱い。唇も、身体も、熱くて、気持ちがいい。 せっかく汗が引いたのに、身体が熱くなっていきそうだ。 「なぁ…いい?」 「ダメって言ってもするんだろ?」 またキスで口を塞がれる。カミロはテオの背中に両手を回し、強く抱きしめた。

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