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【7】
週に二、三日は夜勤になると言ってた通り、テオは溜まり場に姿を見せなくなった。ボード仲間や取り巻きの女の子たちは「テオがいなくて寂しい」と口々に漏らす。どこでも彼は人気者だ。
今夜は久しぶりにテオが来るらしいと聞いて、たむろする皆はどこかソワソワしていた。
スケボーの技を教えてもらいたい者、テオとデートしたい女の子たち、明るい彼に「大丈夫だって」と背中を押してほしい人、ジョークを言い合ってふざけたい奴ら。あらゆる人がテオを待っていた。
カミロはボードに乗り、ショービットを決める。派手さはないが、難易度の高い技だ。ボードを横に回転させるこの技は、カミロの得意技でもある。
「教えてくれよ!」と仲間に頼まれ、何度か技を決めていると、不意に横からザッとボードを滑らせる音が聞こえた。
振り向くと、テオがカミロの技に合わせてきていた。
2人向かい合い、ショービットを同時に決めて、そのまま交差してすれ違った。
周りから「ヒュー」「やるぅ!」という歓声が上がる。
「上手く行ったけど、俺はこのトリック苦手〜」
テオが笑いながらカミロに話しかけた。
「そうか?お前ならなんだって出来るだろ?」
「このトリックの成功率は低めなんだよな…カミロは100パー成功するけど」
「お前はオーリーが得意じゃん。あんな高さを出して難しいの俺には出来ないよ」
テオはこのエリアで一番うまい。
ボードと一緒に空中へ跳び上がり、そのまま横に一回転させて着地する。ジャンプの高さも誰よりもあるし、そんなトリック(技)を完璧に決められる奴はそうそういない。
「カミロ!行こうぜ!久しぶりに勝負だ」
「オーケー!」
テオに誘われ、勢いよくアスファルトを蹴った。久しぶりに、二人でトリックを決めながら廃墟の中をかっ飛ばす。
治安の悪い廃墟。
ガタガタのアスファルトの段差、半分欠けた階段。テオがオーリーで軽々と飛び越えていく。カミロもそれに続く。
楽しい。
思いきり蹴り出して、加速する。
風が顔を切るように吹き抜ける。
テオの背中が目の前にあって、カミロはそれを追う。
追いついて、並ぶ。
お互いに目が合って、ニヤリと笑う。
嬉しい。
テオと走るこの感覚が好きだった。
どこまでも行ける気がする。何者にだってなれる気がする。
「うおっ!」
目の前に破れかけたフェンスが迫る。カミロはバランスを崩しかけた。テオが横から笑いながら叫ぶ。
「おい、突っ込むなよ!」
「知るか!」
二人で大声を上げて笑った。
こうしている時が、一番自分らしくいられる。
スケートボードにはルールがない。コーチもいない。だからこそ、みんな自分だけのスタイルを持っている。
だからこそ、俺たちは自由に走れる。
カミロが初めてボードに乗ったのは、ただの暇つぶしだった。この街に生まれて、希望もなく、なんとなく始めただけだった。
でも――。
テオに出会って変わった。
テオと初めてバトルをした日のこと、はっきり覚えている。
あの時「お前、ショービット出来んの?」って笑ってた。
それから、スケボーが楽しくなった。スケボーが好きになった。そして、テオと一緒に走る時間が、何よりも特別になった。
廃墟の中を走りながら、カミロはふと、いつまで、こうしていられるんだろうって考えが過った。
だけど、今は考えたくなかった。
とにかく、今を、この瞬間を楽しむ。
テオは最後に、得意のオーリーを決めた。
高く飛び上がると、「ウォー!」「キャー!」と歓声が上がる。
カミロは笑いながら、手を叩いた。
「さすがテオ!久々すぎるのに、トリックもキレッキレ。走りも速すぎてついていけねえよ」
「ははは、カミロと一緒に滑ってるからだよ。触発されるっていうかさ。俺だって、お前に置いてかれそうになったぞ」
「嘘つけ!余裕だっただろ?俺なんか、テオの爆走のあとに走ってて、コケそうになったぞ!」
「つーか、お前!さっきのトリックなんだよ!いつの間にあんなのできるようになった?」
スケートボードで爆走した二人は、息を切らしながら地面に転がり、笑い合った。
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