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【9】
「あいつ上手かったよな…」
「俺もそう思った。でも、右足を怪我してたぞ」
「えっ!マジで?」
Jはこの辺の奴じゃない。でも、ただの通りすがりでもない。意図的にあの廃墟に来たんだ。スケボーが盛り上がってる噂を聞いて、見に来たのかもしれない。
「なんか、走り方に変なクセあったんだよな。右足をかばってた感じだし」
「…おい、カミロ。集中しろよ」
雨が降り始めたから2人は「キース」に戻っていた。スケボー仲間たちは、突然の雨にうんざりした顔で解散していく。
Jは「楽しかったよ!またね」と、軽やかに笑って、颯爽とその場を去った。
「キース」に着くなり、カミロはベッドに倒され、テオの熱い抱擁を受けていた。
「集中しろって…お前が話題振ってきたんだろ」
「俺に集中しろって意味だよ!」
「やりたいだけだろ?」
「違うって!久しぶりに会えたから。こうしてるのが目的でもあるし…」
「ほらな、結局やりたいだけじゃん」
「ちーがーう!」
「じゃあ、なんだよ」
「…恥ずかしいから言わない」
テオは、上から覆い被さりカミロの肩にそっとキスを落とす。顔は見えない。
「大きな体して、何に照れてんだか」と、カミロはテオの髪を撫でながら、笑いながら小さくそう呟いた。
もちろん、テオの耳にはその言葉が届いている。ピクリと身体が小さく反応し、押し付けられた下半身にぐっと熱がこもったのをカミロは確かに感じた。
テオの手や唇がカミロを甘やかす。
それが心地よくて気持ちいい。
溺れそうだ。
この部屋に、カミロの好きな息苦しさが増えていく。
容赦なく、けれど愛おしさが込められて、甘やかされていく。キスを全身で受けるたびに、心の底から満たされていく。いつものように、テオの無遠慮な甘やかしに、カミロは両手を広げて、無防備に受け入れてしまう。
気持ちいい。
なにもしていないのに、ご褒美みたいだと感じる。こんなに甘やかされ、優しくされる資格は自分にあるのだろうか。そんなことがふと頭をよぎる瞬間もあるけれど、今はもう考えられない。
日常を忘れるほど、テオとの情事にのめり込んでしまう。そんな危うさは怖い。
でも、やめられない。
テオに抱かれるのが好きだ。
「はぁ……っ、もっと…」
「もっと?なんだよ…」
さっきまで照れていたテオは、ふっと口元を吊り上げて笑った。子供の顔から大人の男の顔に変わる。そのギャップにカミロの心は揺さぶられた。
「もっと、してくれって…」
「気持ちいい?お前のここにキスするの、好きだ。やっと…キスができる」
首筋に無数のキス。大きな身体に包まれ、息もできないほど強く抱きしめられる。
「カミロ…俺を、求めろよ」
「ああ…早く来てくれよ…」
受け入れたい。
早くテオを受け入れたかった。
滾る熱を、真正面から受け止めたいと思ってしまう。求めろと言われれば、素直に、貪欲に求めてしまう。
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