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【12】
渋る祖母を連れて、近くの病院に向かった。いつもなら外出を渋る祖母も、今日は足を引きずりながら黙って従ってくれる。
待合室の椅子に腰を下ろすと、祖母はそっと膝の上で指を組んだ。顔を上げず、ただ静かに順番を待っていた。
検査の結果、骨には異常はなく、ゆっくり安静にしていれば治ると言われた。カミロはようやく胸をなで下ろす。
「よかった…骨折とかじゃなくて、本当に」
「大丈夫よ。寝てれば治るって。老人ってのはね、ちょっと転んだだけで、みんなに迷惑をかけるものね。本当、嫌になっちゃうわ」
祖母は小さく肩をすくめ笑いをこぼすが、その声には少しだけ自嘲が混じっていた。
「迷惑なんて言うなよ。家族だろ?それに、どこで転んだの?俺があとで直しておくからさ」
帰宅し、祖母に案内された場所まで足を運ぶと、確かにアスファルトに大きなひび割れが入っていた。雨水が乾ききらず、そこだけ黒く残っている。
地面の段差は、祖母には十分危険だった。こんなの、この周辺にはいくらでもある。
「仲間にさ、道路の補修やってるやつがいるんだ。セメントの扱いとか、聞いておくから」
「ありがとう。でも、当分は外に出ないし…出るとしても、ちゃんと気をつけるから」
そう言いながら、祖母はゆっくりとアパートまで歩く。カミロは先にドアを開け、靴を脱ぐと祖母をソファまで案内した。
「ほら、ここ座ってて。ベッドもちゃんと直しておくからさ。すぐ横になれるように」
ベッドは微妙にずれており、クッションも落ちかけていた。カミロが手早く整えると、祖母は申し訳なさそうに微笑む。
「俺、これから仕事だから。あと、オリバーの病院にも寄ってくるつもり」
「…ありがとう。ほんとに、ありがとうね、カミロ」
祖母の声がふっと掠れる。カミロは返事の代わりに、そっと彼女を抱きしめた。
細い肩。骨ばった背中。あのころ、自分が子どもだったころは、もっとふくよかだった気がする。いつの間に、こんなに小さくなったんだろう。
「ご飯、ちゃんとあるからね。冷蔵庫に母さんの作り置きも入ってるし、俺がもらってきたバーガーもある」
「うん。ありがとう。ゆっくりだけど、自分でできるわ」
「ほんとに?ムリしないでよ。俺がいない間にまた転んだらって…心配しちゃうよ」
「ふふ。気をつけるわよ。もう転ばない」
祖母はそう言って、カミロを見上げた。年老いたその目の奥に、まだ消えない温かさがある。そのことだけが、カミロを少し救ってくれる。
スニーカーを履いてドアを開けると、外の空気が肌にまとわりついた。湿気を含んだ夏の気配を背中に感じる。
スケートボードを走らせて、カミロはオリバーの入院先に急いだ。
ウィールをアスファルトに滑らす。いつもより重たく音が響く。
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