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「やっべ……すげぇ話だったよな!」 「だよな! ビッグチャンスってやつだろ」 ショップを出て、二人は興奮を抑えきれずに笑い転げた。 Jからもらった夢みたいな話。まだ現実味はないけど、それでも浮かれて仕方ない。 身体がふわふわして、心がそわそわして、落ち着かなかった。 「このままクルージングして、廃墟まで行こうぜ!」 「おおっ、奇遇! 俺もそう言おうと思ってた」 やっぱり。テオも同じ気持ちだった。 心の中の熱が、ぐっと高まる。こんなふうに気持ちが揃う瞬間が、何よりたまらない。 沸き立つ感情を冷ますように、ボードに足を乗せる。スニーカーで舗装された道を蹴ると、風が背中を押してくれた。 ダウンタウンの人混みでは、思うように滑れない。信号に何度も引っかかりながら、車道をロードバイクと並んで走る。渋滞で動けないタクシーの隙間をすり抜けていくのは、妙に気分がいい。 ガラス張りのビルに太陽の光が反射して眩しい。でも、その光の中を滑る路面はやたらスムーズだった。 通勤ラッシュで混雑すると聞いた鉄道の高架をくぐり抜けると、大きな川が現れる。 その上にかかる橋を渡るとき、横にはランナーの姿があった。軽く挨拶を交わしながら、風を切って走る。 長く見えた橋も、ボードに乗れば一瞬だった。 橋を越えると、ハイソな住宅街が広がる。 きれいな並木道に、静まり返った道路。 人影もなく、車の通りも少ない。 「行くか!」 誰もいないのをいいことに、二人は階段の手すりでトリックに挑んだ。 ボードのエッジをかけ、勢いよく飛び降りる。地面に着地しても、誰も文句を言う人はいない。どちらも転ぶことなく成功して、自然とハイタッチが生まれる。 そのまま、さらにボードを蹴って走り出す。トンネルが現れ、風を切る音がこだまする。トンネルを抜けると、大通りとの交差点が見えた。 その街道を滑り、また別の一般道へ。 そこから坂を下れば、ようやく地元が近づく。とはいえ、まだまだ距離はある。 途中、工事中の道に何度か突っ込んでしまい、行き止まりで立ち止まる。 「工事中とか聞いてねぇし!」 「やっぱ都会の地図、アテになんねぇな」 文句を言い合いながら、別のルートを探して再び滑り出す。 小さな坂を越える陸橋の上で一休み。 近くのコンビニで買ったサンドイッチを広げて、遅めの昼食にする。 夏を目前にした日差しがじわじわと肌を焼き始めていた。 「結構走ったよな」 「ここまでで、たぶん2時間ちょい。廃墟まではあと1時間ってとこか」 「到着する頃には、ちょうど日が暮れ始めてるだろ。行こうぜ」 ここから先は見慣れた風景だった。 ハイソな住宅街が終わり、雑多で整備されていないエリアへと切り替わっていく。 その変化すら、どこか安心感があった。 ボードで滑る音が、アスファルトの粗い感触に変わる。勝手知ったる道。いつもの街。人通りのない場所では、後ろ向きに走ったり、ボードをクロスさせたり、二人でふざけ合った。 夕暮れが始まっていた。 夜に霧は出ない。 二人でいたずらみたいにトリックを決めた階段、ふざけながら走った後ろ向きのボード、くだらないことで笑って、汗だくになって、日が暮れていく。 今、この瞬間がたまらなく楽しい。 風に乗って、ほんのりと鉄の匂いが混じってくる。いつもは嫌いなその匂いが、今日はやけに落ち着くように感じた。

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