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第10話 面接日当日

「うっわ。ボロいビル」  スカウトの男がメッセージに添付してきた住所をもとに駅から歩いてきたが、駅から徒歩10分のところにあるその建物は所謂雑居ビルというやつでレンガ調の壁面にはびったりと簾のように謎の植物が生えている。手入れもされていないようで壁面が剥げていたり、見るからにワケありビルという印象を受けた。ビルは8階建てらしく、テナントがいくつか表記されていたがフィリピンパブや得体の知れない看板のない店が入っているようで薄ら寒い気分になった。美少年倶楽部の本社はこのビルの8階をワンフロアごと借りているらしい。本当にあのスカウトの男を信頼してもいいものか、胡散臭い店だったらどうしよう、マルチ商法の勧誘とかだったらどうしよう、ヤクザが出てきたらどうしようと桜の頭の中は不安で埋め尽くされた。心臓の音がばくばくと早鐘を打つ。震える足を叱咤してビルの8階にある玄関のインターフォンを鳴らした。しかし数分待ったが物音一つしない。怪訝に思って再度インターフォンを押すと、部屋の中からどったんばったんと激しい物音が聞こえてきた。それはどんどん桜のほうへ向かってくる。 「はぁい。お待たせしました。どちら様でしょう?」  明るい声音と釣り合わない荒い息遣いがドア越しに聞こえてビクっと肩が震える。 「っ面接予定の者です」  桜は持っていたトートバッグの肩紐を引きちぎれるんじゃないかと思うくらいきつく握りしめた。もしヤバい相手ならダッシュで逃げるまでだ。桜は退路を確保しながら8階まで登ってきた。 「あらあ。待ってたわよ」  キイと軋んだ音を立ててドアが開いた。中から顔をのぞかせたのは熊みたいに大柄な男だった。黒の短髪ともみあげから顎髭までが繋がっている厳つい見た目をしている。くわえて胸元に揺れる大粒のダイヤのネックレスを見て桜は一瞬気を失いかけた。断言出来る。この人絶対に一般人じゃない、と。 「まあまあそんなお化けでも見たような顔しないで。さあ、上がって上がって」  熊男に手招きされた桜は慎重に部屋へ入る。男はのしのしと重量感のある音を立てて桜を先導している。 「さ。こちらへどうぞ。お茶をお持ちしますので椅子にお座りになってお待ちくださいな」  簡易的なパーテーションで区切られた5畳ほどの空間に通された。パーテーションの向こうには何人か人がいるらしく物音が聞こえた。すぐに熊男が戻ってきて見た目とは裏腹に丁寧な仕草で緑茶の入った湯のみをデスクの上に置いてくれた。中に何かヤバいものでも入っているのではと疑ってしまい、口を付けるのはやめておこうと桜が心の中で思ったときだった。

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