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第11話 オーナー龍さんとの出会い
「世良坊 から聞いてたけど、アナタほんとにべっぴんさんね。背も高くていいわねえ。モデルさんみたい。お肌なんてツヤツヤのモチモチね。ね? お願い触らせてっ」
熊男は容姿と喋りが桜の持つイメージと一致していない。完全に熊男のペースに飲まれてしまう。勢いに負けて小さく頷けば、熊男は無骨なクリームパンのような手で頬を鷲掴みにしてくる。
「わー。モッチモチ。色白だしお餅みたいだわ。はあ。羨ましい。私もあと20年若かったらアナタと張り合えるくらいの美人なのにい」
ムキィと悔しがる表情の熊男を見て桜はぽかんと口を開けてしまう。ここに来るまでの不安や恐怖心が全て吹き飛ばされてしまった。
「まあまあ。ワタシっていっつも初対面の人にポカーンって顔されるのよ。罪な女ね。ワタシの美しさは人を石に変えてしまうほどの力があるのね」
ホロリ、と一人劇場を始めた熊男を見て演技派だなと桜は観察してしまう。こんなに自分に自信満々な人と初めて出会った。
「さ。お喋りはこの辺にして面接を始めるわね」
熊男がパソコンを立ち上げているのをぼんやりと目で追いながら、桜は昨日夜遅くまで練習した面接対策の受け答えを反芻する。
「そうね。まずは……」
いよいよ始まったと思った桜は生唾をごくりと飲み込む。面接対策は考えてきたとは言え、具体的にどんな質問をされるのかはわからない。ぶっつけ本番だ。
「世良坊とどうだった? 抱き潰されちゃった?」
急にこそこそと小さな声で聞かれて一瞬耳を疑う。
「あ、の。世良坊って誰ですか……?」
桜が聞き慣れない人物の名を聞き返すと、熊男の顔がぶわりと怒りの形相に変わる。
「あンの馬鹿ちんがあ。スカウトの風上にも置けないわね。自分の名前を売らないなんてなんてお馬鹿さんなの!」
「は、え? もしかして……俺を美少年倶楽部に紹介してくれたスカウトの人って世良って名前なんですか?」
「そうよお。ったくワタシから何度も言ってるのに、あの子はあんな厳つい見た目して心は小心者のネズミちゃんだから自分の名前すら名乗らないのね。あっ! もしかしてあの子の連絡先の名前も絵文字とかだったりする? ちょっと見せてっ」
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