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第12話 熊男 龍さん

「あっ、どうぞ……」  桜がおずおずとスマホを手渡し、世良とのメッセージ画面を見せると熊男はさらに顔を真っ赤にさせる。まるでタコみたいに頬を膨らませている。 「あの子っ。なによこれっ。ユーザーネームにバナナの絵文字なんか付けちゃって。隠喩よ隠喩。卑猥なことこの上ないわ。アナタも苦労したでしょう。こんなイキリ野郎にスカウトされて……でももう大丈夫。ワタシがついてるからね。この馬鹿ちんのことは忘れましょ」 「は、はあ」  謎に励まされ桜はいまいち納得できなかったが、今は面接中であることを思い出し背筋をしゃんと伸ばす。 「改めてワタシは美少年倶楽部のオーナーの(りゅう)よ。何か困ったことや相談したいことがあれば何でも話してね」  姉御肌なオーナーの龍にぺこりと頭を下げる。 「龍さん。よろしくお願いします。俺は茉白桜(ましろさくら)です」 「あらあ。桜くん。礼儀正しい子ね。育てがいがあるわあ。それにお名前もとってもプリティーだわ」 「あ、ありがとうございます」  自分の名前をあまり褒められた経験のない桜は照れ隠しのために少し俯く。 「桜くんはこういう夜のお仕事は初めてかしら?」 「はい。初めてです」 「そうなのね。じゃあざっくりお店の説明をするわね」 「お願いします」  オーナーはゆっくりと言葉を選んで説明を始める。 「うちのお店はゲイ専門の売り専派遣サービス会社よ。今ここのビルの8階が事務所兼ボーイ達の待機所になってるわ。後で案内するから安心してね。詳しいplay内容やオプション料金についてはホームページを見ながら説明するわね」  オーナーがくるりとパソコンの画面を桜に向けた。そこには桜が何度も見た美少年倶楽部のホームページの画面が映されていた。 「まずお給料に関してね。うちの場合だと、お客さんからもらった純粋なサービス料金のうち70パーセントをボーイたちにお支払いしているわ。残りの30パーセントは事務所運営のお金や待機所にある日用品やソファ、鏡台なんかの家具、エアコンや暖房、水道代や光熱費などにあてているわ」  桜はふむふむと頷きながら説明を聞く。やはり給与形態については直接聞くことで安心することができた。

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