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第13話 コース・play説明
「それからコース料金は時間やグレードによってそれぞれね。カラオケを想像してもらうとわかりやすいんだけど、おおよそ1時間単位で値段が変わってくるわ。例えばうちの店の人気のコースだと、新規のお客様限定のコースで『初恋胸きゅんコース120分3万円』とかね。あとは常連さん向けのコースで『熱愛プレミアムコース180分4万円』もかなり人気だわ」
桜はなんとなくコース料金について把握することができた。世良からは60分につき1万5000円と聞いていたがそれはあくまでも目安で、時間が増えれば増えるほど客がお得な値段で楽しめるように料金設定がされているようだ。
「ボーイの子にお給料を支払うときはきちんと明細がのった領収書を渡しているから安心してね」
桜はこくこくと小さく頷く。
「あとはオプション料金ね。ホームページを見てもらえばわかるけど、例えばローターは4000円、バイブは5000円って感じね。もちろん、ボーイの子によってNGなplayもあるからそこはホームページの個人のページに明記してあるわ。お客様はそれを確認してからオプションを追加されることが多いわ。うちはあえてコース料金をお得な値段に設定して、オプション料金で利益を出すっていうスタイルの経営方針なの。とにかく売り専は顧客の人数が大事なの。どんどん新規のお客様を獲得して常連さんになってもらえば予約はすぐ埋まるわ。お茶を引く暇もないくらいにね。例えばうちのナンバーワンのルイくんは月25日くらい出勤してるわ。それも8割が予約のお客様で、飛び込みの予約が取りづらい状況なの。桜くんもこのビジュアルと礼儀正しさなら半年もしないうちにナンバー入りできると思うわ。ワタシもサポートするから、一緒に頑張りましょう!」
桜はオーナーの親切で丁寧な説明を聞いて緊張の糸が切れた。肩の力が抜けていく。静かに湯のみの中のお茶を飲み干した。桜から「オーナーに全幅の信頼を置きます」というメッセージのつもりだった。
「そうだそうだ。源氏名を決めなくちゃね」
桜はあらかじめ源氏名の候補をいくつか考えていたのでそれをオーナーに伝えてみた。
「ううん。なんかいまいちピンと来ないのよねえ。タクヤ、ユイトは顔に合ってないしねえ。元々の本名が茉白桜でしょう。本名が綺麗なばっかりに源氏名を考えるのが難しいわね。これは稀有なタイプよ。ほとんどの子はノリと勢いで決めることが多いんだけど。どうしたものかしら……」
オーナーが頭を抱え始めたのを見て桜は心を決めた。
「俺、源氏名は桜でいいです。お客様に名前呼ばれたときに本名だとすぐ反応できるし」
桜にとっては源氏名を本名に決めたのにはある種の覚悟の証明だった。自分はこの夜の世界で生きていくと決めた。そんな自分へ簡単には逃げられないように縛り付ける制約として名前を売り物にすることにした。
「まあ桜くんがいいならいいけど……。珍しい名前だからお客様も覚えやすいかもしれないわね。じゃあ桜くんの源氏名は桜に決定するわ!」
「よろしくお願いします」
桜は深々と頭を下げた。
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