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第17話 ミケクイズ①

「じゃー荷物の説明はこれで終わり。あとはホテルへ行って実践だ。俺が一通りの流れを教えることになってる。さあ行くぞ」 「っはい。お願いします!」  桜とミケは仕事道具の入ったトートバッグを抱えてビルから出た。歩いて5分もしないうちにいくつかのラブホテルがある。鶯谷は山手線きってのラブホ街で駅前はラブホだらけだ。中世の城のような外観のものもあれば、年季の入っている寂れたホテル、ラグジュアリーマンションのようにギラギラしたものもある。適当に空室のあるホテルへ入ることになった。桜は男とラブホテルに入ったことがなかったので、緊張して喉の奥が乾いてきた。一方、ミケはラブホテルに入り慣れているのか特に緊張などしていないようだ。入口の大きなタッチパネルを手慣れた手つきで押して部屋をとる。 「やべえな。夕方だから割と埋まってんなー。一番高い部屋しか空いてねえな……。まあオーナーが払ってくれるだろ」  最後のほうは小声だったがミケはぽちりとパネルを押して部屋を決めたようだ。受付でカードキーを受け取りエレベーターへ乗り込む。 「なあ。知ってるか? ラブホってエレベーターめっちゃ狭いだろ。何でだと思う?」  実際男2人が乗ったエレベーターの中は肩がぶつかる程狭かった。桜は今まで考えたことがなかったが、確かに何故だろうと思い考えてみる。 「それはラブホテル自体が狭い土地に建ってるから、エレベーターも小さくなるし必要最低限の広さしか建設するときに用意できなかったんじゃないですかね?」  桜にとっては的外れな考えではなかったが、隣にいるミケはくっくっくっと喉を鳴らして笑っている。何かおかしいことでも言ってしまっただろうか。 「そういう真面目な考えをするんだな。お前。正解はな、ラブホに来る客の大半は2人1組のペアだ。ラブホで一番気まずい瞬間ってあるだろ。他の客とすれ違ったり、エレベーターで相乗りになることだ。だから店側の配慮としてあえてエレベーター激狭にして客同士がかち合うのを防いでるんだよ」 「……なるほど」  ミケの言葉を真に受けて納得していると、エレベーターが5階に到着する。502と示されているドアが赤く点滅して光っている。その部屋のドアをミケが開き桜も中へ足を踏み入れた。  部屋の中へ入るとラブホ特有のダブルベッドがメインの6畳ほどの空間が広がっていた。革張りの黒いレザーの2人がけのソファも置いてある。ひとまず仕事用のトートバッグをソファの前にあるガラス張りのローテーブルに置いた。

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