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第18話 ミケクイズ②
「桜。スマホ出して」
ソファに2人で腰掛けるなり、開口一口にミケが桜の顔を覗き込んできた。金髪の靡くシースルーウルフの髪型はさながらライオンのような印象を受ける。身長は170センチほどだとは思うが細身で手足が長いので身体のバランスが整っている。そのためスタイルは良い。近頃流行っているアイドルグループにいても決して見劣らない。
「これが俺のスマホです」
桜がスマホを手渡すとミケは一瞬「うぇ」と気持ち悪そうに唸った。
「おいおい。これ何世代前の機種のスマホだよ。画面もバキバキに割れてるじゃねえかよ」
「あー。ちょっと色々あって……」
桜は笑って流そうとするが、ミケは簡単には話をずらさない。
「売り専を呼ぶお客様はボーイが身につけてる物や服で人柄を判断することも多い。特にスマホは仕事道具の1つだから新しいのを用意したほうが良さそうだな。まあそれは後で考えるか」
「う」と桜は胸にその言葉が深く突き刺さる。スマホの機種を変える余裕もないくらい生活に困っていた。自分ではもう教会を卒業して買ってから2年間使っているので違和感を覚えなかった。誰かに指摘してもらえることの有り難さを瞬時に理解した。
ミケは桜のスマホをいじると時計のタイマー画面を見せてきた。
「まずお客様に会ったらスマホのタイマーを設定して起動する。例えば60分のコースなら60分を設定してからplayに入る。音量は大きめで、音は目覚ましのアラームみたいな騒々しいやつじゃなくてオルゴールがおすすめだ。ほら自分で設定してみろ」
「わかりました」
アラーム機能を使ったことのない桜だったが、ミケが丁寧に教えてくれたので少しずつやり方がわかってきて安堵する。まずは1つ目の壁をクリアできたと感じた。
「またここでクイズ。なんでアラームの音をオルゴールに設定すると思う?」
「うーん。あれですかね、騒々しい音だとびっくりして萎えそうですし、現実に一気に引き戻されそうになるから、とかですか。あと、音が鳴ったときにお客様とのplayの甘いムードをぶち壊さないためですかね?」
足りない頭でよくよく考えて捻り出したものを、ミケが両手を叩いて褒める。
「おおーっ! 大正解。お前ちゃんと気遣いができる奴なんだな。売り専は見た目とかplayのサービスも大事だけど、こういう気配りってやつも大事なんだよ。いやあ理解が早くて助かる」
ミケに褒められると桜も少し気持ちが晴れて、講習の本当の目的を忘れていた。不意にミケが桜の顎を指先で掴んできたのだ。笑い声も消えて急に雄の表情になったミケに見つめられると桜は息を吸うのも躊躇われた。
「じゃ。ここから本番いくか」
薄い唇を上げてミケが桜の唇を奪った。
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