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第20話 初めてのイソジン
「イソジンっつうのはうがい薬だ。口内の洗浄効果がある。お客様とボーイはplayの前にまずは口内を清める。これでお互いの口臭ケアになるから必ずやっとけ。お客様が嫌がっても『店のルールだから』と言って絶対やってもらえ」
ミケが口酸っぱく詰め寄ってくるので桜は黙って頷くことにした。イソジンを少量コップに入れ水と割るのだという。ミケが手本を見せてくれたのでそれを真似して桜もイソジンでうがいをする。
「まっず……」
初めて口にしたイソジンは消毒液のような匂いがして、吐き出すように口をすすいだ。それを見ているミケは終始楽しそうだった。
その後は互いにシャワーを浴びて風呂に入った。風呂でのサービスの仕方などを口頭で教わりバスローブを着てベッドへ向かう。そこに恥じらいなどは桜はもうなかった。これは仕事だと割り切り腹を決める。
ミケの講習を受けてplayのやり方を教わって実践した。お客様にオプションをねだるやり方も親切に教えてくれた。一通り説明が終わったあとで2人はシャワーを浴びて服を着込む。そろそろ退室時間が迫っていた。
桜の上半身を見てミケは悔しそうに言葉を洩らした。
「タッパがでけえし腹筋も綺麗に割れてるし肌は白いしでお前ほんと見た目恵まれてるよな」
「それを言ったら先輩もスタイルいいと思うけど」
幼い頃から幾度となく容姿への賞賛を受けてきた桜には特段喜ぶ言葉ではなかった。服を拾いながら淡々と受け答えをする。
「ばぁか。お前の顔と身体があったら人生無双だぜ。まったく。……それとお前、これは俺からの蛇足かもしれねえがお客様と接するときはその生意気な態度やめとけよ。オーナーと喋ってたときくらいの猫かぶっとけ。そのほうが清楚系に見えて客ウケがいいからな」
桜は服の皺を整えながら顔を上げた。
「え。俺ってそんなに生意気に見えるのか?」
「ったく鈍いやつだな。顔がいいやつは大抵他人からしたら生意気に見られやすいんだよ。皆羨ましさを妬みに変えて生きてるからな」
「……わかった。お客様の前では猫被る」
「そうしとけ」
ミケがふふんと満足そうに微笑んだ。
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