22 / 35

第22話 お祝いパーティーナイト

「龍ちゃあぁぁんー!!」  長髪ツーブロレインボーカラーの髪を後ろでひとつに縛っている人が店の扉を開けた瞬間オーナーに抱きついてきた。鋭利な赤いヒールを履いていて、オーナーはその人を持ち上げるように腰に手を回した。いつものようにクリームパンのような手で。 「えり子ママーっ!! ごきげんよう。今日はありがとね」  オーナーはるんるんな様子でえり子ママと呼ばれた長髪の人に声をかける。 「いいのよう。さあさ入って入って。席は奥で予約してるから。あっ! アナタが桜くん? 美少年倶楽部で2ヶ月連続ナンバーワンの!」  えり子ママのまつ毛がバサバサと動くのを桜は口を開いて返事をする。 「あ、はい……」  あまりの破天荒すぎる容姿とオーナーと似ている喋り方に圧倒されているとオーナーが助け舟を出してくれた。さすがオーナー。周りの様子をよく見てくれている。 「こちら、このゲイバー『ロマネスク』の店長のえり子ママよー。今日はこのお店で桜くんのお祝いをするの。えり子ママは見た目は派手だけど中身は繊細な子だから優しくしてやってねえ」  ぽんぽんとオーナーに肩を叩かれ、桜はえり子ママにお辞儀をする。 「あ、はい……はじめまして。桜です。今日はありがとうございます」 「ぬぉぉぉお! もう龍ちゃんっ。なんていい子なのこの子! うちの店子になってほしいぐらいだわ」  えり子ママは雄の声で雄叫びを上げて桜の肩に手を乗せてくる。その触れ合いはいやらしいものではなくて、動物を撫でているかのような優しい手つきだった。長めのスクエアネイルが施された指先はとても綺麗に整えられている。パールピンクのジュエリーがネックレスの中でゆらゆらと揺れている。着ているミニ丈のドレスは情熱の薔薇のように紅い。太ももの横にスリットが入っていて艶めかしく見える。 「はいはい。桜くんはうちの看板娘なんだからダメよう。ささ、桜くん奥に行きましょ。皆が待ってるわ」  オーナーがえり子ママに軽く牽制をする。えり子ママはうっとりとした嘆息をついてから桜の背中を軽く押して奥の席まで案内する。オーナーの言う「皆」というのは誰なのだろう。思い当たりがなくて頭にはてなを浮かべる桜を他所にオーナーはにこにこ微笑みを浮かべている。桜が奥の席につく頃に、ふっと店内の照明が消えた。その直後、パンパンという軽い破裂音が鳴り響く。桜の身体はぴくんと跳ね上がる。 (なっ何!? 破裂音? それに急に真っ暗になったし。停電か?)  心の中で慌てふためく桜だったが、突然聞こえてきた店内BGMの威風堂々に意識がとられる。すると明るい灯火の灯ったケーキが桜の前に運ばれてきた。ゆっくりと店内の照明ががオレンジ色に戻りつつある中で、桜の視界の先には『桜くんナンバーワンおめでとう』とプレートに書かれたホールケーキがあった。そして、クラッカーを手に持つミケと受付係の黒服の男性3人とルイが席で待っていた。桜は予想もしていなかった展開に目を開いて立ち尽くすばかりだ。 「ほら。桜、キャンドルふーって消せよ」  ミケが気を遣って桜に耳元で囁く。皆の視線が桜に注がれていた。 「ありがとう、ございます」  今にも涙が溢れそうなのを我慢して、桜はふうっとケーキに立てられたキャンドルに息を吹きかける。火が消えて煙の匂いが辺りに広まった。しかしそれもすぐに天井にある排気口に飲まれていく。ホールケーキ。白くて苺がたくさんのっている。あの日、両親が桜と瞬に内緒で買ってきてくれたケーキとよく似ていてその場で嗚咽が込み上げてきそうになった。けれどせっかく皆が桜のために集まってお祝いをしてくれている。その空気を壊したくなくて桜は涙をこくりと喉の奥に引っ込めた。 「桜くん。改めて2ヶ月連続ナンバーワンおめでとう。さあ今日はとことん飲むわよう! 皆! 今日はワタシの奢りよ!」  オーナーの一声でミケと黒服の3人の男たちが歓声を上げてやんややんやと騒ぎ出しメニュー表をひったくりながらえり子ママに注文をしている。ルイは1番端の席でスマホを見ている様子だった。

ともだちにシェアしよう!