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第26話 実食! サムギョプサルとチーズダッカルビ

「煙もなんとか外に出ていってるから大丈夫だ」  おこめがぼそりと呟いてホットプレートの中身をかき混ぜる。赤と黄色が混ざりあっている。 「チーズダッカルビ。桜の大好物」 「おう。さんきゅ」  おこめがよそってくれた小皿を受け取ると、そこには桜の大好物のチーズダッカルビがあった。そもそも、チーズダッカルビを初めて食べたのは最近なのだが。美少年倶楽部で働き始めてから、前に住んでいた家賃2万円のボロアパートを退去し、ひいらぎ荘で暮らしている。入居して5ヶ月目。気づけば桜の周りには人が集まっていた。メンズコンカフェで働くおこめは、身長180センチの長身で線が細い。「もっと食え」と寮の皆から言われている。黒髪マッシュは女の子ウケがいいらしい。おこめは王道アイドル系を売りにしていると前に姫くんが言っていた。姫くんはおこめとは別の女装コンカフェで働いている。生まれつき心と身体は男性だが、かわいいものが大好きという彼の私服はだいたいがミニ丈のスカートやワンピースだ。色白な肌と西洋ドールのように小さな顔は化粧映えもするらしく、毎日様々なコンセプトのメイクを楽しんでいるようだ。今日はピンクのジャージメイドの服に合わせてアイシャドウやチークも桃色に統一している。皆にすっぴんを見られたくないらしく、姫くんのすっぴんを見た人は誰もいない。 「こっちはサムギョプサルだよー。ほら、熱いうちにお食べー」  姫くんはサムギョプサルを箸でつかんで、ふうふうと冷ますと桜の口もとにあててくる。姫くんは「あーん」をするのが大好きで桜はいつも親鳥から餌をもらう雛のように口を開けて食べ物をもらっていた。 「どう? 味とか薄くない?」  どうやらサムギョプサルは姫くん担当らしい。ソワソワとしながら桜を上目遣いで見つめてくる。さすが女装コンカフェの不動のナンバーワン嬢だ。男心をよくわかっている。 「ん。ちょうどいい……ありがとな。夜遅くまで起きててくれて」  桜がぽつりとこぼした言葉を姫くんはひらひらと手を振って笑う。おこめはチーズダッカルビ担当らしく職人のような手さばきで中身をかき混ぜている。 「いいってば。桜のお祝いだもん。俺らもなんかしたくてさー。だって桜、ひいらぎ荘に入ってから僕が忘れた洗濯物畳んでくれるし、僕が忘れたお風呂掃除もしてくれるし、僕の嫌いな虫さん対処もしてくれるし。桜がひいらぎ荘に入ってくれて嬉しいんだもん」 「……そんなたいしたことしてねえよ」 「もーう。そういうところがツンデレでかわいい」  ぷにぷにと頬を人差し指でつつかれながら、桜はおこめがおかわりをよそってくれたチーズダッカルビを口に含む。この甘辛い味がやみつきなのだ。箸が止まらない。姫くんとおこめも各々サムギョプサルとチーズダッカルビを食べている。3人で和やかな時を過ごしていると、不意に部屋のドアが開いた。黒いマスクをしたシルバーの髪の男が、桜たちの様子を気にかけることもなくずかずかと歩いてソファにずしっと腰掛けてきた。

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