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第27話 愉快な仲間たち

「あー。ユキヤくん今帰り?」  マスクを取って電子タバコを吸い始めたシルバーの髪の男に姫くんが目を合わさず声をかける。 「……うん。なに、みんなしてパーティー?」  温度のない瞳のまま、ユキヤは姫くん、おこめ、桜の順に一瞥してきた。その声には深みがなく、温かみも感じられない。ユキヤはひいらぎ荘きっての異端児だ。灰色のフード付きのパーカーを着てソファの上で体育座りをしている。ふーっと息を吐くと、じっと桜を見つめてきた。居心地の悪くなった桜はチーズダッカルビを食べることに集中する。 「今日は桜のナンバーワンの祝賀会。グループメッセージで先週送ってる」  おこめが淡々と伝えるとユキヤはふうんと興味無さそうに桜を見る。 「あー……そうだ。桜。前に言ってたIカップOLとの3Pなんだけど、竿役で出れそ?」  食卓の場がカリンと凍る音が聞こえたのは、おそらくユキヤ以外の全員だろう。桜は幾度もユキヤから誘われる3Pの誘いをいつも通り受け流す。 「やめとくわ。俺、仕事以外でヤリたくない」  スパッと桜が言い切るとユキヤは再び温度のない嘆息を洩らす。 「そっかあ……残念。あの子俺の働いてる女風のエースだからさ、ご褒美に3Pさせてあげたかったんだけど……。まあいいや、他をあたる」  電子タバコを咥えたままユキヤはスマホをいじりはじめる。桜は煙のように掴めないユキヤとは深く関わりたくなかった。損得勘定で人付き合いをしているのがわかりやすいからだ。ユキヤはグループ会社の運営する女性用風俗店のキャストで、かなり稼いでいるらしい。確か先月はナンバーワンだと誰かから聞いた気がする。クズ男と呼ばれることを特に気にしていないタイプらしく、見た目も遊び人だ。派手なシルバーの髪は襟足まで軽くウェーブがかかっている。おそらくアイロンでヘアセットをしているのだろう。稀にストレートのときもあるが、だいぶ印象が変わる。 「ふう。お腹いっぱーい」  それから30分ほどして姫くんがいつもは細いお腹を膨らませて大きく伸びをした。気づけば時刻は深夜2時半。しかしそれは、夜職として働いている桜たちにとってはそこまで眠たくならない。 「はは。姫くん、お腹ぽんぽこりん」  桜がすかさずツッコミを入れると姫くんは「キャッ」と乙女のような高い声を上げてお腹を両手で隠す。ユキヤは既に自室へ戻っていて、大部屋には桜、姫くん、おこめの3人だけだ。 「完食。ごちそうさまでした」  おこめが静かに両手を合わせるのを見て2人も両手を合わせる。 「ごちそうさま」 「ごちそうさまでした」  最後は皆で後片付けをする。ホットプレートのプレートの部分を外して洗い、テーブルの上を拭く。最後に食べ物の匂いで充満している部屋をくまなく掃除する。ひいらぎ荘では寮の仲間たちで大部屋の掃除を行う。常に清潔に保つようにと皆で決めているのだ。 「じゃあ桜。おやすみ」 「おやすみーっ」 「ああ。今日はありがとな」  両隣の部屋のおこめと姫くんに声をかけて自室に戻った。こんなに嬉しいことが2つも同時に起きるなんて、と自分の現在に感謝する。 (ほんと……美少年倶楽部で仕事始めてよかった。暮らしも少し楽になった。けどまだまだ目標金額には届かない。教会で暮らしている瞬の大学受験科や塾代、大学の学費のためにもっと稼がないと)    その晩桜は普段よりも深く眠ることができた。温かな思い出とともに朝を待ち望む。

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