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第28話 太客がクソ客になった
桜を月に4回指名してきている太客の清水は自分が一番の太客であることを自慢げに掲示板やSNSで呟き、桜にNGプレイをそれとなく持ちかけるようになった。桜はSMなどの痛みを伴うplayをNGとしてホームページの個人プロフィールにも記載していた。最初は優しいおじさんだと思って仕事をしていた桜だったが、会う度に少しずつ豹変していく清水に恐怖を感じるようになった。
7月半ば。ある無料動画サイトに桜らしき人物が写っていると事務所で話題になりすぐさま桜もその動画を確認させられた。このベッドの色、明るい照明、そして決定的だったあの男の醜い豚のような喘ぎ声。そのすべてがこの動画を撮って投稿したのは清水であるという証拠だった。しかし、桜らしき人物が映っていると言われても顔は薄くモザイクがかけられていて体しかはっきりとは写っていない。唯一、桜の話し声や感じているフリの声が、動画に映る売り専が桜であることを確信させた。【お気に入りの子猫ちゃんと♡】といういかにも清水が考えそうなタイトルの動画は3万回以上再生されており、桜はひどく虚しい気持ちにさせられた。
全世界に自分の醜態が晒されていることを当の本人は気にしていないのだろうか。そんな疑問が怒りとともにふつふつと桜の中から込み上げてくる。それと同時に、この動画がもし弟の瞬の目にとまったりでもしたら……そう思うとしばらく安心して眠れない日が続いた。
本来、動画や画像をボーイや店側に無断で載せることは違法であり、早く出禁措置を取らなければと店側も困っていた。そもそも盗撮すること自体が違法なのだが、桜が気づかなかったということはきっと手の込んだ仕掛けでもしているにちがいなかった。しかし、その清水という客はかなりの金持ちで桜の指名回数も3分の1が清水の指名だった。
ナンバーワンの看板美少年の桜の売上は他のボーイの群を抜いて著しく、こうして店に20人以上のボーイを抱えられるのも桜の売上があってこそだった。桜も「自分が我慢すれば問題ないです」と真面目に答えるものだから、店側は渋い顔のまま桜を送り出していた。
桜は気分が下がりつつも、他のお客様にはいつも通りパーフェクトな接客をこなした。ナンバーワンの桜は接客やサービスに手を抜くことは怠惰と捉えられてしまいかねない。プロ意識を持つ桜は本当の意味でナンバーワンであることをオーナーを含め店側は認めていた。
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