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第42話 再会

「桜くん! 桜くん!」  誰かに名前を呼ばれている気がする。  でもまだ、寝たい……。 「桜くんっ!」  ドライバーにグラグラと肩をゆさぶられてはっと飛び起きる。 「えっ、なに……?」 「よかった……。気を失ってるのかと思ったよ」 「あー。すみません、寝ちゃって」 「まだホテルに着いたばかりだから大丈夫だよ」  急いで服を整えると、荷物を持ってホテルの中に飛び入った。いつもより整わない呼吸にイラつくが仕方ない。自業自得だ。  いつも通りドアをノックする。  しかし、しばらく待っても返事はない。  もう一度強くドアをノックすると、部屋の中から物音が聞こえてきた。  待つこと数分。 「すまない。待たせたな」 「……っ美少年倶楽部の桜です。今日はよろしくお願いします」  ドアから顔を覗かせた真柴は髪を上げており仕事終わりのように見えた。ぴしっとした紺色のスーツに身を包みワイシャツが少しくたびれていた。閉店間際の時間に真柴が桜を指名してくるのは初めてでどこかそわそわしてしまう。それにオーナーからは真柴が『今日じゃなきゃダメだ』と言っていたらしいし。  部屋の中に入ると背中を軽く押されてベッドにエスコートされた。真柴は桜の手を取るとベッドに座るように促してくる。触れたところが熱い。桜はこの瞬間を待ちわびていた。真柴は凛とした表情のまま桜を見つめてくる。その視線が真剣そのもので少し照れくささを覚えた。  会いたかった──真柴さん。  目頭が熱くなるのを耐えて笑顔でコースの説明をする。 「本日は3時間コースで、リピート割引が適用されますので3万円になります」 「リピート割引か。そんなもの付けなくてもいいんだがな」  少し照れくさそうに頭をかく真柴が、黒い革の財布から3万円を取り出し桜に手渡してきた。 「ありがとうございます。そうしたら……。今夜も添い寝ですか?」 「ああ。頼む。昨日の夜に出張から帰ってきたんだが、桜が仕事を再開すると聞いて予約したんだ。仕事終わりのギリギリの時間で迷惑じゃなかったか? それに桜が仕事を休んでいる間、なかなか俺の寝つきが悪くてな。今日くらい添い寝してもらわなければクマができかねない」  優しいな。  桜が持ちえた感想はこの一言に尽きた。素直に嬉しかった。  最後のほうのセリフは真柴なりの冗談なのかもしれない。不器用な優しさが今はじんわりと身に染みた。 「嬉しいです。僕も真柴さんに会いたかったので」  思わず本音が洩れていた。真柴は「ふぅん」と言葉を洩らして桜の瞳をじっと見つめている。真意を探るような強い視線に耐えきれず桜のほうから目線を外した。 「シャワーは浴びてある。桜も浴びてくるか?」  真柴の気遣いに感謝してから桜はふと悩む。可能ならば身体の傷跡がぴりぴりするからシャワーは浴びたくなかった。仕事の最後の予約だしシャワー浴びなくてもいいか、とひとりでに納得して真柴の肩に頭を乗っけた。 「今日は最後の予約なのでこのまま添い寝させて欲しいです」  桜が甘えるように真柴を上目遣いで見つめると、真柴は少し温和な笑みを見せて桜を抱き寄せた。そのままベッドの中に入り毛布をかけられる。  ああ、安心する。あったかい。  大きなごつごつとした骨ばった手のひらに顎の下をすりすりと撫でられて気持ちよくて声が洩れてしまいそうだった。余程桜が気持ちいい顔をしていたのか、真柴がくくくと喉の奥で笑った。それを見て嬉しくてたまらなくて桜は自分から真柴の腕の中に身体を埋めた。深い吐息がすぐ近くで聞こえてきて緊張し始める。自分から真柴の胸に飛び込んだのに緊張するなんて。ほんと、どうかしてる。人肌恋しいのかな、俺。

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