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第50話 3つのルール

 地下駐車場のエントランスを通り抜けるとエレベーターに通された。  スウゥンと静かに扉が閉まると、エレベーターはぐんぐんと上昇していった。  真柴の手元にある押ボタンの38という数字が光っている。  初めての場所に行く時は、少なからず緊張してしまう。  エレベーターが止まり、真柴の後ろにくっつくように進んでいくとひとつのドアの前に立ち止まった。 「ここがこれからお前と住む家だ」  がちゃり、とドアを開けて真柴が言った。 「……お邪魔します」  僅かな期待を胸に膨らませ扉の向こう側に広がる世界に思いを馳せた。夢のような暮らし、快適な住まい。そのどれも桜が喉から手が出るほど望んでいたものだった。  玄関に足を踏み入れた桜は、その廊下の有様に目を瞬かせた。 「……!?」  桜は目の前の光景を目にして軽くよろめくように前へ足を進めた。 「……あのさ。こんなこと聞くのは失礼だと思うんだけどさ……」  桜がためらうように真柴に前置きをした。 「なんだ。何か気になるか」  真柴はいたって真顔で桜を見つめ返す。 「……真柴さんって一人でちゃんと生活できてんの?」 「……」  真柴の表情がぬりかべのように固まった。  桜からの指摘を受け置物のように固まってしまった真柴をよそに、桜はちょんと廊下を指さして言った。 「だってピカピカの廊下にゴミがいっぱい散乱してる。一番手前に納豆のトレーが落ちてるし、そういえばなんかここも納豆臭い気がするし……」  桜はうう……と顔をしかめながら自分の鼻をつまんだ。  ちなみに、納豆は桜の苦手なものランキング雷についで2位である。  すると突然、固まっていた真柴が玄関の扉に背をもたれてしみじみと語りだした。 「友人からはギャップがあると言われることが多くてな。友人曰く、容姿や華やかな経歴の一方で私生活がぐちゃぐちゃだと。俺は生活能力の無い男らしい……。期待を裏切ってしまったのならすまない」  その友人は的を射ることを言っているようだ。桜はどこか哀愁じみた目で遠くを見つめている真柴を見て「なんだこの人。天然なのか……?」とドン引きではなくツボをつくような面白さを感じていた。 「そこで、だ。以前話したように桜には俺の抱き枕兼ハウスキーパーの仕事を頼みたいと思っている。俺は見ての通り家事があまり得意ではなくてな……。そこで3つのルールを桜に守ってほしい」 「3つのルール?」  桜が繰り返すと真柴は恐ろしく華奢な指を3本立てて丁寧にルールを教えてくれた。 「1つ。俺が睡眠をとるときは抱き枕として添い寝をすること。2つ。ハウスキーパーとして家事をすること。3つ。困った時はいつでも俺に相談すること」  なんか面白い組み合わせのルールだな。  桜は提示されたルールを頭に入れながら、ふむふむと頷く。 「問題ないか?」  真柴の問いに桜は大きく頷く。 「うん。問題ない。俺、家事得意だし。ひいらぎ荘でも家事は一通りやってて皆から頼られてたし」  桜の返答に真柴はわかりやすく安堵していた。

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