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第60話 抱き心地Sランク

「ん……」  窓辺から差し込む朝日に頬を照らされて目が覚めた。桜はしょぼしょぼする目を軽くこすってから、自分の状態にはっと意識を向ける。  ぎゅーっと真柴に抱きしめられている。  あれ、なんか昨日寝る時はやんわりハグだったのに今はぎゅーって感じで強くハグされてる……。  動いたら真柴を起こしてしまいそうなので、なるべく息をひそめて身体を動かさないようにする。 「こんなにぬくぬくのベッド幸せ」  思っていたことが言葉になって出てしまったらしい。  独り言とか恥ずかしいすぎる……。  聞かれてないよな? と真柴の顔を見つめようとすれば、鼻と鼻がくっつくくらい近くにあって身体がびくっと震えてしまった。その振動に真柴の閉じられた瞼がぴくりと反応する。  数秒、そのまま目を閉じてぞもぞと桜の背中に手を回してくる。まるで抱き心地を確かめるかのように。 「ん。おはよう……」  とろん、と眠気まなこの真柴が急に幼く見えてきて桜も自然と笑顔で 「おはよう」  と返していた。  真柴はぱちくりと目を瞬かせると、あまりの至近距離に顔があることにやっと気づいたのかぱっと桜の背中から手を離してしまった。 「すまない……強く抱き締めすぎてなかったか? どこか痛いとことか……」  こんなに困り眉でわたわた慌ててる真柴さん見るの初めてかも。  桜はなんだか得した気分になり、自分からも真柴をいじってみてその反応を確かめることにした。 「まあ俺寝てたからわかんないし。それよりさ、やっぱりいいの? 俺の抱き心地」  桜の素朴な疑問に真柴は頬を少し紅くしてからこくんと頷いた。それを見てたまらなく嬉しくなる。 「よく眠れた?」 「ああ。疲れが取れた」  なんか役に立ててるかも、俺。 「抱き枕の抱き心地レベルでいったらどれくらい?」  少し意地悪してやろう。  桜は畳み掛けるように真柴に問いかける。すると少し間が空いてから 「抱き心地Sランクだ」  と微笑みを浮かべた。 「ふっ、ふーん」  桜は堂々と恥ずかしがりもせずに答える真柴の反応が予想と違って動揺してしまった。  てっきり真柴はまたわたわたして困って言葉が上手く出てこないパターンを想像してたのに。  こうもはっきり言われると聞いた俺のほうが恥ずい。  真柴は軽く伸びをしてから枕や毛布を整え始めた。桜も手伝おうとしたがその手をやんわりと押さえ込まれる。桜の手のひらに真柴の無骨でごつごつとした細い指が重ねられた。  そんな些細な触れ合いでさえ、桜の心音を早めるのに効果抜群だった。 「俺は今日は午前中からCDジャケットの撮影に呼ばれている。帰ってくるのは夜になるだろう。帰宅したらすぐ寝るつもりだから抱き枕さんは俺が帰ってくるのを起きてて待っていてくれると有難い」  「抱き枕さん」のワードは桜を指しているのだと気づいた途端、顔に熱が集まってしまいぼふんと勢いよく毛布を頭から被って隠した。 「いってらっしゃい」  恥ずかしさを気遣いの良さで上書きするために桜は真柴の顔を見ず送り出す。 「ああ。行ってくる。いい子で待っているんだぞ」  真柴はくすくす笑い声を残して仕事へと向かっていってしまった。桜はまだ寝足りないのもあり、そのまま3時間ほど2度寝をしてしまった。  真柴さん専属の抱き枕は俺の天職かもしれない。  そう思えてくるくらいに満ち足りた思いを感じていた。

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