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第63話 2人で夕食を囲むひととき

「……」  すると真柴は桜の手のひらにその白い猫のぬいぐるみを優しく乗せてきた。  まあよくよく見れば俺に似て可愛いいかもしれない。 「さっき玄関で持っていた袋にはこの子を入れていたんだ。俺の手から桜に渡したくて。それに『おかえり』って言われることに慣れなくて……年上なのに上手く立ち回れなくてすまない」  少し目元に翳りを見せる真柴に桜は首を横に勢いよく振って否定する。 「そんなことないっ。真柴さんは俺から見たら大人だし、余裕あるし、スマートだし……それにこの子ありがとう。俺にくれて」  うわ。めちゃくちゃ恥ずかしい。お礼言うのってこんなに緊張するっけ……。  真柴の反応が怖くて薄目で見ていたら、ぽすぽすと後頭部を手で撫でられてしまった。  ん? 今よしよしされた?  真柴は特にすごい笑顔とかではなかったけど、機嫌が良さそうだ。軽い足取りでキッチンに置いてある小皿や取り皿をダイニングテーブルに用意し始める。  なんだったんだ。今の。  真柴の不思議な行動にはてなを浮かべながら、用意しておいた夕食を2人で食べることにした。 「いただきます」  と真柴が行儀よく手を合わせる。桜もそれにならうように手を合わせて 「いただきます……」  と口にした。 「……すごく野菜尽くしだな。久しぶりにこんなにたくさんの野菜を見た」  ほうれん草の胡麻和えとブロッコリーのマヨ炒めを口に運びながら真柴はしみじみと呟く。  冷凍の野菜は使いやすくて便利だ。桜もひいらぎ荘で暮らしていた時はよくお世話になったものだ。 「野菜はミネラルとビタミンが豊富だから定期的に食べたほうが睡眠の質が上がるらしい」  夕食を作る時にスマホで調べた内容を、さも元から知っていたかのように話してみれば真柴は感心しながら頷いてくれた。 「完璧なハウスキーパーだな」  ミックスベジタブルを使ったピラフをれんげにすくって口にする真柴は目を細めて桜を見つめた。 「ピラフ、しょっぱくない?」  同居人ゆえ味覚の一致に努めたい桜はそう聞いてみる。 「ちょうどいい塩気で美味い。桜の料理は薄味で食べやすいから、このままの味わいだと助かる」 「よかった」  薄味を好むタイプなら桜の味覚と一致して作りやすい。自分のお皿に載せたピラフを一口頬張ればほんのり優しい味わいに食欲が刺激された。 「ごちそうさま」  真柴が両手を合わせて呟く。桜も完食したところで同じく手を合わせた。 「ごちそうさま。はー。食った食った」  少しぽんぽこりんになったお腹をさすっていると、真柴が食器を片付けてくれる。 「そのまま少しお腹の休憩をしていたほうがいいな。座っていろ」 「ありがと」  真柴の気遣いに甘えることにして、ダイニングテーブルの上にある食器をキッチンに下げてもらった。 「じゃあさっき見ていたドラマを見るか」  30分休憩して皿洗いを終えた桜に真柴が声をかける。桜は少し考えてから返事を返した。 「俺も風呂に入ってくる。今日はさくっと浸かりたい気分だから30分くらいしたら出るよ。その間、ドラマの冒頭から30分まで先に見てて」 「……ああ。わかった」  真柴をリビングに残し桜はさくっとシャワーを浴びて風呂に浸かる。しばらくのほほんとしていたらあることに気づいた。  なんか甘い匂いがする。これ、入浴剤か?  真柴が先に風呂に入ったはずだ。桜は湯船のお湯がほんのり乳白色なのを見て手のひらに掬ってみる。そのまますんすんと匂いを確かめたらアプリコットムスクの匂いだと気づいた。  香水ほど強くなく甘すぎないほんのり薫る入浴剤に気分も落ち着いてくる。あまりのんびりしていたら逆上せそうなので15分でお湯から上がることにした。

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