64 / 70
第64話 写真たての中身
「風呂、もういいのか?」
「うん。長すぎると今日は暑くて逆上せそうになるから」
ドライヤーをすました桜はテレビの前のソファで腰掛けている真柴の隣に座った。自然と距離が縮まりお互い高身長なので肩と肩がくっつきそうだ。
「どの辺まで見た?」
「ちょうど30分くらいだ。この続きからなら一緒に見れるか?」
「うん」
リモコンの再生ボタンを押した真柴の手に自然と目がいく。
なんか男らしくてごつごつ骨ばってて、華奢な指なんだよな。
ドラマに集中したいのになぜだか隣にいる真柴の息を吸う音や吐く音に敏感になり、内容が全然入ってこない。初回放送の第1話の後半なんて目玉のシーンがあるはずなのに。いまいちどんな話かわからないまま第1話を見終えた。
「もう22時か。そろそろ寝るか」
「……うん」
ソファの小さなクッションを膝の上で抱きしめたまま真柴を見つめると、向こうが少し視線をずらす。それが気になっていると、真柴が観念したように桜の胸元を指さした。
「胸、見えそうだ」
「へ?」
今日はぺらぺらの薄い白Tシャツを着ていた。お風呂上がりの桜の身体にTシャツがぴたりと張り付いている。数年近くこのTシャツを愛用していたので生地が薄くなっているのだろう。自分の胸元を見てみたら、桃色の胸の突起がぷくっと目立って今にも透けそうになっていた。
「あっ」
え、めっちゃ恥ずいんだけど。
「きっ、着替えてくる!」
桜は顔面を真っ赤にして自分の部屋に替えの服を取りに行った。
やば。全然気にしてなかったけどそりゃ目立つよな。
白いTシャツを脱いで今度は黒いTシャツに替えた。真柴は桜に個室を与えていた。8畳の広い洋室だ。
『空いているのが8畳の洋室だが平気か?』
そう気にかけてくれた初日の優しさを忘れない。8畳なんて広い部屋、嫌なわけがない。
キャリーケース2つ分の荷物なら全くスペース的に問題がないのだ。
「お待たせ」
リビングに戻ると真柴はパソコンを立ち上げて何か仕事をしているように見えた。
珍しい。眼鏡かけてる。
真柴の眼鏡姿を見るのは初めてだった。
ブルーライトカット用の眼鏡かな?
黒縁の細いメタリック眼鏡。真柴の知的な雰囲気にぴったりだ。桜が声をかけるとすぐにパソコンを閉じて脇に抱え、寝室に向かって歩き始めた。それについていく。
「先にベッドに入っていてくれ」
仕事部屋にパソコンを置きにいくらしい。桜は頷いてから寝室に足を踏み入れた。そこで部屋をぐるりと見渡してみる。
ラグジュアリーホテルみたいにホテルライクな白と灰色の部屋。白いブラインドが窓にかかっているのが部屋のアクセントになっている。
桜は昨日部屋の中で見つけた写真たてに目を向けた。やはり倒れたままだ。真柴がまだ来る様子ではない。
ここまできて、見るか見ないかに迷う。桜はおそるおそる手を伸ばした。
本当はいけないことだとわかってるけど……。
写真たての角をつかんで立てかけた。そこには国旗の写真が飾られていた。人は写っていない。
初めて見る国旗だったのでどこの国のものかはわからない。
桜はそっと写真たてを元の置き方に戻した。写真が見えないように伏せる。てっきり写真には人が写っていると思い込んでいたばかりに拍子抜けしたのだ。
「……なんの国旗なんだろ」
「何してるんだ」
「わっ」
ちょうどその時、音もなく真柴が姿を現した。桜が気配に気づかなかった。そのくらい写真たてに全神経を集中していたらしい。
「な、なんでもない。改めて見るとすごいお洒落なインテリアだなと思って」
桜の嘘を真柴は特に疑う素振りはない。ベッドに腰掛けると桜の肘を柔らかく掴む。
「そうか。なら今度インテリアショップでも見に行くか」
「やっぱりこだわってるんだ」
「まあな。数少ない俺の趣味のひとつだ。桜の部屋にも家具は必要だろう?」
「えっ。いいの?」
家具を買ってくれる流れになりそうで慌てて確認すると真柴はこくんと頷く。
「自分の部屋でゆっくり休むのも仕事のうちだからな。ちょうど明日は仕事は休みだから見に行くか」
「うん。……行ってみたい」
「そうか。なら今夜はもう寝てしまおう。俺は11時に家を出るように準備しておく。桜もそれに合わせてくれ」
「うん。わかった」
そのまま桜は真柴に毛布にくるまれて抱き寄せられる。
「おやすみ」
「……うん。おやすみ」
くしゃりと真柴が桜の前髪を指で梳く。おでこに真柴の熱が触れてふわふわとした気持ちになる。穏やかな寝息を聴きながら桜も目を閉じる。
写真たてに入っていた国旗の写真が眠りにつく間も忘れられなかった。
ともだちにシェアしよう!

