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第78話 太陽の夢─帯人との思い出─(side 真柴)

「睦月。桜の見頃っていつだと思う?」 「んー、満開のときかな」 「そう言うと思った」 「違うの?」 「まあこれは僕の持論なんだけど」  帯人は空に浮かぶ太陽を指さした。 「太陽の下で咲く桜なら、いつでも見頃だよ」 「えー。その答えなんかずるい」  俺はほっぺたを膨らませて抗議する。  そして何か思いついて俺も空を指さした。 「俺は太陽よりも月の下で咲く桜が綺麗だと思うなあ」  それを聞いて、帯人は俺の頭を撫でた。  その手が大きくてあたたかくて、ずっと撫でてもらいたいと思った。 「月も悪くないけどさ。僕、月の下の桜はちょっと悲しそうに見えるんだ」 「悲しそう……?」 「そう。なんとなく儚く感じて」 「……儚い」 「睦月にはまだ難しいかな?」 「そんなことないよ! 俺もう高校生になったし」 「僕からしたら高校生はまだ子どもだよ」  そう言うと帯人は人差し指で俺のほっぺをつつく。 「やめてよー」 「ごめんごめん。睦月がかわいいから」  ──かわいいから。  その言葉を聞いて俺は耳まで赤くする。それを帯人に見られたくなくて、慌てて背を向けた。その様子を帯人がくすくす笑っていることなど気付かずに。  ごろん、と寝がりを打った時、夢から現実へと引き戻された。 「……またあの夢か」  身体を起こして大きく伸びをする。  スマホで時間を確認すると、ちょうど夕方の4時だった。階段を降りて先生の元へと急ぐ。 「先生、おはようございます」 「おはよう。よく眠れたかのう?」 「ええ。いつもよりは」  先生はハーブティーをすすりながら言った。 「友達追い返してよかったんか?」  俺は着ていたスウェットの裾をぎゅっと握る。 「今の俺には、会ってほしくなかったから」 「そうか。とりあえず仕事はやってもらうぞ」 「はい。もちろんです。今日もよろしくお願いします」

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